#映画感想文348『国境ナイトクルージング』(2023)
映画『国境ナイトクルージング(原題:燃冬 The Breaking Ice)』(2023)を映画館で観てきた。
監督・脚本はアンソニー・チェン、出演はチョウ・ドンユイ、リウ・ハオラン、チュー・チューシャオ。
2023年製作、100分、中国・シンガポール合作。
コロナ禍が終わった、中国の吉林省延辺が舞台。凍った川の向こうには北朝鮮がある。延辺は朝鮮族の自治州でもあるため、看板は漢字と韓国語にあふれている。
ハオフォンは友人の結婚式に参列するため延辺に来ているが、表情は暗いまま。予約をすっぽかした心療内科から何度も電話がかかってくるが、ちゃんと対応をしない。上海の証券会社に勤めているが仕事に疲れ、母親との関係が良くなかったことが影を落とし、希死念慮を抱えている。
ツアーガイドのナナは、一見明るいが、フィギュアスケート選手として成功できなかったことを今でも悔いている。
シャオは勉強が嫌いで故郷を出て、叔母の店で料理人をやっているが、過去の自分の選択について今でも考えている様子が窺える。
それぞれ、口には出さないが、自分の人生に鬱屈を抱えている。ハオフォンが携帯電話を紛失し、飛行機に乗り損ねたことをきっかけに三人は数日を一緒に過ごす。もともと友人だったナナとシャオ。シャオは恋愛関係を望んでいるが、面倒なのかナナは応じない。しかし、ナナは旅人であるハオフォンとは、すぐに寝てしまう。後腐れのない関係だから寝たのだろうけれど、それを知ったシャオとの関係性は少し遠くなる。
数日間の旅を経て、三人の心境にわずかな変化が起こる。最も大きく変わろうとしたのはシャオで、バッグに本を詰め込んで勉強しようとバイクを飛ばす姿が印象的だった。
傷つきやすい若者たちの、微妙な恋愛関係を繊細に描いた美しい作品であったと嘘をつくこともできるのだが、自腹で映画館に行っているので、そんなことはしたくない。
あー、つまんなかった。超絶つまんなかった。こういう若い男女の、男二人、女一人の微妙な三角関係って、誰のどんな作品でも、耐え難いほどつまんない。つうか、予告を観た時点で嫌な予感がしていたのだから、やめときゃ良かったのに、レビューの評価が高かったので行ってしまったのが間違いだった。
この三人の若者の苦悩に生々しさがないことが、共感を呼ばない原因だと思う。三角関係のようでそんな甘ったるいものではなかったというイ・チャンドンの『バーニング』は最高だった。あの作品には階級や社会に対する怒り、ある種の女性蔑視が明確に描かれており、問題がはっきりしていた。本作は問題の核心をどこまでもぼやかすので、ぼんやりとしたおしゃれ映画にしかなっておらず、それすらも、それほど洗練されていないので、満足感も得られない。あの、雑なCGの熊は何なの?
これからは自分の勘を信じて、鑑賞する映画は選ばなければと改めて思った。あと言論のない自由がない国の検閲が入っている作品は見てもしょうがないのかもしれない。今回は合作だが、両方ともしっかり言論統制している国ではないか。
個人は悩む。もちろん、個人的なことでも悩む。しかし、その個人的な悩みは、果たして個人から生まれたものだと断ずることができるのか。社会の影響はないのか。社会で生きてるんだから、社会(政治、文化を含む)の影響も、あるに決まってんだろ。そのような個人の背景にある問題点をあえて作り手が避けるような作品は心に響かない。俳優の造形の美しさに頼りすぎ。狂気もユーモアもない空疎なオサレ映画には鼻白む。おまえが汲み取れていないだけだという批判もあるだろうけれど、え、映画ってそんなに斟酌と忖度して、慮って見るもんじゃないだろ。(見えない人と喧嘩までする始末)
延辺の観光ムービーだと思えば悪くないかもしれない。
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