雛
どうしようもない生きづらさを感じるこの日々に
私は今までどう折り合いをつけてきたのだろう。
今日までどうやって息をしてきたのだろうか。
通り雨のあとの眩しすぎる日差しに
太陽を反射して煌めく水たまりに
夏を目一杯感じさせる蝉の声に
いつもより少しだけ息苦しい今年の夏に
なぜかやるせない寂しさを感じる。
去年はこんなに暑かったかしら。
もっと忙しなかったかしら。
こんなに寂しい夏だったかしら。
去年の夏は恋人がいた。
今は、いない。
恋の仕方も忘れてしまった。
片思いなんてもう何年もしていなかったから
何が好きでどう距離を縮めたらいいかなんて
さっぱり分からなくなっていた。
気になる人ができたって
こんな私じゃ愛されないと思ってしまう。
自分をまず愛さないといけないのに
今は私が私を好きになれないでいる。
夏になると気分が浮足立って
わくわくするような
ほんの少し泣きたくなるような
不思議な気持ちがする。
今年は思い切って髪を青く染めてみた。
深海みたいな色だね。
陽の光に当たるとエメラルドグリーンだね。
とっても綺麗だね。
そう言って笑うあなたの笑顔が好きよ。
長いようで短い一年が過ぎて
本当に色んなことが変わってしまった。
けれどその一年で大好きな人ができて
それはとても嬉しいことなのに
私はなんの力にもなれないのが悔しい。
初めて私の名前を呼んでくれたとき。
初めてあなたの涙を見たとき。
初めて手と手が触れたとき。
あなたのその声に
真っ直ぐな瞳に
優しい笑顔に
改めて好きだと気付かされる。
私はね、ずっと、ずうっと、
あなたの事が好きなのよ。
気付いてないでしょうけど。
でもね、それでいいのよ。
形あるものはいつか壊れる。
人と人との繋がりもきっとそう。
一生一緒なんて奇跡なのよ。
今、隣にいることが大事なの。
今のあなたの笑顔が愛しいの。
いつまでもその笑顔だけを見ていたいけれど
笑顔だけの人生はきっと少しつまらないから
私がここにいられる限りは
あなたの笑顔だけじゃなくって
泣いたり怒ったりはにかんだりするのを
ちゃんと覚えていることにする。
今年は秋が短かったのね。
もう手が悴む冬になったのね。
冷たい空気と澄んだ空に
そこに煌めく幾つもの星に
いつの間にか長くなった夜に
私はあなたのことを考えているの。
最近あなたに会えていない。
私は私で忙しくて
あなたはあなたで色々あったね。
もう泣くことはなくなったかしら。
あなたの素敵な笑顔がまた見れるかしら。
それともまだ辛いところに留まっている?
私はね、また暗い水に落ちてしまったよ。
あなたのそばで笑っていられないの。
笑うこともできないくらいなの。
一人になろうとしてる私を見て
あなたはなんて言うのかな。
こんな私を愛してなんて言わないわ。
私があなたを愛しているのは変わらないけれど
誰かに愛されたいなんて思うのは烏滸がましい。
自分で自分を愛せないんだから。
でもね、あなたにひとつだけお願いがあるの。
私を見てなくていいから
覚えていなくてもいいから
あなたはあなたを好きでいて。
目に涙を溜めてもまだ耐えている顔も
楽しそうに笑って鼻を鳴らす音も
冷たい指先と細い手も
艶のある綺麗な髪も
そのすべてがどうしようもなく美しいから。
あなたはそれら丸ごと全部であなただから。
真面目で健気で我慢強くて弱いあなたを
愛している人は少なくとも一人ここにいる。
だから自分を嫌いにならないで。
私のようにならないで。
今も変わらず大好きよ。
これからもきっと、ね。
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