映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2020)の感想
映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』を映画館で観てきた。
原題は『My Salinger Year』で、ジョアンナ・ラコフの『サリンジャーと過ごした日々』という邦訳が2015年に柏書房より出版されている。
日本ではサリンジャーの知名度が低いという判断なのか、ニューヨークの方が客を呼べると思ったのか、タイトルが何も言っていない系になってしまっていて残念である。
監督・脚本はフィリップ・ファラルドー、主演はマーガレット・クアリー、ほかにシガニー・ウィーバー、ダグラス・ブースらが出演している。
上映時間は101分、アイルランド・カナダ合作、2020年製作の映画だ。(アメリカの作品ではないので、公開が遅かったのかもしれない)
いやはや、全然期待していなかったので、ものすごく楽しめた。
1995年当時のニューヨークの出版エージェントが舞台で、文芸版の『プラダの悪魔』と言われているが、こちらの主人公のジョアンナのほうが、断然親しみやすい。彼女は急にニューヨークに住みたくなって、住み始めて、単なる自信家のろくでもない男にひっかかり、作家に会っては落ち込み、サリンジャー宛のファンレターを真剣に読んでしまう。彼女の揺らぎは、軽率にも見えるのだが、若いときぐらい、後先考えずに行動してもいいではないか。
また、コメディシーンもとても多く『アグリー・ベティ』を思い出してしまった。ベティは働き者で、前向きで、レジリエンスの塊のような主人公で、大好きだった。
シガニー・ウィーバー(1949年生まれ)も、相変わらず美しい。ただ、顔つきが、メリル・ストリープ(1949年生まれ)とジョディ・フォスター(1962年生まれ)の真ん中のような人だなと思ってしまった。二人は同い年で、ジョディ・フォスターは、今年で還暦なので、一回り年下なのか。
週刊朝日のインタビューもよかった。
サリンジャーを知らない人が見ても、ピンとこないシーンも多いかもしれない。サリンジャーは熱狂的に崇拝されてきた作家で、引きこもって、ずっと発表しない小説を書き続けていた。(フラニーとゾーイの続編ではないかという噂だった)彼が発表すれば誰もが読みたがるのに発表すらしないけれど、書き続けている。異常ではないか。彼は2010年に亡くなり、遺族が出版の準備をしているらしい。そりゃ、金の成る木だから、誰もほっとかないだろうなあ。
ジョアンナは「何も書かない」自分に対して、自己嫌悪に陥り、自分のことを『若草物語』の次女のジョーと呼んでくれていた彼氏を捨ててしまったことを後悔したりする。
自分を尊重してくれる誠実な男性より、ビッグマウスで男尊女卑的な男性に惹かれてしまうことの悲劇性も描かれている。
地味でこじんまりとした作品なのだが、書き続けることの難しさや出版に至らず、評価されないことに傷つく作家なども描かれていて、苦みもある。
アメリカ文学が好きな人はより楽しめるはず。