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わたしが持ち帰り残業をやめたわけ

8年間勤めた会社では持ち帰り残業が常態化していた。

しかしまあ、それはわたしだけであった。上長が我々の部署に業務目標を達成しろ、と発破をかけていたが、わたし以外の人間は上長の言葉を平然と無視をしていた。上長は現場にいない人間で、現場のことは何もわかっていなかった。彼は我々に業務上の実害を及ぼすことはできず、ある意味、無視をしても問題がなかった。定期的に言葉や態度でパワハラとモラハラをやるぐらいしか、彼の仕事はなかった。

ただ、当時のわたしは青臭いところもあり、上長が作った組織の業務目標ならば、正社員であれば達成すべき目標であると素直に考えていた。だから、会社の中でも外でも残業して、土日も盆休み、年末年始の休みも返上で働いていた。それが顧客にとっての利益にもなると思っていたからだ。

そして、わたしの孤軍奮闘により、我が部署の目標は見事に達成された。しかし、同僚たちは、その恩恵に与りつつも、わたしの功績であることはガン無視だった。そりゃそうだろう。彼らは(わたしと同様に独り身の人が多数だったが)定時に帰り、婚活、妊活、旅行、趣味、飲み会、ジム、ヨガ、ピラティス、資格取得に勤しんでおり、プライベートを犠牲になどしていなかった。彼らのワークライフバランスは見事に保たれていた。わたしは組織の目標にコミットメントする素振りすら見せない彼らを軽蔑していた。ただ、今となっては、彼らの方が、正しかったのだと思う。

その後、わたしの残業時間が大問題になる。サービス残業で済ませるはずだったのに、労働基準監督署の指導が入ってしまった。実際、退勤後や土日も家で作業をしていたし、タイムカードを押した後に働いていたこともある。実際の残業時間はその倍か三倍になっていたはずだ。(ちなみにわたしが労基署にチクったわけではなく、偶然、指導の対象になったそうな)

そして、業務目標を達成しろとプレッシャーをかけてきた上長はわたしに「俺は残業してまでやれとは言っていない。俺は残業しているなんて知らなかった。社長にどう申し開きをすればいいのか。おまえが勝手にやったことで俺に責任はない」と言ってきた。お手本のように梯子を外された。わたしが出した成果は、社長に報告して自分の実績にしていたにも関わらず、このザマである。

このような上長であるから、そのほかにも多種多様なトラブルも起き、わたしは自主退職に追い込まれる。労働基準監督署にその顛末を相談したが、何もしてくれなかった。是正勧告はするけれど、その是正勧告によって起きたトラブルには関知しないらしい。(はあー、本当に誰も信じられない)労基署の指導が入らなければ、今も前職にとどまっていた可能性は高い、と実は思っている。労基署の人、ちゃんとフォローアップまでしてくださいね、という感じである。わたしの件の担当者が無能だっただけなのかもしれないが、数字だけで作業的に仕事をされても困る。その先に組織と人間関係があるのだから。

そんなこんながあり、わたしの考えは大きく変化した。

いち労働者が会社の行く末を案じて、持ち帰り残業までして仕事をするのは絶対的に間違っている。案じてもいいが、それは定時内だけにすればよろしい。人を都合よく利用する人間は、平気で人を斬り捨てる。わたしの時間は帰ってこないけれど。

厚生労働省(国)も持ち帰り残業は「労働時間」に算入したくないようである。つまり、プレッシャーをかけられて、家で仕事をして何かが起きても労災認定はされない。あくまでタイムカード内でやらないと自分の身は守れない。

国は、持ち帰り残業が現実にあることを知っているくせに、自分たちもそれに苦しんでいるくせに、見てみぬふりをすることを決めたらしい。

だったら、持ち帰り残業なんて、絶対にやってはいけない。どんなに集中ができなくてもオフィスの中で、とどまってやるしかない。在宅勤務であっても、定刻通りに終わらせた方がいい。

今の仕事では一度だけ持ち帰り残業をしてしまった。翌日のプレゼンテーションの準備が間に合わなかったので、それはいたしかたない。ただ、その三時間ぐらいだけで、オフィスを出たら、関連書籍などを読んで自主的に勉強することはあるが、作業はしない。それで、何とかこの半年間は切り抜けられた。

家でも外でも仕事だけしかしていないと、どんどん余裕が失われていく。睡眠時間が減り、食生活も乱れ、寝ても寝足りない。電車やコンビニで人を怒鳴りつけそうになったことが何度かあったし、そのときは、子どもの泣き声が、脳をつんざくような音に思え、信じられないぐらいうるさく感じた。心身が疲弊していると我慢ができなくなる、理性が働かなくなると身に染みて理解することができた。

だから、わたしは持ち帰り残業をしないし、サービス残業も、絶対にしない。長い目で見れば、この出来事は教訓として良かったのかもしれない。ただ、この一件で会社組織も上長も同僚も労働基準監督署も一切信用できなくなり、労働に対する熱は寒々しいほどに醒めてしまったことも事実。

まだ、苦々しい思い出で、まったく笑い話にはできない。裏切られたという気持ちを二度と味わないためには、自分で線引きをして境界を作っておくしかない。

まあ、組織内の流れがあり、自分の意志だけではどうにもならないこともあるが、憲法や労働法を盾にして自分を守るしかない。

組織のために頑張るのではなく、自分のためだけに頑張った方がいい。何なら、会社員は経営者ではないので、頑張らなくてもいい。業務を処理すればいいし、終わらない仕事は翌日、翌月に終わらせればいい。

渦中にいて苦しんでいる人がいたら、参考にしてもらえたらうれしい。動けば転職できるし、人生何とかなるものだ。

(この記事を書きながら怒りがぶり返し、疲れてしまった。はやく忘れなきゃ)

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佐藤芽衣
チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!

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