素人が源氏物語を読む~空蟬と夕顔(3)2人のプレイスタイル編
いずれのおほんときにか、という有名な書出しで始まる「桐壺」では、そんなに書きたいこと無かったんでまだ書いてないんですが、帚木3帖はまだまだ書きたいことがあります。
「貴族って優雅で風流なだけじゃなくて、しびれるほど怖い緊張感ありありの関係性なのね! あっちも、こっちもバチバチのドロドロよぉ」とか、
「紫式部先生って、びろうで滑稽なことも時々書くんですね!」とか、
「ホモソーシャルを意識しての恋って
昔っからあったんだ……」とか。
あるいは、夕顔の和歌って光って潤っていて、なんとなくエロスな雰囲気じゃない? とか。
まァ、このペースで同じところで書いていると読み終わる気がしないので、帚木・空蟬・夕顔はこの次の記事の「想像編」でいったんおしまいにします。
それではよろしかったら、ひとときお付き合いくださいませ。若い日の光源氏に愛された2人の中流女子、空蟬と夕顔、それぞれの恋の仕方、見ていきましょう。
■■恋愛遍歴■■
【空蟬】
・パパの身分が高かったから、帝の妃のうちの1人になっても不思議ではない身の上だった。
・パパが死んで、生活のために身分の低い伊予の介(いよのすけ)という老人と結婚した。老人は空蟬のことを大事にしてくれている。
【夕顔】
・15歳の頃、頭中将(とうのちゅうじょう)がこっそりと途絶えがちに通うようになった。彼はもともとは長く添い遂げる気はなかった。いまの感覚からすると、キープされてるのか、仕事で忙しくてるのか、判断を悩むところです。
・でも、久しぶりに会いに行っても嫌な感じを出さずに馴染みの男を迎えるように迎えてくれる。そんないじらしさにほだされて頭中将は夕顔を長く世話をしたくなり、夕顔も頼りにするようになった。間があいてもウェルカムな態度っていうところは、花散里っていう色気は無いけど癒し系なお姉さんと似てます。
・とは言いつつも、夕顔が怒らないし拗ねないから、頭中将は放置プレイしがちです。
・16歳で妊娠して、17歳の春に頭中将との娘を出産します。
・18歳の秋に、頭中将の正妻から夕顔に呪詛がかけられます。実際にかけるのは専門職の方なのでしょうが……。夕顔のとこには頻繁に通ってないけど呪詛かけられるって、正妻が嫉妬深かったんですかね。あるいは別の女を隠すためのカモフラージュにされちゃったんですか。それとも正妻が怒るのも当然ってくらいドハマリしてたのを男性同士だから嘘ついたのか。謎です。おとなしいタイプだったらトラウマもんかもしれませんね。
・夕顔から頭中将へ、撫子の花を添えた和歌を送る。「時々は私たちの子をお心にかけてくださいね」
・和歌に反応して頭中将が夕顔に会いに来る。優しく迎えてくれるが沈んだ雰囲気の夕顔。「秋が来て、あなたもわたしに飽きがきたのね」。とはいえそんなに恨まれてる感じでもなかった。2人が会ったのはこれが最後。
・頭中将からしたら、その後夕顔は失踪した。
■■悩み■■
【空蟬】
・弟の将来
・今の自分の身分が不満
・パパが生きてる頃なら光源氏とだって楽しく恋できたのに
・光源氏とは今の自分は釣り合わない
・運命の巡り合わせの悪さ
【夕顔】
・別居している娘がいる
・頭中将を頼りたい
・彼の正妻から呪詛をかけられたら
・ほんとは山に住みたかった
■■光源氏とのコミュニケーション■■
【空蟬】
・方違え先には女がたくさんいるのに「1人で寝なくちゃいけないなんて、やってられないヨォ」と目が冴えちゃう光源氏。え、方違えって、そういうサービスがあるのが当たり前なんですか? 光源氏さんは勘違いしてますか? 現代の感覚からしたらドン引きですが、平安スタンダードが分からないので判定は保留です。ま、この辺は、思うがままにならないフラストレーションの前奏曲になってるのかもしれません。紫式部先生はすごい。
・女のいない夜なんて無理、と起き出してウロウロして、女の気配がする辺りで立ち聞きする光源氏。客人に夜中に嗅ぎ回られるのってイヤですけどねぇ。帝の息子だから許されるのか、平安時代ってこんなものなのか。ここも謎です。
・光源氏が聞いたのは「光源氏様をお見かけしたら、お美しかったですよ」「私も見たかったわ(棒読み)」と言ったきり寝ようとする女の声。「俺のこと、もっと気にしてくれよ!」と物足りなく思う光源氏。
・そして光源氏は空蟬の部屋に入って一晩中口説く。空蟬は反撃します「人違いですよ」「身分が低いからって侮るのはお気持ちの浅さと思われます。からかうのはやめて」 嫌がってるのは態度や表情にも出てます。
・が、そこは光源氏です。朝が来るまでに思いを遂げてしまいます。「あのまま諦めたてたら、俺が絶対後悔したもんな」
・(すっごいイケメンに突然に激しく求愛されたい、っていうドリームを持つひとだったら、ここなど素敵な場面と読むのでしょうか)
・光源氏「思いがけなかったかもしれないけど、前世からの約束ってこととかにしてほしい。いつまでも沈んでられると俺もツラいから」
・(ひどい言い草に思えるのだけど。この直後に空蟬は普通に健気に応じてるので、男性ってこんな感じだったのかもしれません)
・その後も光源氏からは時々手紙が来る。空蟬は返事を書かない。空蟬は「どんなに素敵なひとから求愛されても、こっちの身分によっちゃァ、どうにもなンないわね」と思っているんです。
・光源氏から空蟬に手紙「今夜また方違えで行けるから、待ってて」
・空蟬(私は会わない。自分の意志で決めた。嫌な女って思われたっていい。決めたので。でも、やっぱりちょっと惜しいなァ) 未練はあるんです。でも恋の道を進んだ先に未来が見出だせないんでしょうね。弟っていう現実的な気掛りもありますしね。
・また別の夜。空蟬が今いる家に今は男性がいないらしい。そんな夜に光源氏が、空蟬の寝てる部屋に忍び込む。空蟬は匂いで光源氏だと気が付いてその辺の服を適当に着て、スーッと逃げる。着残した服を蟬の脱け殻みたいだと、持ち帰る光源氏。
・夕顔の死後、光源氏は病んでしまいます。そういうときに、空蟬は手紙を書く。雰囲気ある手紙のやりとりはあるんですが、デートしたい訳じゃないのです。
【夕顔】
・隠れ棲んでいる夕顔と仲間たちは、頭中将を待っている、と私は読みました。連絡はできてないようだけど、少なくとも、見つけてほしいと思っているようです。時々身分の高いひとの車が通ると誰? ってチェック入れてるので。あるいは怖いひとが来たんじゃないよね、って確かめたいのか。会わなくなって半年以上がすぎているのに、なんて頼りない暮らしぶりなんでしょう。
・光源氏が通りを眺めていると、女からメッセージが届く。「もしかして、あのお方ですか? 光を添えてくださった…」というような。
・(夕顔から頭中将へのメッセージにも露とか光とかの語が用いられています。"光"という言葉が用いられてるのは、単純に夕顔の作風かもしれませんし、かつて頭中将へ出したメッセージに寄せてるのかもしれません)
・「"光"って言ったら俺のことか。下流っぽいエリアだけど、メッセージの筆跡は悪くない感じだ」
・いつもとは違う筆跡に変えてメッセージを返す光源氏「近くで見なよ、こんな夕方に誰だかわかんないでしょ」。筆跡を偽るって、スパイか。そのうえ女好きって、ジェームズ・ボンドか。
・何故か素性を隠す2人。互いに探りを入れるが、どうにもわからない。
・光源氏は夕顔のところにくるときは、身なりもみすぼらしく変装してきます。覆面までしてる。そして覆面は外さない。変な恋人としか言いようがない。
・おうちデートが大原則の平安時代のネエチャンを外に連れ出そうとしたときの応答。「優しいことは言ってくれるけど、普通の彼氏&彼女の扱い、してくれてないもん」……断りかた、空蟬とは違いますよね。可愛すぎる。魔性なのか。あるいは、ちゃんとに断れない呪縛をかけられているのか。本人の狙いはどちらにあるのやら。
・廃屋デートのとき、光源氏はついに覆面を外して見せます。それでも夕顔は身分を明かしません。
・夕顔はもともと怖がりさんで、廃屋デートの場所のことも非常に怖がっています。そして物の怪の攻撃を受けて死亡します。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。それでは次回、空蟬と夕顔の最後の記事、素人読者の想像編です。
空蟬と夕顔(2)設定編はこちら(↓)です。
公開時のURLは https://note.com/genji_beginner/n/nde0cc705508e