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幸せに恐縮してしまう

恐縮です、という日本語は、ほんとうに便利だと思う。
今までそう使ってこなかった言葉だったけれど、使ってみるとなんて便利な言葉なのだろう。

【恐縮】恐縮とは、ありがたく、また申し訳なく、
あるいは気恥ずかしく思って、身のすくむような
気持ちになることを意味する言葉。


誰かにプレゼントをするのが好きだ。選ぶのも、渡す瞬間も同じくらい好き。サプライズだって、その人がそういう類のことを好むというのであればやりたいとすら思う。

だけど、誰かにプレゼントをされたりサプライズされたりするのが、実はあまり得意ではない。好きは好きだ。勿論とても嬉しい。でも得意とは言い難い。
それはたぶん、誰かが汗水垂らして働いて得たお金や自由に使える時間を自分に使ってくれることに申し訳なさを感じてしまうから。

だから、「あなたの誕生日、どこかちょっといいホテルに泊まるっていうのはどう?」と恋人から送られてきた提案LINEを通知画面で読んで、わたしはつい手足をジタバタさせて家の中を動き回ってしまった。そのまますぐにお返事をせずに閉じてしまったのもわたしである。

彼の名誉のために念のため言っておくと、これは決して嫌なことではない。寧ろとびきり嬉しいことであり、ほんとうにほんとうに!!!!!沢山エクスクラメーションマークを付けるくらいには有難いのだ。

3月29日なんていう、なんの特徴も無い平日に有休を取ってくれるらしい。自分の誕生日は「ただの平日だから」と若干体調が悪くても至って普通に仕事をしていたというのに。

とはいえ、そんなことは無いと思ってわたしは親友とすでに予定を入れてしまっていたので、28日にデートをして、都内のホテルに泊まることになった。つまり、ただわたしと24歳になる瞬間の夜を過ごすためだけに彼は休みを取ってくれるのだ。しかもいつもと違う週末にしようとしてくれているらしい。なんてことだ。ありがたすぎる。


ただ主役の人生を歩き慣れていない人間からすると、なんというか、そんな人生イベントは眩しすぎた。そう、眩しすぎたのである。


あたしには幸せの限界があんの、と、大好きな映画でヒロインは言っていたのを思い出した。長い長い独白なのだけれど、好きなので引用する。


「あたしには幸せの限界があんの。もうこれ以上無理っていう限界。多分そこらの誰よりもその限界が来るのが早いの。ありんこより速いんだ。その限界がね。
だってさ、この世界はさ、ホントは幸せだらけなんだよ。みんながよくしてくれるんだ。
宅配便のおやじはさ、私がここって言ったところまで重たい荷物運んでくれるしさ。雨の日に知らない人が傘くれたこともあったよ。」
「でもさ、そんな簡単に幸せが手に入ったら、あたし壊れるから。だからせめてお金払って買うのが楽。お金ってさ、多分そのためにあるんだよ、きっと。人の真心とかさ、やさしさとかがさ、そんなはっきりくっきり見えちゃったらさ、もうありがたくてありがたくてさ、みんな壊れちゃうよ。

映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」より


初めてこの映画を観たときは、彼女の言葉がよく分からなかった。なんなら、はじめてエンドロールを見送ったときは、この映画の意味すらあまりよく分かっていなかった。けれど、まだ若いなりに歳を重ねてみてやっと気付けたことが幾つもある。わたしにも幸せの限界がある。すべての人はそうでないのかもしれない。けれどわたしや、そのほか誰かにも。

だってお金を稼ぐことがどれだけ大変か知っているから。時間がどれほど有限か知っているから。
だからこそ好きな人に惜しみなく時間もお金もかけたいと思う。でも、それは自身が贈る側から受け取る側になれば話は別だ。

だれかが自分のために使ってくれるお金や、時間に対して賃金が払えたらどれほどいいだろう。もちろんそんなことは誰も望んでいないだろうし、実際にする訳ではないけれど。
でも、それだけ自分にプライスレスの価値を見出してくれていることが、嬉しくて申し訳なくて…そう、恐縮してしまう。


このあいだ、ご飯を食べているときにもわたしの誕生日の話が出たので、彼に聞いた。

「でも、本当にいいの?だってあなた、自分の誕生日は普通の平日だからって働いてたじゃん」

「もちろん。そりゃ自分のよりあなたの誕生日のほうがプライオリティ高いでしょ」

「うっ、ありがとう」

「お楽しみに」

「ありがとうございます…」


やさしさに、幸せに恐縮してしまう。でも、彼みたいに「お楽しみに」「期待してて」と自信を持って相手に厚意を向けられる人になりたい。ごめん…と思われるより、嬉しい!ありがとう!と手放しで喜んでくれるほうが、わたしだって嬉しいと思うから。

28日はとびきりお洒落していこう。

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