【まくら✖ざぶとん】⑦『目に胼胝』
さて、死にぞこなったのか死に底あったのかはわからねえが、前回のまくらの続きよ続きも続編よ。
我が長屋の万年床でそば屋のせがれが本格的に寝入ってから夜が明けて朝が過ぎようかって頃、
「いやーよく寝たぜ」
奴さんが起き出したら、入れ替わりにこっちが床に入る。
バタバタ音を立てて仕事に出かけるそば屋のせがれを横目に、さあやっと眠れるぜ、と布団かぶって目を閉じたところで、慌ただしくドタバタ戻ってきたと思えばなにやらガサゴソしてるのを、やれやれ、いったいなんだってんだ。布団から半身起こして見りゃ、こっちに向かって一言、
「耳、忘れた」
聞き捨てならねぇその台詞はまさに寝耳に水、耳たぁ初めて聞く忘れ物よ。
「あった、あった」
ようやく見つけたのは、イヤホンだった。
「イヤホンが耳とはよ」
呆れるようにつぶやいてみりゃ、地獄耳だかなんだか知らねぇが、
「『コンタクト(レンズ)』のことも『目』っつーだろ」
コンタクトは装着すれば眼球と一体化して目そのものになってるんだから、「目」と呼んだって差し支えねぇだろう。だがイヤホンを「耳」と呼ぶにゃ、特定の音を聴く前に自然音をそっくり遮っちまってんのが差し障る。
そもそも目につけるものを目、耳につけるものを耳っつーんならあれかい、それなら指輪も指かい、なんならコンドームのこともムスコ呼ばわりしなきゃならねぇだろうよ、みみっちいそば屋のせがれの耳の穴をかっぽじらせて耳が痛くなるほど説教を喰らわせたところで馬の耳に念仏、♪ちゃらちゃっちゃっちゃらっちゃ~♪とムーディーな音楽とともに右耳から左耳に受け流されるだけで、聞く耳も持っちゃくれねぇだろう。
という感じでまあ、このまくら、いったいぜんたいなかなか読者が増えねぇもんで、年はじめの繁盛祈願とばかりに耳ではなく目に胼胝(たこ)ができるくらい耳目を集めに集めてみたんだが、耳ヨリでもなんでもねぇ聞いて呆れる話に耳を傾けてもらったついでに、このまくらの売りたるや耳では聴かずに目で読む落語だっつーところで、おかしなもん書いてやがら、と一耳、じゃねえや、一目でも置いてくれたら御の字よ。
肝心なのはざぶとんのほうで、どうだい、今日は手品ってことにして、ほら、目と耳合わせて見事に33個あんだろ?ってことにしたところで誰も数えてくれやしねぇだろうからよ、じゃ、なんだ、どうやって座布団もらうかっつったらよ、久しぶりに謎かけ、だ。
あらいやだ!と耳よりも目ばかりに頼る家政婦(子持ち)とかけて、
甥っ子(六つ)の暗号めいたひらがな練習帳と解く。
その心は、
まま はほ めぬ きき みみ わね
お後がよろしくって、ってか!