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また、やっちまった。

 旅先に向かう途中でいつも思うことがある。
「知らない土地に出掛けると、新しい出会いがある。話している間に自分がなんて小さいんだろうって思うことがある。それでもどうして旅を続けたいって思うんだろうって。」
 
 でも出てきてしまったからには後には戻れない。きっといつもと同じように、慣れてるベッドで目を覚まし、大好きな音楽を聴きながら、大好きなカップで紅茶を飲み、大好きな空間にいれる自分がこんなに心地良くて仕方ないのに、わざわざ未知な世界に、それももしかしたらあんまり好ましくない状況に出くわすかもしれないのに出掛ける自分の気が知れないからなのかもしれない。

 と言うのも、旅先で起こる全ては自分の責任なのも承知だし、家を出てから戻ってくるまでの間ずっと神経を尖らして過ごすのに、何らかのそれも相当予想外のハプニングが必ず起こるからである。毎度の事だからいい加減慣れても良さそうなのに、ずっと爆弾の入ったカバンを抱えてるようで気がきでない。

 一度はロンドンのタクシーにパスポートやお財布やら全てが入ったバッグを忘れてきてしまった。オーマーガー、またやらかしちまった……  私はそんな時、本気で自分を情けなく思う。
 そしてこの事件にも、大好きだったおばぁちゃまにまた登場してもらった。
「おばぁちゃま〜!私のバックをどうか探し出してください、お願いしまーす!」…… すると早速携帯に電話が鳴る。
「さっき乗ってたお客様ですか?貴方のバックを見つけたので、大使館に届けますね。」ほら来た!
 
 新しいパスポートを申請する為に既に日本大使館に来ていた私は、呆気なく届くバックとの離れ離れの二時間を、今度は愛おしくさえ思えてくる。

 その他にもパスポートをコピー機に置いたまま次の日の朝まで気がつかず、空港までオートバイで持ってきてもらったり、ローマでもウィーンでもそこら中でハプニングがあった。

 きっとそんな事がしょっちゅうだからトラウマになっていて旅の出発になると緊張するのか。

 歳を重ね、幸いにも慎重になる。忘れ物がないかどうか何度も振り向きながら、ポケットやポシェットも何度も触り確認する。
 
 そして、出掛ける前にいつもやるおまじないをしてきたから大丈夫、と自分の心に言い聞かせる。今では家宝になっているおばぁちゃまの念の効いたあのおまじないだ。

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