映画『マルモイ ことばあつめ』

この映画の存在を知ったのはごく最近。なのでもちろん劇場上映が終わったあとだった。韓国留学当時に韓国の国語学を少しかじっていたので内容が気になってDVDを借りてみた。

韓国語音声と日本語音声があったので2回視聴した。

1回目の視聴。韓国語音声+字幕
日本語を話す役柄が日本人の役柄なのか、朝鮮の人の役柄で日本語を話すという役柄なのかが最後までよく分からなかった。最初に分からないな...と思った時点で、
この役柄の人たちはみんな後者(日本語を話す朝鮮の人という役柄)であると仮定して観ることにした。そうすれば後々の世で親日派と呼ばれる人たちが仕返しを受けたとかという話にも通じる。まあ仮にこれが日本人であってもそもそも日本人が恨みをかうのには何の不思議もないシチュエーションだ。とか思いつつ視聴した。

2回目の視聴。日本語音声+字幕
とりあえず全員の役が日本人の声優さんになってしまうと、一つ一つの役柄が日本人の役なのか、朝鮮の人の役なのかはどうでもよくなった。そうか本質はそこじゃなかった。「誰に」弾圧されていたかが重要なのではなく、「弾圧されていた」ということが大事なのだと理解した。なのでそこからは普通に視聴した。

マルモイの舞台は日韓併合が始まって30年後の京城(けいじょう。現在の大韓民国ソウル特別市)。劇中では主に朝鮮半島各地方の方言を集める作業をしていた。

一概に方言が大事、言葉はその国の文化そのものとかとか言っていても、その国、そこの国の言葉の事情はそれぞれ違うので、これも時代背景をよく知る必要があると思った。


・「訓民正音」が出来るまで独自の文字がなく、それまでは代わりに漢字を使っていた。
・李氏朝鮮時代、ハングル使用が禁止されていた時代がある

今の韓国語の文法は日本語とよくにている構造をしている。ハングルが出来るまで日本でいうところの和語や助詞とかの部分どうやって文字で表現してたのか?訓民正音が出来てせっかく表現できる文字があるのに使うなと言われたり、日本語話せと言われたり。

そんな状況はいかん!と立ち上がった人たちがいた。(マルモイの劇中ではさらっとしか出てこなかったが)その志をつぐ人たちが、朝鮮語の使用が長い間弾圧される世の中で言葉を消滅させまいと動いていく話だった。(現代人から見るとああ、あと少しで戦争終わるのに…もう少しの辛抱だよとか思っちゃうけど、当時の人が当然分かるはずもなく)

なのでストーリーのテイストは『プロジェクトX』みたいな感じで面白く見ることができた。

日本語も韓国語も方言がすごく多様。どちらの国も山が多いので人の往来が制限されて一つ一つの方言がガラパゴス進化をしたんだろうと思う。日本もその昔一つ一つ方言の単語を調べた人たちがいた。

その土地、その土地でしゃべられている言葉があって、それをまとめようとする言語学者がいる。言語学者の真の目的ってなんなんだろうか。人々の意思疎通だけの為ではないはず。近代になって国家という概念が生まれてからのアイデンティティに関することなんだろうか。詳しくは自分にはよく分からない。でもこういう事を考えることは何だか面白い。金田一家の物語もちょっと見てみたいと思った。(出来れば大河で)

劇中で「ウリ」という言葉について話をしていた。外国語として韓国語を勉強する人が一度は悩む単語「ウリ」。「私たち」とか「私の」とかという意味で説明されるが、韓国語が上達してくるにつれて「どうやらそう単純な言葉じゃないっぽいな…」ということに気づくミステリアスな単語だ。
自分はあまり使わない言葉だったが、こういう単語を考察することは意外と面白い。言葉を題材にした映画で、この超絶文化的な「ウリ」という単語に少しだけでも言及してくれるのはとても嬉しいことだった。(なぜならリアルに出会った韓国人で「ウリ」という言葉についてその思いを話してくれる人は皆無だったため。)


ソウル駅(劇中では京城駅)の外観とその周辺が何回か映し出されていたが、当時は本当にああいう感じだったのか少し興味がわいた。韓国滞在中、レンガ駅舎を見に数回訪れたことがある。ある時は駅として使われてたり、ギャラリーとして使われていたり、取り壊されそうな雰囲気になっていたり。ただ今もまだ壊されたとは聞いてないので多分無事なんだろう。始まりは今の韓国の人たちが思う理想の形じゃないかもしれないけど、長い間ソウルの中心で韓国の発展を見守っている重鎮なのでどうか長生きしてほしいなぁと思う。

ひと昔前の題材を描く映画って、こういう「景色」を楽しむ方法もあるんだなと気づいた。もちろん当時の街並みをVRとかアサシン(※ゲーム)で見ることができたら面白いだろうなぁとも思う。路面電車とか清渓川とかちょっとリアルに見てみたい。ああ、この映画を劇場公開時に知っていられたら大画面で見れたのに...という悔いを少し残しつつも、これからはアンテナを常に張ってこういう映画を劇場で見れるようにしようと思う。

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