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8年間恨み続けた人物に、予測なくバッタリ再会してしまった日の話

冒頭から失礼いたしますが、断じてわたしは恨みがましい人間ではない。

わりと人情派だし、もし誰かとけんかしたとしても、のちに爽やかに和解している。冷静になってから「相手にも事情があったんだろう」と考えると、それ以上責める気にはならない。
「あんなことがあったのに、よく普通に戻れるね」と人に驚かれることもある。今、試しに嫌いな人を思い浮かべようと試みたが、該当者が浮かばなかった。

「そんな時代もあったよね、と いつか笑って話せるわ」の中島みゆきばりに
時効を多発し、許し許されていいじゃない♪ らぶ&ピース などと思っている。
ただし、ただひとつの案件を除いて。

どうしても水に流すことはできない8年前の出来事がある。
相手はギリギリ法には触れてはいない。
だけどわたしはどうにも許せなかった。
やったことそのものよりも、やり方のキタナさがもうほんま無理な種類のやつだった(ちなみに恋愛沙汰ではない)。

わたしは胸が黒焦げになった。
失ったものも大きかった。
当時、当然怒ったが、相手は徹底的に逃げた。
そしてそのまま現在に至る。

同じ市に住んでいるので
わたしは「いつかどこかで会ったらマジで許さん!!」と思っていた。

遭遇する機会は、可能性としては普通にあった。
趣味が同じ界隈だったからだ。共通の知人も多い。
しかし私は、ヤツがきっと来るであろうイベントを避けた。
怖気付いたのではない。真逆だ。
遭遇したら、わたしの満を持した反撃により、場が地獄絵図と化すこと請け合いだ。それではそのイベントの主催者に申し訳ない。
キャントストップにブチ切れてしまう自分が容易に想像できる。という理由で、遭遇をあえて避けていた。
しかし、偶然にどこかで会ったときは望むところよ!♡
ああわたし、やっぱめっちゃ怒ってる。

そんなことを思いながら数年が過ぎた。


怒りというのは意外と持続しない。
それは人間が生きていくための生体的な制御本能かもしれない。
8年の間には、ヘタレにも「もういいかな」と思うこともあった。
そこまで相手にこだわっているわけではないので、思い出さない日がどんどん長くなり、もはや思い出すこともなくなってきていた。



しかし先日
全く別の界隈の、思いもかけない場所で8年ぶりに再会した。

とある会合で、ヤツが遅れて会議室に入ってきたのだ。
マスクをしていたが、わたしはすぐに気づいた。
なんでこんなところにヤツが?!

「もういいかな」なんて思っていた気持ちが一瞬にして、吹き飛んだ。
「いや、よくない!」と容易く再燃した(しつこくてすみません)。


会の議長が「ご紹介いたします、こちらの方は…」とにこやかに紹介しようとしてくれた時「あの、お会いしたことありますよね?」とヤツの目をまっすぐに見た。

ヤツは、すぐにわたしだと気づいた。
目が泳いだ。
そして次の瞬間、無謀にも「初対面ですが?」のテイを装い始めた。
しかしそういう時の瞳の動きは決してごまかせないし、誤魔化されない。
ボケて初対面ぶるものの、さすがに無理があると観念したのか、しばらくして大袈裟に「ああ、あの時の!」と膝を打った。
無理がありすぎるやろ、、愚かすぎてツッこむ気力すら湧かぬ。

会議の間、ヤツが発言しているとき、目をそらさなかった。
ヤツは一度もわたしの目を見なかった。

会議が終わってから、流れに身を任せていたら
ヤツが「ヤァヤァすっかりご無沙汰していますね」と向こうから話しかけてきた。
気配から察するに、それがヤツの精一杯のプロテクションだったのだろう。
ヤツの繰り出すそんな脆弱なプロテクションを、わたしは「あ、どうも」の一言で真顔でスルーした。

あんなに胸が黒焦げになるほど恨んでいたというのに、やっと物申す機会が到来したというのに、わたしは何も言わずに帰路についた。
なんだよ、なんか言えばよかったじゃんか!と自分でも思う。
空気を読んだのではない。
怒りがあるレベルを超すと、言語能力が激しく低下してしまう。ああこんなところで再会するとわかっていたら、会心の一撃を繰り出せるよう、入念に準備しておいたのに。

でも。
ヤツの目を見た瞬間に、わたしのなかで勝負がついたのだと思う。

わたしは、そらさずに真っすぐ目を見た。
ヤツは、目をあわせなかったどころか、記憶喪失さながらの演技すら始めた。

その時に、なんだかもう

「よっしゃ」

と何かが自分の中で終わった。

勝ち負けじゃない。
善悪じゃない。
ただ、目をそらす側にならないような生き方をしたい。

わたしは気弱ではない。
怒ることは容易くできる
だからわたしは、怒りを露わにしないことで自分のプライドを守ったのだと思う。


その会議は、わたしにとっては有意義なもので、今後も出席したいと考えている。
とはいえ、出来るならヤツの顔を二度と見たくない。
わたしは今日の邂逅ですべてを水に流せるほど仏じゃない。

憎しみはパワーにはなるが、同時に暗黒なものを生む。
逃げるのも嫌だけど、争いはやぶさかではないが勝ってもそれはそれで消耗する。
いっそ和解?それは無理!(笑)
さあどうしようか
若い頃ならシンプルに激しく争っただろう、それなのに大人ってのはホントややこしいな。

13歳の息子に簡単に経緯を話し、
「意見、聞かせてくれない?」とサクッときいてみた。

小学生や中学生というのは、人生経験が非常に少ないけれどそれが強みで、
なんだそれ、というキテレツな浅い回答もあるが、シンプルでオモロイ回答をくれる時がある。

「うーん、俺がその立場ならこれからも行くよ。
理由? だって俺が行かなくなったら、俺の8年間が間違ってたような気がするから。逆に俺は行き続けるよ」

青い、実に青い…
でも、似ているところは少ないがやっぱ私の息子だ、、と思った。

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