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#映画感想文『罪の声』(2020)

土井裕泰監督、野木亜紀子脚本の映画『罪の声』を映画館で観てきた。東宝の映画をそうではないところで観たので、客入りは4割ぐらいであった。

主演の小栗旬が文化部の新聞記者で、星野源が幼少期の自分の声が脅迫テープの声に使われていたことを知るテーラー(仕立て屋さん)を演じている。

原作の小説は読んでいないが、未解決事件として有名なグリコ・森永事件から着想を得た作品である。私は一橋文哉の『闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相』を最後まで読むことができず、心残りであったこともあり、観に行くことにした次第である。

さて、映画の感想であるが、最初から、映画っぽくないなあ、と思ってしまった。エンドロールで野木亜紀子が脚本であったことを知り、さもありなんという感じであった。

印象としては、再現映像と関係者コメントを交互に入れた未解決事件簿とか日本三大ミステリーみたいなNHKやら民放でやる半分ドラマ、半分ドキュメンタリーみたいな感じであった。なので、見やすい。ただ、教育映画っぽくて、ドキドキわくわくとはかけ離れていた。

あと、予算がなかったのかもしれないが、説明台詞が多すぎる。

小栗旬が演じる文化部記者が社会部から異動した理由を全部台詞で説明する場面がある。もし、映画の冒頭で、そのいきさつを映像で示してくれていたら、観客は小栗旬にもっと感情移入できていただろう。

また、そこで、星野源が、わざわざ好意を表明するのだが本当に耐えがたかった。「あなたは本当はいい人。だってあのとき〇〇✕✕してくれたらから。ぼくはあなたが好き」などとわざわざ宣言する。観客は言葉で説明しないと何もわからないとでも思っているのだろうか。野暮ったくて、辟易してしまった。(そのまえの車中の会話にもうんざりした)地上波で放送する民放のドラマだったら必要だったかもしれない。でも、映画であれば、視線やしぐさひとつ、微笑みだったり、目をほそめたり、たわいのない会話で親しさや好意は表現できる。(それに日本人は文化的に、好意などを言語でわざわざ表現することが少ないほうである)映像で端的に象徴的にわからせてほしかった。それが映画の強みであるはずなのだ。

そして、ラストに近いところで、中盤で使われたシーンが総集編のような形で使いまわされる。あー、本当、『奇跡体験アンビリバボー』の構成と変わらないな、とうんざりしてしまった。同じシーンを使う必然性もわからないし、もっとほかのカットで、まったく異なるニュアンスであれば納得できるのだが、ちょいと雑すぎやしないか、と思ってしまった。

主犯格との対峙シーンも、全部説明と説教で終わる。言いたいことはわかる。道徳的で倫理的で教育的である。しかし、映画的な快楽がない。

(キツネ目の男のサイボーグ感は、唯一映画的描写であったように思う。)

もちろん、この映画が、他者に対する想像力を欠いてはいけない、ひとりひとりの人生の重さ、恵まれた人生を送っていることを忘れるな、などの言わんとしていることはわかる。ただ、どこか教科書的なのである。破綻がない。きれいにまとまっている。しかし、それはメッセージ性の弱さにもつながる。優等生的な作品であることは間違いないが、あまり揺さぶられなかった。

念のため、断っておくが、私はいち視聴者として、脚本家の野木亜紀子さんを信頼しているし、天才だと思っている。野島伸司や北川悦吏子など、己の作家性のみを売りにする脚本家が栄華を極めた時代もあった。しかしながら、社会的な問題とつながっていなければ、フィクションは単なるお花畑になってしまう。現実と虚構の世界が相互作用的であることは、本来当たり前のことだと思う。野木亜紀子さんはそれを意識的にやっているし、今後も活躍してほしい脚本家の一人であるから、次作にも期待している。ただ、彼女が本領発揮できるのは、やはり映画ではなく、連続ドラマなのではないだろうか。

あと、小姑みたいで嫌なのだが、関西地方が舞台の映画でありながら、関西弁ネイティブが少なすぎやしないか。私は関東の人間なので、関西弁の差まではわからないが、ネイティブにしてみれば、違和感で映画に集中できなかったのではないか、と変な心配までしてしまった。関西人でキャスティングは難しかったのだろうか。

最後に、映画鑑賞中、私にも中学時代に夜逃げしてしまった同級生がいたことを思い出した。入手不可能と言われていた流行りのおもちゃを持っていたりして、比較的裕福に見えていた女の子だったが、ある日、忽然と消えてしまった。その後の彼女の人生は、おそらく苦難に満ちたものであったことは想像に難くない。そのことを思い出し、彼女が普通に暮らせていたらな、という気持ちにはなった。

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佐藤芽衣
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