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#映画感想文343『リトル・ダンサー』(2000)

映画『リトル・ダンサー(原題:Billy Elliot)』(2000)のデジタルリマスター版を映画館で観てきた。

監督はスティーブン・ダルドリー、脚本はリー・ホール、出演はジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ゲイリー・ルイス。

2000年製作、111分、イギリス映画。

舞台は1980年代のイギリスの北東部の炭鉱町のダーラム。11歳のビリーは、父親、兄、亡くなった母方の祖母と四人で暮らしている。祖母は少し認知症気味なので、徘徊しないように見守るのはビリーの仕事でもある。

父親と兄は炭鉱労働者でストライキ中のため、苛立っている。ビリーは放課後にボクシングを習っているが、興味がないので身が入らない。ボクシングの練習場の横のバレエ教室のピアノの音に導かれ、「別にバレエをやりたいわけではないのだけれど」と言いわけしながらも、彼はぬるりと練習に参加するようになる。

ところがボクシングの練習をさぼっていることがバレて、父親にこっぴどく叱られる。「男だったら、サッカーかボクシング、レスリングだ。バレエは女がやるものだ」と猛反発を食らう。労働者階級の父親にしてみれば、バレエはまったくピンとこない。そして、男らしくない男は許されない。ビリーとて、そのような環境で育っているのだから、バレエをする自分を最初から肯定できていたわけではない。しかし、踊ることは楽しくてやめられない。ビリーの母親はピアノが好きだったし、祖母も若い頃はバレエをやっていた。ビリーは突然変異ではなく、母親と祖母の影響、あるいは二人の性質が遺伝したのだともいえる。

バレエのウィルキンソン先生はビリーにロンドンのロイヤル・バレエ学校のオーディションを受けてみないかと提案する。そこから、家族の葛藤、ストライキ中の経済的困難などがより強調されていく。クリスマスの日に、亡くなった母親のピアノを壊して、それを暖炉の薪としてくべ、父親が泣きながら「メリークリスマス」というシーンなんかは、人生の悲惨さが凝縮されているように思われた。

ビリーは人生最低のクリスマスから抜け出し、その夜、友達のマイケルとバレエを踊る。そこに酔っ払った父親がやってきて激怒するのだが、ビリーは決意をかためて自身のダンスを披露する。その踊りを見た父親は圧倒されるのだが、その感動を真に受けることはできず、その足でウィルキソン先生の自宅に押し掛ける。ビリーには才能があるのかと問う。彼女はもちろんとうなずく。父親はビリーの才能にかけることに決め、スト破りをする。組合を裏切った父親に兄は怒り狂うのだが、ビリーのためには金が必要だと泣きながら抱き合う。

ビリーは中産階級でもないし、貴族階級でもないので、ロンドンでのオーディションの最中も、帰りたいと怖気づいたり、かんしゃくを起こして周りの子を殴ってしまったりする。父親は生まれて初めてのロンドン、バレエのオーディション会場をそれなりに楽しんでいる様子でもあった。

最終的にビリーはロイヤルバレエに合格し、11歳で炭鉱町を離れることになる。彼には踊る才能があり、踊っているときの気分を「踊っていると気分がいい。すべてが消える。体の中に炎が生まれて、飛んでいる鳥のようになり、電気になる」と表現する。そして、彼はプロのバレエダンサーになる。

本作を観たのは今回で二度目。公開から一年後ぐらいにレンタルDVDで観たと記憶している。当時も男らしさの抑圧という言葉はあったと思うが、有害な男性性なんて言葉は存在していなかった。当時の自分は、父親の不寛容を古い価値観を持った人として流していた。暴力性や理不尽さというほど、深刻には受け止めていなかったと思う。しかし、1980年代のふるまいをしている人は2020年代にもいると思われるので、ビリーのように習い事を制限されてしまう男の子は今もたくさんいるはすだ。それだけでなく本人が周囲の暗黙の期待に応えてしまう、といったこともある。まだ、遠い昔の価値観とは言えないとも思う。

本作では、そのような事象が批判的なニュアンスで取り上げられており、ビリーはゲイの同級生に驚きながらも決して否定はせず受け容れている。そのような先見性はもちろんのこと、BBC制作のサクセスストーリーなので安心して鑑賞できるといった側面もある。子を案じる父親、父親を思う息子、亡くなった母親の不在といった普遍的なテーマが根底にはあり、家族の物語でもある。

(主人公のビリーのステップは素晴らしいと思ったのだが、手の動きや姿勢にはちょっと不安定さを感じた。おそらく、今、バレエをやっている子どもたちは、もっと上手に踊れるのではないかと思う)


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佐藤芽衣
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