#映画感想文320『無名』(2023)
映画『無名(原題: Hidden Blade)』(2023)を映画館で観てきた。
監督・脚本はチェン・アル、出演はトニー・レオン、ワン・イーボー。
2023年製作、131分、中国映画。
舞台は日本軍の侵略に耐える中国大陸。大日本帝国軍は、広州、重慶を爆撃し、満州国を作り、上海を拠点にしてスパイが動いている。
中国共産党、中国国民党、日本軍のスパイがおり、二重スパイ、三重スパイなのか、という信用できない登場人物たちが、それぞれの思惑を持ち、それぞれの隠し事をして、終戦の1945年に突き進んでいく。
本作を見て、日本軍のやった行為の知識が、自分の中で、てんでバラバラであることを再認識する。ちゃんと勉強しないとダメだなと反省した。近衛文麿って、ろくでもなかったのだと知る。
とはいえ、本作を手放しに褒めることは憚られる。映画館を出てから、レビューを見ると、全体的に評価が高くて驚く。正直、いただけないシーンばかりで、まさに中国映画。香港映画はこれから作られることもないのだろう。
まず、サウンドトラックで、ここは恐ろしいシーンですよ! ここ重要なシーンですよ! 展開しますよ! という演出がダサい。ダサすぎる。つうか、観客を馬鹿扱いしすぎ。観ている人は頭が悪いだろうから、大きな音を出してわからせてあげよう、という余計なお世話。頭が悪いのですごく親切な演出だと思って感動しました、と観客が感謝するとでも思っているのだろうか。
次に、「伏線回収が見事!」というレビューを観たが、本作は伏線回収なんてしていない。前に流したシーンがその後に流れ(シーンが挿入され)、解説と解釈が加えられるという超絶ダサい編集。へたくそ。観客の頭の悪さを受け入れろ。解説本を読まされているような構成で辟易した。普通に時系列にやれよ。(期待していたから、口が悪くなってしまう)
あと、オープニングのスタッフロールがうざい。あれ、何なの? あれもテンポが悪くなるだけで映画に良い効果を与えていない。
そして、最後の「俺は共産主義者だ」という台詞。
もちろん、侵略者の大日本帝国の軍人たちなぞ、八つ裂きにしていい絶対的な悪であることに異論はない。いいところもあったなどというエピソードもなくていい。
ただ、共産主義者は真の愛国主義者で国を裏切らず、見事に任務を果たした、という描写は、中国共産党に絶対服従であることにほかならず、映画製作者のアピールが痛々しかった。習近平も喜ぶようなつくりで、中国共産党もご満悦であろう。(まあ、こういう映画しか検閲を通らないんだろうけれどね)
登場人物たちの葛藤に、個人であること、一人の人間の欲望、一貫性のなさ、揺らぎのようなものが描かれていない。あくまで、役割をまっとうしており、売国奴は全員ちゃんと死ぬ。こんなに中国共産党を接待しないといけない監督に同情を禁じ得ない。「天皇陛下、万歳!」と登場人物に言わせておきながら、本作にあるのは「全体主義、万歳! 共産党一党独裁、万歳!」ではないか。日本をだしにして、愛国心を示すのは常套手段であるのだろうけれど、不自由さを見せつけられただけだった。
こういう中国共産党批判、悪口を書いていると、中国に入国したとき、拘束されたりするらしいので、中国旅行はあきらめよう。そんなリスクを冒してまで行きたい国でもない。そんな風に思わせてしまうのは、ダレトクなのか。
そして、あのトニー・レオン様が、角度によっては、中川家のお兄ちゃんに見えてしまい残念だった。別に両者をディスっているわけではなく、スターは絶対にかっこよく撮るという監督の気概が見られなかった、というお話。
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