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映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2020)の感想

映画館で『ゴヤの名画と優しい泥棒』を観てきた。

監督はロジャー・ミッシェル、脚本はリチャード・ビーン、クライブ・コールマン、主演はジム・ブロードベント、妻役にヘレン・ミレン、上映時間は95分、言語は英語、イギリス映画である。

原題の『The Duke』は、ゴヤの名画「ウェリントン公爵(Duke of Wellington)」からきているのだろう。

本作の主人公であるケンプトンは、無職の市民活動家である。高齢者のために公共放送(BBC)の受信料を無料にしろ、という運動を一人で、ときどき息子と一緒にやっている変わり者だ。ただ、息子がいっしょに街頭に立っている様子から、嫌な父親でないことはわかる。子どもは信用していない親と行動を供にすることはない。

ひょんなことから、ゴヤの名画を盗むことに成功し、それをネタに、大胆な行動に出る、というのが、ストーリーの軸である。

エリザベス女王を演じてきたヘレン・ミレンを「クイーン(女王様)」と呼んだりする、ネタ的な要素もあり、楽しいコメディ映画だった。

(ただ、ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンが72歳と76歳なので、20代の息子が孫に見えてしまった)

主人公のケンプトンは「あなたがいるから、わたしがいる。わたしがいるから、あなたがいる」と言えてしまう、人類と人生を全肯定できる男なのである。ユーモラスに話すのだが、そこに彼の信念があるのだろう。

パン工場でのアルバイトで、有色人種、おそらくパキスタン人の青年の休憩時間が短くされたり、軽口を叩かれたりする人種差別を見逃さず、抗議をして、ちゃんとクビになってしまう、という愛すべき人なのだ。

娘を亡くしたことに心を痛め続けている夫婦という側面もある。

とにかく、ケンプトンは正義感が強く、突っ走ってしまう。そこが憎めない。善良な人で、要領が全然よくない。間抜けなところもある。でも、だから愛される。

嘲笑したり、斜に構えていても、世界は変えられない。愚直に社会に変革を訴える姿は清々しかったし、こんな「生き方もありでしょう?」と言われている感じがした。


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佐藤芽衣
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