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#映画感想文336『ヒットマン』(2023)

映画『ヒットマン(原題:Hit Man)』を映画館で観てきた。

監督はリチャード・リンクレイター、脚本はリチャード・リンクレイター、グレン・パウエル、出演はグレン・パウエル、アドリア・アルホナ。

2023年製作、115分、アメリカ映画。

ゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は大学で哲学を教えているが、副業として警察のサポートスタッフとして働いていた。ある日、殺人依頼のおとり捜査をしていた刑事が停職となってしまい、急遽、殺し屋役を任される。依頼人が彼に「〇〇を殺してほしい」と明言し、殺し屋にお金を渡せば逮捕となる。

普段はインテリで理屈っぽく、猫を愛するゲイリーは、学生や警察から堅物扱いされている。趣味は野鳥観察で、鳥の種類や生息についても、とても詳しい。しかし、殺し屋役を演じていくうちに、彼の内面に変化が起きていく。誰かを演じていくうちに、演じただけであった人物の自我が本来の自分の領域に侵入してくるのだ。

「わたし」とは何なのか。わたしが定義する「わたし」は単なる思い込みに過ぎないのか。「本当のわたし」はどこにいるのか。いや、「わたし」なんてどこにも存在しないのかもしれない。そんな哲学的なテーマがコミカルに描かれている。人格やキャラクターは一つではない。人間関係によって、「自分」などというものは、いかようにも変化していく。

個人的には、セクシーな殺し屋より、気難しい先生のほうに親しみを感じる。メタ的に見れば、本作はグレン・パウエルの演技とキャラクターのバリエーションを鑑賞する作品でもある。役者の仕事をグレン・パウエルが演じて見せているのだ。

近年、飛ぶ鳥を落とす勢いのグレン・パウエルは、いわゆる「いい人」役が多い。トム・クルーズはスター、リチャード・ギアやブラッド・ピットは色男、ジョージ・クルーニーはちょい悪。グレン・パウエルに求められているのが、「いい人」であることは、この時代を象徴していると思う。彼自身はマッチョでセクシーなのだが、それを全面に出さないのは彼の戦略なのか、はたまた知性が邪魔をしているのか。次回作でその答え合わせができればと思っている。

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佐藤芽衣
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