見出し画像

#映画感想文361『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』(2024)

映画『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方(原題:The Apprentice)』(2024)を映画館で観てきた。

監督はアリ・アッバシ、脚本はガブリエル・シャーマン、出演はセバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング。

2024年製作、123分、アメリカ映画。

タイトルのアプレンティスは「見習い」を意味する。本作では、2025年1月現在の第47代アメリカ大統領がいかにして誕生したのかが描かれている。

ドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)は、父親の不動産会社の副社長として働いている。滞納者から家賃回収をしており、悪態をつかれたり、熱湯をかけられそうになったり、散々な日々を送っている。

父親は抑圧的でパイロットになった長男に対しては食卓においてもモラルハラスメントを繰り返す。そんな父親を前に次男のトランプも縮こまっている。

会員制のレストランバーでトランプは、大物弁護士であるロイ・コーンと知り合う。彼はマフィアとも付き合い、威嚇、ゆすり、脅迫、盗聴と何でもありの弁護士。自分自身が同性愛者であるのに、そのコミュニティ内で知りえた情報を使って、政治家や役人に暴露すると脅して交渉することすらある。

ロイ・コーンの教えは「その一 攻撃、攻撃、攻撃。その二 否定されても、非を絶対に認めるな。その三 負けても勝利を主張し続けろ」というもの。この世は混沌としており、正しさなんて存在しない。この世にいるのは、キラーとルーザーだけ。非常に極端な考えだが、物を知らず、権力に弱いトランプは、ロイ・コーンのやり方を完全に模倣するようになっていく。

トランプは何度も破産を繰り返しており、有能なビジネスマンなどではない。不動産会社を経営できたのも、父親の会社を継いだだけで、自分で事業を作ったわけではない。しかし、彼は自分が勝者であり、相手が間違っていると頑なに主張する。自分が権力を持ち、中心にいられればそれでいい。その論理と理屈のなさが大衆の支持を集めている。彼の内面はどこまでも空虚。周囲の人間は自分の役に立つか立たないかだけ。

本作を観ると、トランプの行動原理がわかってくる。説明責任はない。俺が正しい、あいつらは全員間違っている。あいつらを罰しても何の問題もない。

トランプは大衆が何を喜ぶのかをわかっている。女は男に従うべきで、妊娠したらつべこべ言わず子どもを生め。LGBTQ配慮も馬鹿馬鹿しい。黒人や有色人種を支援する義理などない。移民も難民も追い出せ。いわゆる普通の人々が口には出せない差別や偏見を口に出して肯定までしてくれる。しかし、そこに思想的な背景はなく、大衆に合わせているだけなのだ。まさにポピュリスト。

アメリカの資本主義社会の申し子がドナルド・トランプなのだ。彼の弁護士であったロイ・コーンも「アメリカのため、民主主義を守るため、愛国のため」と言うが、全部自分の利益を目的に動いているだけだし、そのやりくちは全体主義国家のそれと似ている。だから対話はできない。男は強い男が大好き。だって、権威も権力もお金も、全部ほしいんだもん。

エイズを発症して弱ったロイ・コーンの誕生日に、金だと言って、ほかの安い鉱物で作られたネクタイピンを渡すトランプ。妻のイヴァナは「恥知らずなのよ」とあきらめたように言う。弱り切ったロイ・コーンの虚ろな目が忘れられない。ロイ・コーンも悪人だったので因果応報とはいえ、トランプの心のなさに寒々しくなる。そして、トランプのようなふるまいは、金持ちの息子で白人だったから許されていただけで、普通の人がやったら社会の中では生きていけない。

トランプはマクドナルドとコーラとアンフェタミンは好きだけれど、酒も煙草もやらないので、残念ながら長生きだ。これからどんな四年が待っているのだろうか。

(イランを国外追放となったアリ・アッバシ監督はやはり天才。『聖地には蜘蛛が巣を張る』も傑作だったし、これからも撮り続けてほしい)


いいなと思ったら応援しよう!

佐藤芽衣
チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!

この記事が参加している募集