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特別支援学校からの発信「学校の授業と生活の場をリンクさせる意義」

以前の記事でも少し触れた内容ですが、何のために授業をするのかということについて、僕の考えを紹介したいと思います。

授業ってなんのためにあるんだろうか

学校で子どもたちはなにを学ぶのか、授業は子どもたちにどんな力をつけることを目的にしているのでしょうか?

もう一つ、学校で学んだことで、生活したり働いたりする上で活用されている知識や技能はどんなものがあるでしょうか?

僕は小学校の頃から社会科が大好きでした。小学校の頃は漫画日本の歴史を読み耽り、高校3年生の頃は通学電車の中で山川出版の書き込み教科書(大量の情報を書き込み済み)を繰り返し読んだお陰で、大抵の問題は「これは書き込み教科書のあの辺に載ってたなぁ」と思い出せるくらいでした。幸いにも僕は社会科教員という道を選んだので、そうやって学んだ社会科の知識を日々活用していますが…大半の方は授業で学んだ「フェロノサが凍れる音楽と評した建築物は?」とか「ローマ帝国の領土が最大になったときの皇帝は?」とかの知識を活用することはないでしょう。僕も仕事以外では、クイズ番組で正解してドヤ顔するくらいです笑。

そうなってくると学校の勉強は何のためにあるのかとなってきます。学ぶこと、覚えることが受験以外で役に立たないのなら…学ぶ意欲はなくなってしまうかもしれません。

僕が社会科教育で大切にしていること

僕自身は盲学校で社会科教育に携わってきました。もちろん公民分野など社会生活に直接関わる内容はあるのですが、世界史や日本史など生活に関わらないと思われる分野もあります。

僕は社会科を「考え方の枠組み(フレーム)」を学ぶ教科だと思っています。それはスーパーマーケット売り場や棚における商品の配置かもしれませんし、なぜ明治維新が比較的スムーズに進行したかついてかもしれませんし、マキャベリの思想についてかもしれません。それぞれに理由(WHY)と具体的な状況(HOW)があります。言い換えれば、知識を丸暗記するのではなく、理由(WHY)と具体的な状況(HOW)を通して考え方の枠組み(フレーム)という論理を学ぶということです。

そして、その学んだことを自分の言葉で説明できる言語力は、学校の先にある社会生活で活用できるものだと思います。

自立活動という概念

話は少し変わりますが、特別支援教育では「自立活動」という教科が設定されます。これは卒業後の社会生活や日々の生活の中での自立を目指して、それぞれの子どもの実態に応じた取り組みをするものです。何かスキルを練習したり、環境や感覚を調整する便利な道具を使うことも練習します。詳しくはまたどこかで紹介したいと思うのですが、自立活動の学習指導要領もありますので参考までに。新学習指導要領では各障がい種別における自立活動の具体例が掲載されています。

ここでは全てを紹介できませんので、その6区分27項目を掲載します。

1 健康の保持
①生活のリズムや生活習慣の形成
②病気の状態の理解と生活管理
③身体各部の状態の理解と養護
④障害の特性の理解と生活環境の調整
⑤健康状態の維持・改善

2 心理的な安定
①情緒の安定
②状況の理解と変化への対応
③障害による学習上又は生活上の困難を改
善・克服する意欲

3 人間関係の形成
①他者とのかかわりの基礎
②他者の意図や感情の理解
③自己の理解と行動の調整

4 環境の把握
①保有する感覚の活用
②感覚や認知の特性についての理解(と対応)
③感覚の補助及び代行手段の活用
④感覚を総合的に活用した周囲の状況について(の
把握)と状況に応じた行動
⑤認知や行動の手掛かりとなる概念の形成

5 身体の動き
①姿勢と運動・動作の基本的技能
②姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用
③日常生活に必要な基本動作
④身体の移動能力
⑤作業に必要な動作と円滑な遂行

6コミュニケーション
①コミュニケーションの基礎的能力
②言語の受容と表出
③言語の形成と活用
④コミュニケーション手段の選択と活用
⑤状況に応じたコミュニケーション

また以前に紹介した広島中央特別支援学校の『自立活動指導書』もそうです。卒業後の生活で必要になる項目が紹介されています。

自立活動の内容は生活で必要になる項目が挙げられているのがなんとなくお分かりになるでしょう。また通常の学級においても、自立活動の内容を参考にして、各教科の中に取り入れるのが望ましいとされています。

生活との接続を重視する支援教育

特別支援学校の教育課程においては、このような自立活動が設定され、個々の子どもの実態や課題に応じた取り組みが行われています。

また教科教育の中でも、生活に関連した内容の学習に重きが置かれていることが多いのです。

例えば、身体の仕組みを通して、普段の食事や睡眠、運動などの生活習慣を見直すこともできますし、怪我や病気をしたときの対応を学ぶこともできるでしょう。第二次性徴期の身体の変化の見通しを持つこともできますし、他者との距離感や関わり方などの性教育と関連させることもできます。

他にも、カレンダーの学習を通して、先の見通しを持ったり、季節の変化に合わせた服装の選び方を考えることもできます。いろいろな単位を知り、自分で測定できるようになれば、家具を買うときに部屋のサイズと比較したり、ホットケーキを焼くときに牛乳200mlを入れられることにつながります。足し算や引き算、かけ算なども数式を見て解けるだけでなく、普段の生活の中で活用できる(もちろんスマホの電卓を使いながらで構いません)、そんなふうに生活の中で具体的に活用できる、役に立つ内容を考えていくのです。

逆に生活の中で困っていることやできるようになってほしいことを課題として授業の中に取り入れることもあります。学んだことが何に繋がるのかが明確になれば、それは学ぶ意欲にもつながります。

まとめ

授業で学んでできるようになったことが、生活の場で活用できる。また生活での課題を授業で学ぶ。そうしてできることが増えることは本人にとって自信になり、次の学ぶ意欲にも繋がります。学んだことが授業で終わりではなく、生活の中で活用できれば、学びのサイクルはもっと深まります。

そんな風に考えると学ぶことのワクワクがどんどん広がっていかないでしょうか。

そしてこれは支援学校だけでなく、学ぶ内容が細かく抽象的になってしまいがちな通常学校でも同じだと思います。数学の微分積分は、化学のmolは、なんの役にも立たないのではなく、確実に僕たちの生活を支えています。それにその知識を覚えるだけでなく、一定の公式を基に問題を解く力は、様々な条件の下で仕事をする力に繋がるはずです。手段であるはずの学ぶことが、覚えることが目的になってしまいがちな専門科目だからこそ、生活の場とリンクする視点から捉え直してみてはどうでしょうか。

以上、僕なりの解釈による学校の授業と生活の場をリンクさせる意義についてでした。



表紙の画像はDiS教育ICT総合サイト春日工務店から引用したものを加工したものです。