全然乙女チックじゃないけどオトメチックな話
数十年前の話になりますが、大学の卒業旅行と称して、タイのバンコクとプーケットを巡るツアーに友人二人と参加しました。
今回はプーケットでビーチリゾートを楽しんだ時の話をしたいと思います。
私にとっては初の海外旅行ということもあり、少々興奮気味でしたが、それを差し引いても有り余るほどプーケットの海はとても綺麗でした。
そして「微笑みの国」と言うだけあって笑顔で明るい人が多いように思えます。
人懐っこい子供達が缶ジュースをビーチで売り歩いており、その子達とムエタイ(タイ式キックボクシング)ごっこをしてじゃれあっていると、マリンアクティビティのスタッフとおぼしき青年が「オニイサン、バナナボート、ジェットスキー、ドウデスカ?」と話しかけてきました。
めちゃくちゃ陽気な青年で、名前を聞いたのですが忘れてしまったので、ここでは仮にP君とします。
P君とその他スタッフとお互いに片言の英語と日本語を交えて、何だかんだ会話をしていると、P君が「ナニカニッポンノギャグヲオシエテクダサイ、ニッポンノオンナノコニウケタイデス」と言ってきました。
独特の言い回しではあるけど日本語をなかなか上手く話すので、「どうしてそんなに日本語を話せるのか」と尋ねると、日本人観光客との会話で教えてもらい少しずつ身に付けきたと言います。大したもんだ。
友人の一人が「じゃあ、日本で流行ってるギャグを教えるね」と言って、「ヤー!」と「ワキアイアイ」を伝授しました。なんでダチョウ倶楽部やねん!
P君と私達三人で「ヤー!」と「ワキアイアイ」をひとしきり練習した後、「四人そろってワキアイアイ」で締めくくりました。
そんなこんなで、P君のすすめもあり、ジェットスキーを体験することになり、ジェットスキー停泊場所まで案内してもらいました。
停泊場所に到着すると、P君は停めてあるジェットスキーに向かって「ヤー!」と両腕を突き出し、「コレニワタシタチスタッフトイッショニノリマス。トチュウデ、スコシウンテンデキマスヨ」と言いました。まあこんな「ヤー!」の使い方もありやろ。
私達三人は顔を見合わせて「運転けっこう難しそうやな」と話していると、おもむろにP君が「オトメチック!」と私達に言ってきました。
私達「乙女チック!?」
P君「イエス!オトメチック!」
私達「ジェットスキーのどこが乙女チックなん?この流線形のボディが何となく乙女チックなんか?」
P君ニコニコ笑顔で「ダカラ、カンタン」
私達「だから簡単?乙女チックだから簡単?」
そう、英語に関してはP君も私達も片言、私達においてはスピーキングもヒアリングも大してできません。
彼の言葉「オトメチック」が私達には「乙女チック」にしか聞きとれなかったのです。
察しの良い皆さんはもうお分かりですよね。
順番にスタッフとジェットスキーに乗り、沖へと出発しました。
初めはスタッフの後ろに乗って、海上をグルグル回っていましたが、途中で少しだけ運転しても良いということで、前後交代して、私が前、スタッフが後ろとなりまりした。
アクセルをひねった時にハッと気付いたのです。
「さっきP君がオトメチックと言っていたのはオートマチックだったんじゃ...」
十数分程度、ジェットスキーを楽しんだ後、停泊場所に帰還。
停泊場所で三人そろった時に発した言葉は「ワキアイアイ」ではなくて...「オートマチック!」でした。
後日談として...
タイ旅行から数年後、一緒にタイ旅行に行った友人の知り合いがプーケットへ行った時、P君と言う人物がビーチで両腕を突き出しながら「ヤー!」と声をかけてきたそうです。その話を聞いた友人は「えっP君!」と驚いたそうです。P君は元気にしており、友人が伝授したダチョウ倶楽部さんのギャグは遠くプーケットの地で、まだ息づいていました。