#映画感想文200『MEN 同じ顔の男たち』(2022)
映画『MEN 同じ顔の男たち(原題:Men)』を映画館で観てきた。
監督・脚本はアレックス・ガーランド、主演はジェシー・バックリー、同じ顔の男たちをロリー・キニアが演じている。
2022年製作、100分、イギリス映画。
ハーパー(ジェシー・バックリー)は、瀟洒なカントリーハウスで休暇を過ごすため、イギリスの田舎町に訪れる。はじめの印象は最高だったが、不気味な出来事が立て続けに起こる。
オリヴィア・ワイルドが『ドント・ウォーリー・ダーリン』で家父長制に抑圧された女性の脱出劇を描いていたが、本作はその対になるような作品だった。アレックス・ガーランド監督は、家父長制やフェミニズムを理解したうえで、「男性文化ってどうしようもないだろ!」ということを男性視点で描き、「男って気持ち悪いよねー」と言っている。
同じ顔の男たちとは、自称・弱者男性、インセルである。それらが大集合といった感じで、これでもかこれでもか、と嫌な男が妖怪のように次々に出てくる。しまいには自己増殖を繰り返していく。
以下が妖怪たちの主張である。
女は男に殴られても許さなきゃ。許すチャンスを与えろ。許すチャンスを与えなかった君は悪い女。
君に愛されなかったら、僕は死ぬ。脅迫じゃない。君は僕の人生のすべてなんだから、死ぬ。君が愛してくれなかったら、僕は死ぬ。
君は性体験が豊富だから、僕を楽しませてくれると思うんだ。
君の身体は僕を誘惑してくる。
君の頭は悪いから、僕が教えてあげよう。
男につきまとわれても実害がないなら、気にしなくても大丈夫。
僕はね、君にただ愛してほしいだけなんだ。
アレックス・ガーランド監督は『エクス・マキナ』でも、「うーん、この男ってキモイよね。倫理観ないし。じゃあ、まあ、殺しちゃっていいか!」みたいな快活な暴力性がある。
本作も、そんな感じで、女性の視点ではなく、男性の視点で、なぜか許容されてきた男性文化を一刀両断に斬っている。アレックス・ガーランド監督は女性の味方でも、男性の敵でもなく、変だと思ったことをド直球で指摘してしまう素直な子どものようでもある。「うーん、これおかしくない? おかしいよね? 別に擁護する必要ないっしょ!」という無邪気な明るさがある。
隣に若い男性二人が座っていたのだが、変なホラー映画を観てしまったと漏らしていた。「男性文化の駄目なところを集めて象徴的に描いていたのだよ。あの男たちは、過去の君たち、今の君たち、未来の君たちかもしれないんだよ」と言いたいのをぐっと堪える。作品が象徴的に描いているものに気が付かない彼らが心配でもあるが、気が付かないふりをしている可能性も否めない。
ラストで、主人公のハーパーは「で、どうしてほしいわけ?」とぶっきらぼうに問いかけ、溜め息をつく。
わたしは、うっとりしていない人が「冷静に考えろ。この世界はおかしいぞ」とツッコむスタイルが、やっぱり好きなのだ。それは既得権益を持たない人間を励まし、作品で世界を変えようという政治的試みであり、ささやかな変革が生まれる可能性を内包しているからである。
ただ、こういった作品を撮ることが男性監督にしか許されないのだとしたら、まだまだ道は長いのだな、とは思う。
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