体験記事「私の見え方紹介カード」
今回は前から気になっていた「私の見え方紹介カード」を日本弱視者ネットワークさんに許可をいただいて、紹介します。
自分の見え方を紹介する必要性
以前にも京都府立盲学校で作成された冊子『こんなふうに見えています』を紹介したことがあります。児童や生徒が自分の見え方を紹介するための冊子です。
なぜ自分の見え方を紹介する必要性があるのでしょうか?
盲学校で学んでいる間は、校内の一方通行や廊下に物を置かない、点字や拡大文字(本人の見やすいポイントとフォントで)のプリント、「ここ、そこ、あそこ」なんて指示語の少ない具体的な説明、直接触って確認できるなんてことが、当たり前にあります。
でも、社会ではまだまだそれは当たり前ではありません。視覚障がいについて詳しい人も、まずいません。視力が低いはコンタクトやメガネを外してイメージできるかもしれないけれど、羞明や夜盲、視野狭窄や中心暗点なんて想像もできません。
障害者差別解消法が施行され、障がいのある人にとって必要な合理的配慮を求めることが当たり前になりました。でも、なぜ必要なのか(自分の実態はどうなのか)と具体的にどうして欲しいのかを伝えるのは障がいのある、その人本人です。
なので、自分の見え方や必要な配慮を知っておくことや、相手にわかるように伝えられることが必要になるのです。
なんて聞くと、「えっ、見え方紹介カードってどんなの?」って気になってきませんか?
見え方紹介カードについて
見え方紹介カードは、日本弱視者ネットワーク(旧:弱視者問題研究会)がつくられたツールで、日本弱視者ネットワークのホームページからPDFデータをダウンロードすることができます。
カードの紹介をホームページから引用します。
弱視者の見え方は様々です。自分の見え方を相手に説明するのは、本当に難しいものです。単に視力や病名だけでは、見え方が相手に正確に伝わらないことも少なくありません。
また、説明や理解が難しいため、弱視者は必要な時に援助が得られなかったり、思わぬ誤解から人間関係がこじれてしまったりすることがあります。
そこで、具体的な生活場面で、弱視者の見え方を整理し、分かりやすく表現するためにこのカードを作成しました。
また、弱視者以外の人が、弱視者の見え方を理解するためのツールとしても活用していただけます。
印刷物の用意はありませんが、どなたでもデータをダウンロードしてご活用いただけます。カードの使い方・印刷方法については12ページの「このカードの使い方」をご参照ください。
この先、必要に応じて改訂版を掲載していく予定でおります。
これをきっかけに、他のコンテンツもご覧いただき、当会に関心を持っていただけると嬉しいです。
多くの方が弱視者をより深く理解するために、このカードが少しでもお役に立てれば幸いです。
カードはハガキサイズの用紙に印刷すると16ポイントの大きさになるようにつくられています。
では、早速中身の紹介に移ります。
見え方紹介カードの内容
前置きが長くなりましたが、いよいよ見え方紹介カードの内容に入っていきます。
1.見え方紹介
まず「視力」や「人の顔の判別」、「すれ違った人の判別」という項目があります。
見えにくさから相手に気づかないことが、周りからは「あいさつしてもらえなかった」「無視された」と思われてトラブルになってしまうことがあります。どんなふうに相手が見えているのかを共有できればそんな心配もなくなりますよね。
「病気に伴う症状」、「晴れた日など屋外の明るい場所は」、「夜間など屋外の暗い場所は」、「屋内の明るい場所は」、「屋内の暗い場所は」、「色は」という項目は、本人の見え方を知ってもらうものです。
弱視の方のいろいろな見え方や、明るくと眩しくて見えなくなる、暗いと全く見えないといった特性は、なかなか周囲の人には理解しにくいかもしれません。後で紹介する見え方紹介アプリなんかを使うとイメージしやすいかもしれません。
いろいろな見え方や色覚については、次の記事でも紹介しています。
「印刷物、サインなどの配色は」、「普段使用している文字は」、「読みやすい書体は」、「文字の大きさは」、「もっとも読みやすい手書き文字は」という項目は、周りの人からもらう書類などへの配慮を依頼するときに活用できます。
文字の大きさなんかは、「新聞の見出しくらい」や「週刊少年ジャンプのセリフは読めます」、「(実際に書いてみて)このくらいの大きさで」なんて伝えみるとよりわかりやすいと思います。
「普段使っている補助具は」、「外出時に使う補助具は」という項目では、その人が普段使っている補助具を知ってもらえます。
例えば、全盲の方でもスマホを音声で聴いて使っている方も大勢いますし、ルーペや拡大読書器を使うので文字は拡大しなくても大丈夫という方もいます。職場に大きな拡大読書器を置いてもらうスペースを用意してもらう必要もあるかもしれません。そんなことを知ってもらうのにも活用できますよね。
2.視野
「視野について」、「自分の見え方(視野を)書いてみよう」では視野を紹介しています。
視野といっても一般の方はなかなかイメージしにくいので、資料編でそれぞれの具体的な見え方が紹介されています。「目の前に伸ばしたグー1個分が視野5度です」のように具体的に伝えるのもオススメです。
3.学校・大学
盲学校以外の学校や大学では、必要な配慮を求めていく必要があります。
「教科書は」、「教室での席の位置は」、「次の授業は見え方を補う配慮をお願いします」、「次の活動は見え方を補って参加できるようお手伝いをお願いします」という項目は、そんなふうに必要な配慮を求めていく参考になります。
これらに加えて、試験の際の配慮(時間延長や問題の点訳・拡大、各大読書器やPC、タブレット端末の使用など)を求めることも必要になるかもしれません。大学になると、掲示されている内容の把握や履修時のサポート、授業で使用するデータを事前に送ってもらう、レポート提出などで大変な場面もあるかもしれません。
4.歩行・移動
「白杖は」、「階段や段差は」、「工事現場などの危険な場所では」、「外出時に、見えにくくて恐いものは」、「その他見えにくくて恐いものをあげてみましょう」、「明るい場所を歩くときには」、「暗い場所を歩くときには」、「交差点の信号は」、「駅やバス停の時刻表・運賃表は」、「バスやタクシーの運賃表は」、「タクシーを拾うときは」、「駅構内の表示は」、「初めての目的地への徒歩移動は」、「建物の入り口は」、「建物内での移動は」、「エレベーターの行き先ボタンは」…と歩行・移動に関する項目はたくさんあります。それだけ視覚障がいの方にとって移動は大きな困難と危険性が伴うということなのですね。
各項目の内容を見ていると、スマホの普及が視覚障がいの方の生活を変えたのだなぁとしみじみ思います。
誘導(手引き)については、日本点字図書館の「いっしょに歩こう~目の不自由な人と楽しく町を歩くために~」が大変参考になります。
5.日常生活
「手元の細かな作業は」、「回覧文書などは」、「掲示板、立て看板、ポスターなどは」、「スクリーンや電子黒板は」、「銀行や病院、役所などの窓口に出す書類は」、「賞味期限、服のサイズ、原材料・材質などの表示は」、「トイレの男女は」、「トイレは」、「乗り物やコンサートホールの指定席は」という項目があります。
この日常生活の項目は、学校・大学や職場などやガイドヘルパーさんへ配慮を伝えるのにも活用できそうです。
トイレについての記載が多いですが、実はトイレって同じ規格のものは少なく、流すボタンやペーパーホルダーの位置って全然違いますよね。たまに僕自身も流すボタンを探すことや、オシャレすぎてどれがなんだかわからないウォシュレットに遭遇したこともあります笑。新幹線のトイレに手引きしたときは、その方はドアの開け方がわからず苦労されていました。音声で配置を案内してくれるトイレもありますが、あくまで少数です。…そうなんです、トイレって意外とハードルが高いんですよ。
6.食事
「レストランやカフェのメニュー(手持ちの印刷物、壁に掲示、タブレット型)は」、「レストランやカフェなどで空席を探すときは」、「テーブルの皿や箸などは」、「テーブルの調味料は」、「テーブルの大皿料理や鍋、刺身は」、「焼肉は」、「わさびなどの薬味は」、「回転寿司は」、「パン屋さんなど、トレイにとる形式のお店は」、「ビュッフェ(バイキング・食べ放題)は」、「お酌などで飲み物を注ぐとき」という項目があります。
レストランや居酒屋のタブレット端末のメニューは増えてきましたが、コンビニやスーパーでもタッチパネル式の精算機が増えてきました。人件費や非接触などのメリットはあるのでしょうが、視覚障がいの方からすると使いにくいという声をよく聞きます。
また回転寿司(回転寿司ではありませんが、コンビニのおにぎりやパンを毎回くじ引きみたいに楽しんでいるという方がいました)や焼肉(焼けたかどうかわからないロシアンルーレット焼肉と言っている方がいました)、トレイでとるパン屋やバイキングなど、お店によってはハードルが高い場合もあるよな(全盲の同僚と大抵一緒に行きましたが笑)と考えながら、修学旅行先のバイキングに苦戦していた生徒たちを思い出しました。
7.趣味・余暇
「見て楽しむことができるのは」、「トランプ、かるたなどのカードゲームは」、「囲碁、将棋な、オセロなどのボードゲームは」、「スタジアムでのスポーツ観戦は」、「普通に参加できるスポーツ(視覚障害者対象を除く)は」という項目があります。
見て楽しめるものと書かれていますが、全盲の方もテレビや映画、YouTubeなどを音声で聴きながら「見る」とよく言われます。
カードゲームやボードゲームは視覚障がいの方が楽しめるような触ってわかる工夫があるものがたくさんあります。
この趣味・余暇の項目は、例えば職場のお誘いを受ける場面なんかを想像してしまうのですが、僕個人の経験からは、「見えてないから楽しめないかも」と躊躇ってしまうよりも、とりあえず一緒に行ってみたら楽しめたみたいな場合もあるかもしれませんよということをお伝えしておきます。
8.パソコン・スマホ
いよいよ最後です。「パソコンの利用で工夫していることは」、「携帯電話・スマートフォンは」、「携帯電話・スマートフォンで工夫していることは」という項目があります。
今や視覚障がいの方が当たり前のようにスマホを使いこなし、LINEやTwitterで情報交換や発信をしている時代ですが、あまり知られていないということもあります。
また使い方も、文字を拡大して見たり、読み上げて聞いたりと使い方はそれぞれです。画像に説明をつけたり、スタンプではなく文章で送って欲しいなんて希望があったりもします。そんな話をするのなら役立つのではないでしょうか。
この後に資料篇があって、見え方紹介カードは終わりです。
途中にも書きましたが、視覚障がいの方が自分のことを知ってもらい、配慮を伝えていくだけでなく、周りの人が視覚障がいの方の日常や生活を知るきっかけにもなるツールだなぁと改めて思います。
いろんな情報があるコラム
それだけでなく、見え方紹介カードには、いろんな情報があるコラムも掲載されています。
・弱視と近視や老眼の違い
・文字の大きさと見えやすさ
・救心性視野狭窄
・中心暗点
・教室での席の位置は
・白杖とは
・階段や段差は
・点字ブロックはなぜ黄色?
・信号を渡るときは
・落としたものは拾ってください
・トイレへ誘導した時は
・こそあど言葉
・料理を一緒に楽しく食べるために
・博物館や映画館の楽しみ方
・環境や経験は弱視者の宝
・パソコンやスマホを介したやり取りを楽しむために
カードの各項目の解説で僕が言及したのと似たようなものもありますが、このコラムを読むことでより視覚障がいの方の日常や生活をイメージできるようになります。
気になる方はぜひコラムも、読んでみてください。
見え方紹介アプリや弱視の見え方解説なども参考に
資料編にも弱視の方の見え方が紹介されていますが、こう言ったし画像や映像があるとより見え方のイメージができますよね。
日本弱視者ネットワークさんは、「見え方紹介アプリ」という、弱視の方の見え方を体験・紹介できるアプリもリリースされています(iPhone…iPadとAndroidどちらにも対応しています)。
(画像はイトウ鍼灸院より)
また日本弱視ネットワークさんの「弱視の見え方解説」も合わせて読んでみるとイメージがふくらみます。
紹介されている内容は以下の通りです。
・弱視について
・全盲との違い
・遠くが見えにくい
・近くが見えにくい
・ものがにじんで見える
・ものがまぶしい
・見える範囲がせまい
・一点に注目しにくい
・色を見分けにくい
また川崎市視覚障害者情報文化センター(川崎アイeyeセンター)の「見えにくい」ってどういうこと?も参考になります。
まとめ
「私の見え方紹介カード」についての記事でした。ちょっと分量が多くなってしまいましたが、カードの内容は視覚障がいの方の日常を知るためにもとっても役に立つものだと思うので、大半を掲載させてもらいました。日本弱視ネットワークさんありがとうございます。
またカードやアプリなんかを活用しつつ、自分の言葉で自分の見え方を紹介できるようになるといいですよね。
そんな「私の見え方紹介カード」は、日本弱視者ネットワークさんのホームページからダウンロードできます。
気になった方はぜひ一度、覗いてみてください。
この記事が見え方紹介カードが広がるための一歩になれば幸いです。
表紙の画像は「私の見え方紹介カード」から引用しました。