#映画感想文『Malu 夢路』(2020)

映画『Malu 夢路』を映画館で観てきた。

監督・脚本はエドモンド・ヨウ、日本とマレーシア合作映画である。

いやはや、久々にひどい映画を観た。最近、秀作ばかりを見ていたせいで、そうそうこの感じ忘れていた、という気持ちになった。

この映画の時間軸は、主に三つある。子ども時代、母の最期、日本である。

姉の虹(ホン)、妹の嵐(ラン)は、精神に破綻をきたした母のもとで育つ。母親は、彼女たちが幼い頃、一家心中を試みるが、未遂に終わる。姉は祖母に引き取られ高い教育を受け、おそらくテレビ局、芸能関係の仕事をしている。一方の妹は母の最期まで看取り、客にセクハラを受けながら理容店で働いている。

母が亡くなり、姉妹は再会するが、話すこともなく、気まずい。ここまでは、主に妹のランの視点で進む。

次に、姉のホンのもとに、妹が日本で亡くなった、という連絡が入る。姉のホンは、遺体で発見された妹の人生をたどっていく。そこで、ランの友人であった水原希子、恋人であった永瀬正敏と出会う。このパートは主に姉の視点で進む。

あらすじだけ読むと面白そうではないか。よい映画であってもおかしくない。しかし、どうしようもなく駄作だった。その理由を述べていく。

まず、どこの誰だかが、説明されないので、いつまでも物語に入っていけない。私は映画の概要を知っていたので、舞台がマレーシアであること、華人であることがわかっていたが、それが街並みの映像や複数の言語で示されないので、フラストレーションが溜まっていく。マレーシアであれば、雑踏のワンショットで、端的に表現できたはずである。

次に、回想シーンと現在のシーンなどが、わかりにくい。母親役の女優さんの中年時代と老年時代の差がない。もちろん、アジア人の容貌は若いのだけれど、病床の母親と心の病に苦しむ母親に大きな差がないので、わかりにくい。また、照明や衣装、画面の明度を変えてくれないので、「いつ」を描いているのかわからない。

それから、過去、現在、夢が交錯するのであれば、蛍光灯みたいに明るい照明はやめてくれ。幻想的に描くのであれば、画面の明るさを工夫してくれ。

あと、中華系の売春婦が、チャイナドレスって、安直過ぎる。日本人の男の客は、それで喜んでいるのか。それはそれでドン引きするが、街中にいたら、目立って仕方がないだろう。トレンチコートを羽織っていれば、中に何を着ていてもいい。中国人ならチャイナドレスって、そんなわけあるかい!とツッコんでしまった。セクシー系の服なんて、いくらでもあるというのに。

映画の冒頭から、妹のランを撮る映像が、なまめかしすぎる。性的なニュアンスを感じさせる。もちろん、意図的なのだと思うが、それが男による視姦を想起させ、気持ちが悪い。姉妹の確執を描いて、姉妹の差を描くのであれば、身体をなめるように映すのではなく、働いているシーンや会話で描写してほしかった。

そんで、マレーシアの華僑(華人)の特徴がまったくわからない。マレーシアの中で、中国系は決してマジョリティではないのに、それが伝わってこない。ほかの人種が映らないのである。もちろん、中華系が閉じたコミュティにいる、ということを示す意図があったのかもしれないが、だとしたら、マレーシアが舞台である必要はない、中国大陸本土の貧しい漁村を舞台にすればよい。

何が夢で、何が本当で、何が嘘で、その境界がわからない。そのやり口は、まったく問題ない。古今東西の映画で描かれてきたテーマである。ただ、ほかの監督たちは、画面の構成とかBGMでめちゃくちゃ工夫しているはずである。

そのうえ、編集が下手すぎる。終始、素材を見せられているようだった。この映画は脚本と編集をやり直して、CGで加工して、60分の映画にすれば、名作になると思う。

ここまで書くと、「じゃあ、おまえが作れ」と言われるかもしれないが、こちとら自腹(井筒監督のあのコーナー大好きでした)で、時間を割いて、選んで観た映画である。だから、文句は言いたい。全部、「感動した。素敵だった」と宣伝会社みたいなレビューを書くモチベーションはない。

この映画を観るべきなのは、これから映画を撮りたい、脚本を書きたい、と思っている人たちである。映像のすごさは、言葉ではなく、映像で説明ができる点にある。わずか数秒で、登場人物の来歴や居場所を観客に理解させることもできる。その効果がわからずに作ると、大惨事になるよ、という手本のような映画であった。叙情的に海を映せば、映画になると思うなよ。

ずっと、もたもたしていて、イライラした。今、公開されている映画の水準が高すぎるのかもしれない。こういう日本映画って、以前はよくあったような気がする。役者さんは全然悪くなかった。悪いのは、脚本と監督である。それだけは間違いない。

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佐藤芽衣
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