ピクニック
ふっと思い出したあの7月の記憶がまたあたしを苦しめる。胸がぎゅっとして心を殺す。
夏は嫌いだ。
どこかへ行ってしまいたくなる。
けどそんなとき、簡単にどこへも行けないようなこんな島にいることに少しほっとして、そしてやっぱり窮屈だと思う。
もしこの背中に産毛じゃなくて羽が生えてたら、夜間飛行でもしてただろう。
夜空をかけ巡って街の光を見て泣くだろう。
笑っていても勝手に涙が滲んでアイラインをボロボロにしてしまうこの目は、悲しいときには泣けなくて、不器用なあたしのものだと自覚する。
赤くボロボロなこの肌に暑さや痒みを感じるたびにこの身体はあたしのものだと嫌になるくらい分からせられる。
死にたいのにお腹が空いて、眠気が来る。
いつの間にか眠ってしまって、気づいたら明日がもう追いついてきてしまう。
そうやって生きてきた。
久しぶりに自炊したご飯が美味しかった。
テキーラ1杯分のお金で幸せが買えた。
自分で選んだ花を組んで花瓶に活けた。
なんでもない日になんでもないことで電話したり会って話せる人がいる。
生きてる価値ってきっとこれなんだ。
施設で柵の外側を知らずに空だけを見ていたあの頃のあたし。現実が嫌で嫌で仕方なくて、死にたくて、逃げたくて、ここではないどこかに夢を見ていたあたし。
大丈夫だよ。
今だって死にたいけど。
自分が嫌だなって思うこともあるけど。
それでも大丈夫。
生きてるよ。
ひとりじゃないよ。
帰る場所をここに作れたよ。
あたしがゼロから作ったこの場所はちゃんとあなたの帰る場所になってるよ。
けど、寂しいね。
愛されたいと願う人にはいつも愛されない。
あたしを見てくれる人は確かにいるのに、誰の一番にもなれないのは苦しいね。
思いっきりあたしを抱きしめて、愛してるよって頭をなでてくれる人はね、まだいない。
誰のことも一番に愛せないあたしだから、誰かの一番大事な人にはなれないみたい。
愛されなかったわけじゃないのに、愛し方も応え方も分からないから、手に持て余しちゃう。
抱えきれないくらい大きな花束みたいにこの胸に咲き誇る愛情をどうやってみんなに渡したらいいか分かんないんだ。
大人になるって、なんなんだろうね。
こんなに冷たくて適当で悲しいのが大人ならあたしは一生子供でいいよ。
あたしはさ、今日のご飯が美味しかったとか、道端にどんな花が咲いてたとか、夏の匂いで思い出す記憶とか、そんな話がしたいんだよ。
誰と誰が浮気したとか、誰が死んだとか、お金の話とか、そんな話したくないの。
誰も悲しまないで。怒らないで。消えないで。
ずっとみんなで仲良くおてて繋いで笑っていましょうなんて子供みたいなこと言ってたいの。
だってそれこそがあの頃のあたしの願いだったんだもの。喉から手が出るほど欲しかった未来なの。
一人じゃないのに寂しくて、大好きな人の隣にいるのにイライラしちゃう今なんて望んでない。
こんなあたしが嫌い。
楽しいことないかなって言うけどさ、その楽しみを作るのはあたしなのに、楽しめる心がないのはあたしなのに。
頑張らなくていいから心を殺さないで。
美しいものと人のいいところを見つけられるあたしの綺麗な心をなくさないでいて。
可愛くて馬鹿で素直な子供のままでいようね。
誰の目にも止まらないこんな場所にぼそぼそと独り言をつぶやいてあたしはあたしを救って生きていこうね。
寂しくて楽しくて馬鹿らしいこの人生を死ぬまでぶんぶん振り回していきましょう。
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