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連鎖劇 『奈落~歌舞伎座の怪人』

こちらは平成16(2004)年4月27日(火) 歌舞伎座にて行われた第三十三回俳優祭にて上演された企画創作演目。ネット世界を彷徨っていると出くわすものだなということで、ここに鑑賞の記録を残しておきたい。


俳優祭とは

日本俳優協会のHPにて説明がなされているが、普段は一緒に見られないような俳優陣が一同に会してファンドレイジングするお祭りイベントである。

日本俳優協会が二代目猿之助(初代猿翁)会長のもとに再建されたのが昭和32年。第1回俳優祭は、その年の7月30日に行われています(東京体育館)。目的は、ふだん一同に会することのない協会員が集まり、自らの企画でお客さまに楽しんでいただきつつ、協会の資金集めもさせていただこうというもの。

https://www.actors.or.jp/event/haiyusai/index.html

ちなみに、集めた資金は下記のように使われるらしい。

この基金は、「医療費補助制度」として、会員の医療費の補助、休業見舞金や死亡弔慰金、集団予防接種などに使われます。また、「お稽古費用補助制度」にも使われています。これは、長唄、日舞、三味線、常磐津のお稽古費の一部を補助するもの。また、毎回、収益の一部はチャリティにも回させていただいています。寄付先はそのときどきで様々。これまで、雲仙普賢岳や阪神淡路大震災、三宅島噴火災害などの被災者の援助に送らせていただきました。

https://www.actors.or.jp/event/haiyusai/index.html

直近では2023年に7年越しの開催があったということだが、俳優が物販の売り子で立っていたりとファン感謝会的なノリもあり、どうやらチケット争奪は熾烈なようだ。

暴挙であり名物の企画創作演目

さて、今回の 連鎖劇『奈落~歌舞伎座の怪人』だが、これは昭和50年以降俳優祭の名物ともなっている企画創作演目ということになるようだ。

俳優祭で上演する芝居の多くは、歌舞伎や新派新国劇の名作を天地会風にアレンジしたり、滅多に実現しない人気俳優同士の顔合わせを役代わりでご覧にいれる、といった趣向です。が、今では伝説となっている昭和50年の『白雪姫』以来、たった一日の俳優祭のために"新作"を仕上げる、という暴挙(!)に出ることも。

https://www.actors.or.jp/event/haiyusai/haiyusai_39.html

ちなみに、天地会とは…

男女、老若など、いつもの役割をひっくり返してご覧にいれる趣向。いかつい立役が楚々とした姫に扮したり、大幹部が花四天となって立ち回りを演じたりと、お客様はいつも抱腹絶倒。が、これも俳優祭の特許ではなく、昔から大きな襲名披露興行の楽日の翌日などに、特別な催しとして行われていたものでした。ちょっと固く言うと、ヒエラルキーが確固としてある古典芸能の世界には、上下左右をひっくり返すような祭りによるガス抜きが必要だったのでしょう。能にも"乱能"という、似たような趣向があります。 いずれにせよ演じる側はいたって大真面目。本興行では演じることのない役柄に挑戦するわけですから、ビデオを見たり、本役の俳優に教わったり、いつもに負けぬ熱心さで役づくりに励むようです。

https://www.actors.or.jp/event/haiyusai/index.html

ということで、普段は顔を揃えない役者が揃うというだけでなく、普段は演じないような役柄を演じて楽しむようなそうした趣向のこと。

さらに、連鎖劇とは…

1つの作品を演劇と活動写真で交互に上演・上映した形式である。主に日本で1910年代半ばに流行した。主にアクション場面をロケーション撮影し、これを上演しながら陰で台詞を言う。その続きを映画と同じ俳優が舞台で演じるという形式であった。内容は既存の新派悲劇と、連続映画のアクションシーンをつなげたようなものが大半だったという。劇映画の形式での映画撮影が未熟だった時代に多く作られ、目新しさと俳優の熱演で青年層を中心に人気を集めた。

連鎖劇

ということで、今回の演目では映画(映像)パートの上演があった後に舞台での実演がそれに続くという形式であった。

『奈落~歌舞伎座の怪人』

総指揮=中村勘九郎
脚本・監督・音楽=山崎咲十郎

ある日の歌舞伎座。新進気鋭の雑誌記者・竹中四郎(菊之助)が、坂東三津五郎(三津五郎)の取材のため楽屋を訪れて来る。大張り切りの竹中だが、三津五郎に記事のテーマが良くないと言われ、落ち込む。その頃、他の役者たちの間では、「近頃の若い弟子たちはすぐに辞める」「急にいなくなった」「神隠しでは?」といった話題でもちきりになっていた。

https://www.actors.or.jp/event/haiyusai/haiyusai_33.html

パリ・オペラ座の舞台裏・奈落(地下)に住まう"怪人"の話を下敷きに、吸血鬼伝説を組合せた50分程度のお話で、詳細はこちらの方のブログに是非当たられたい。

とはいえ手短にまとめると、江戸時代、初代三津五郎が西洋からやってきた吸血鬼に血を吸われて以来、永遠の命を持った三津五郎はずっと歌舞伎を演じつづけてきたことが発覚。若い弟子たちがすぐに辞めてしまうのもそのため…ということが分かるのだが、永遠に演じ続けられるのは素晴らしい、むしろ亡くなってしまった先人・先輩方も永遠に生き続け、芸を磨き続けるのが夢であったのでは….という結論に至るお話。

これはこの演目が披露された2004年の時点でも十分に感動的だったのだろうが、三津五郎や勘九郎、先代の團十郎等、すでに逝ってしまった方々が多く当時の元気な姿で映っており、彼らもまた永遠の命で演じ続けたいと切実に願っただろうことが分かるからこそ、生命の儚さ、芸をつないでいくことの尊さが身にしみて伝わってくる。

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