マガジンのカバー画像

1995年のバックパッカー 

32
1995年。写真家の藤代冥砂は突然仕事を辞め無職となって世界一周無期限の旅に出た。27歳。当時新進カメラマンとしてミスチルのCDジャケットを撮影するなど注目されていたが、約束され…
運営しているクリエイター

2024年11月の記事一覧

1995年のバックパッカー#32 カンボジアーベトナム 陸路で国境を越えること、その楽しさ、サイゴンの響き。

1995年のバックパッカー#32 カンボジアーベトナム 陸路で国境を越えること、その楽しさ、サイゴンの響き。

8月4日の日記の最後には、午後には雨が降ったこと、夕食を近くのインドレストランで食べたこと、そこでマイクタイソンが負けた試合を見たこと、が記されている。場所は東京ドームだ。
おそらく僕は、それらを遠い遠い星での出来事のように感じたに違いない。昼間に内戦による負の遺産を巡った後の動揺も収まらないままマイクタイソンがノックアウトされるシーンを眺め、どちらにも現実味を感じられないまま、浮遊感に包まれてい

もっとみる
1995年のバックパッカー#31 カンボジア2 シェムリアップープノンペン たまにはちゃんと考えた。

1995年のバックパッカー#31 カンボジア2 シェムリアップープノンペン たまにはちゃんと考えた。

アンコール遺跡群からの帰り道、森の道が終わり、シェムリアップの町に入ってすぐの広場で、ムエタイの野試合が開催されていた。夕暮れの空の下、その素っ気ない四角いリングは、日本の盆踊りの櫓と重なった。
シェムリアップの、屋根もない広場でのムエタイは、本場バンコクのルンピニースタジアムとは規模も内容も雲泥の差があるが、そこにはメコンの田舎興行の長閑さがあって、別物として十分楽しめた。
選手は概ね小柄であり

もっとみる
1995年のバックパッカー#30 カンボジア1 シェムリアプ アンコールワット見参。そして山盛りガンジャ。

1995年のバックパッカー#30 カンボジア1 シェムリアプ アンコールワット見参。そして山盛りガンジャ。

早朝6時半に、キャピトールホテルをタクシーで出発した。

ぐっすりと眠れたので、目覚めは良く、田舎道を進む景色が眩く感じられた。

朝というものは希望に満ちてしまうものらしい。東南アジアを旅するバックパッカーたちに恐れられていたカンボジアのプノンペンですら、清らかで穏やかな空気に包まれていた。僕はその清々しい情景をタクシーの窓越しに眺めながら、なんともいえない安らぎを感じていた。

道ははそれほど

もっとみる