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デンマークの“にぎやかな”自分探し

人は誰しも、自分の生き方に迷う時がある。
そんな時、私たちは自分の内側へ内側へと意識を向け、自分ととことん向き合うことを選ぶ。

もし、それでもあなたが「自分らしい生き方」に迷うなら、私がデンマークで学んだこのもうひとつの方法を試してみてほしい。

きっとあなたの知らない新しい答えが、そこにある。


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「なんだか最近、自分らしく働けていない気がするな……」


怒涛に忙しい日々を越え、ぽっかりと空いたスケジュールの中で感じた小さな違和感。


あれ、私の走ってる方向はこっちでよかったんだっけ。
私は今の仕事のやり方で、自分をちゃんと社会に還元できているんだろうか。


そして、気がつけば夢中になっていたはずの学びや作業の手が止まるようになった。


小さい頃から人間関係がうまくいかず、その原因をさぐるため、散々自分研究と周りの人の観察をしてきた私は、自分の取り扱い説明書を、誰よりも理解していると思っていた。


なのに、どうにも手が動かない。
体が重い。
余計な思考が邪魔をする。


ああこれは一度立ち止まって、自分を整理整頓するべき時期なのだ、と気がついた。


さてどうしたものか、と天を仰いだその時、ふと、デンマーク在住時代に出会ったある男性の言葉が頭をよぎった。


「アジアでは自分探しと言うと、山に籠って精神修行とか、自分との対話とかそんなイメージがあるだろう? デンマークでは逆で、他人との共同生活の中に身を置いて、他人との摩擦や意見交換の中で、自分というものを見つけていくんだ」


彼はデンマークにあるエフタスコーレ協会で働いていたスーネさん。デンマークにおけるキャリア教育についてインタビューをする中でこの言葉を聞いた。エフタスコーレとは14歳から18歳までの子供を対象とした全寮制の私立学校の一種で、高校以降の進路や人間関係に悩む子供たちなどが、環境を変えたり自分の可能性を試したりするために通う。デンマーク独自の教育システムのひとつである。


"自分を知りたい時にこそ、他人との摩擦のある環境へ飛び込む"


とは、なんとも個の創造性と社会性を同時に重んじるデンマーク人らしい考え方ではないか。私は当時、デンマークに着いてからずっと感じていた "個を尊重する文化と調和や社会性を重んじる文化は一体どうやって共存させられるのだろうか" という謎の答えへのヒントを、彼の言葉の中に見出せた気がした。


少なくともこの言葉を聞くまでの私は、自分を見失っている状態で他者の中へ入っていくことはまずためらっていただろうなと思う。なぜなら、もし自分がそうしたならば、他人に流されてより自分自身を見失いそうになると考えていたからである。


しかしスーネさんの言葉の中には、はっきりと「摩擦」という言葉があった。そう、彼らはただ他人に合わせたりすることはしないのだ。他人と自分との間に違いを見つけ、観察し、自分と他人との間にある自分を形作る境界線を認識していく。そして同時に対話を通して、境界線の内側と外側との間に、ちゃんと橋をかけていく。それによって、自分という個を保ちつつ、他人(社会)に繋がる方法を見つけていくのである


そこで大切なのは、違いを恐れず、関心と敬意を持ってその違いを観察し、対話という手法を通して理解していくことだ。考えが同じである場合よりも、違うと場合の方がよりたくさんのことを話す必要が出てくるだろう。だからこそより深くその人を知ることができるし、同時に自分が気づかなかった一面に気づかせてもらうこともできる。


“自分らしさの答えは、自分の中にある。”


もちろんこれもまた真実で、やはり自分自身との対話も必要不可欠であると思う。ただ、もし今、自分らしく生きることや、自分のキャリアなどに迷い、「自分らしさとはなんだろう?」と自分探しの旅を始めようとされる方がいるならば、あえて私はこう伝えたい。

【自分らしさの答えは、自分と他者(社会)との境界にこそある】


この世にもし自分ひとりしかいなかったら、「自分らしさ」など考える意味なんてきっとない。他者がいてこその自分。だからあえて他者の中に飛び込み、そこで自分と相手とを観察することが大切なのだと思う。自分と違う考えを持つかもしれない人たちと共に時間を過ごすことは勇気がいることだけど、きっとその出会いは自分も他人も知らない未知の扉をノックしてくれるに違いない。


だから私も勇気を出して、多様な関わりの中に身を投じてみようと思う。さてそこでどんな知らない自分に気づき、新しい扉が開くだろうか。


きっと「自分探し」の旅には終点などはないのだろう。
でもきっとそれでいいし、それがいい。
その旅路そのものを楽しんでいこうと、そんな風に心から思えた。


ふむ。明日もまた新しい誰かとの対話が楽しみだ。
不思議と体が軽くなるのを感じた。


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