特別支援学校からの発信「多様な学びの場の連続性」
以前の記事で障がいのある子たちの多様な進路先について紹介しました。
今回は子どもたちが在籍する、「多様な学びの場」について紹介してきければと思います。よろしくお願いします。
多様な学びの場の連続性とは?
「多様な学びの場」とは、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった学びの場のことです。
過去の歴史を振り返ると、障がいのある子たちの教育は排除、分離、統合(インテグレーション/メインストリーミング)、包括(インクルージョン)と変化してきました。
(画像はslide share「【あぜみVol2】インクルーシブ教育の歴史と現状の課題」より)
(画像はインクルーシブふくおかより)
インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、 個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要とされています。
(画像は北海道立特別支援教育センターより)
(画像は埼玉県より)
居住地の通常学校の通常学級をベースとしながら、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校と、教育的ニーズに応じた専門性の高い教育を受けられるという仕組みになっています。
(画像はTEENSより)
(画像は朝日新聞デジタルより)
また2004年の障害者基本法改正により、「交流及び共同学習」が始まっています。特別支援学級に在籍する児童生徒が、通常の学級の児童生徒と一緒に必要な教科や行事などを行うもの(「協力学級」や「交流学級」と呼ばれる)と、特別支援学校に在籍する児童生徒が、全体的にあるいは個々の希望に応じて地域の通常学校と行うものがあります。別の記事でも紹介しています。
それ以外にも支援学級や支援学校に在籍の場合は、学校で使う勉強道具から通学費、給食費などに必要な費用の一部を、国や地方自治体が補ってくれる「特別支援教育就学奨励費」というサービスを受けることができます。
ある自治体の例
多様な学びの場と言うものの、高校で支援学級が設置されていることはほとんどありません。義務教育ではない、能力別の選抜が行われるというのが主な理由なようです。
ここでは全国でも珍しく高校段階でも多様な学びの場を早くから設置している大阪府の例を紹介します。
(画像はいらすとやより)
1 通常の高等学校
いわゆる通常の高等学校です。公立/私立、全日制/定時制/通信制があり、それぞれの学校で選抜試験が行われ入学者が決定します。
特に知的障がいや発達障がいなどがある生徒が通信制の学校や、定員割れの教育困難校と呼ばれる学校に進学する場合も多いそうです。
2 エンパワメントスクール
中退率全国1位の大阪府が、府立高校で取り組んでいるのが「エンパワメントスクール」の開校です。「生徒の力を引き出す学校」という意味で、卒業までに社会⼈として必要な「基礎学⼒」「考える⼒」「⽣き抜く⼒」をすべての⽣徒に⾝につけさせることを目標としています。
基本的に、小学校レベルの学習から学び直しを行うカリキュラムを実施しています。集中力が続くよう、授業は1時限30分、英国数の主要3教科は15人程度の習熟度別授業、その他タブレットや電子黒板を活用した映像授業を取り入れ、効率的に学習ができる体制を整えています。その他、グループ学習や参加型体験学習で、忍耐⼒や互いを思いやる気持ちなど⼈間関係⼒を育成する取り組みを行なっているようです。出願に必要な条件はなく、卒業時には所属する高等学校の卒業証書が授与されます。
(画像は大阪府より)
(画像は大阪府立西成高校より)
3 ステップスクール
ステップスクールは、義務教育段階までに学校生活での困りやつまずきを経験しながらも、高校生活をとおして、就職や進学をみすえ、基礎的な学びや、地域と一緒に体験的な学びにチャレンジできる学校です。
地域の特色を生かし、地域企業と連携した地場産業(太鼓や靴づくり)体験やマリンスポーツ体験などができる他、進路指導にも力を入れられています。
(画像は大阪府より)
4 知的障がい生徒自立支援コース
高等学校でのいわゆる支援学級をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
高等学校に所属し、高等学校の学習指導要領に基づく教育課程を学びます。生徒・保護者のニーズをふまえ、生徒の状況に応じて、それぞれの授業形態(①クラスでの授業(サポート教員等有/無)、②クラスでの授業(サポート教員等なし)、③小集団授業(知的障がい生徒自立支援コースの生徒がそれぞれ集まって行う授業)、④個別の授業)があります。行事や部活動は在籍校の生徒たちと一緒に行います。
(画像は枚方なぎさ高等学校より)
出願には、①療育手帳の所持、②自力通学が可能という条件があり、選抜試験が行われます。卒業時には、高等学校の卒業証書が授与されます。
(画像は大阪府より)
5 共生推進教室
職業学科を設置する府立知的障がい高等支援学校(後述)の共生推進教室を府立高等学校に設置したものです。在籍は知的障がい高等支援学校になり、週1回程度、本校である知的しょうがい高等支援学校で職業に関する専門教科を学ぶのが特徴です。そのため特別の教育課程が編成されます。授業形態は自立支援コースと同じです。行事や部活動は共生推進教室設置校(高校)の生徒たちと一緒に行います。
(画像は枚岡樟風高校より)
出願には、①療育手帳の所持、②自力通学が可能という条件があり、選抜試験が行われます。卒業時には、高等支援学校の卒業証書が授与されます。
6 職業学科を設置する知的障がい高等支援学校
障がい者雇用枠や特例子会社への就労に特化し、そのための学習や実習、就業体験に重きを置いた、高等部のみ設置の支援学校です。学校によっていくつかの職業学科(プロダクトデザイン科/フードデザイン科/リビングデザイン科、ものづくり科/福祉・園芸科/流通サービス科など)が設置されています。
大阪以外にもいくつかの自治体で設置されています。なお大阪には聴覚高等支援学校もあります。
(画像はむらの高等支援学校より)
(画像はなにわ高等支援学校より)
バスケットボールやサッカー、ソフトボールといった部活動もありますが、インターハイなどではなく知的障がい支援学校の大会に参加します。
出願には、①療育手帳の所持、②自力通学が可能という条件があり、選抜試験が行われます。卒業時には、高等支援学校の卒業証書が授与されます。
7 支援学校
最初にも紹介した支援学校です。障がい種によっては身体障がい者手帳や療育手帳の所持が求められます。肢体不自由、視覚、聴覚の特別支援学校の高等部準ずる課程(高等学校の教育課程で単位を取得するもの)を希望する場合には選抜試験が実施されますが、基本的に希望すれば入学できます。
多くの学校でスクールバスによる送迎や給食があります。学校によっては部活動も行われています。
多様な学びの場をまとめてみるとこんな感じになります。
スペシャルニーズを持つ生徒の高校選びのための17のチェックポイント
Xで見かけたら明蓬館高等学校作成の資料が、選択肢の広がる高等学校進学を考える際にとても参考になると思い、紹介させていただきます。
(画像はX@adhdsavetheplanより)
高校選びの際、大事にしたい視点ですね。
今いる場所に囚われる必要はないのでは
就学の時点でどの場所を選ぶのか悩まれる方もたくさんいらっしゃるかと思います。どの選択がいいのか…なんてもちろんわかりません。
将来地域で生きていくのだから、保育園や幼稚園での交友関係があるから、居住地の通常校へ進学させたいという思いもわかります。
その子の実態やニーズに合わせた環境や専門性の高い支援を求めて支援学校を選ばれるという思いもわかります。
通常学校に進学したけれども、なかなか学習や集団について行くことができず、自信を失って支援学校に編入や進学してくる子たちもいます。
反対に、盲学校時代には、盲学校で点字や弱視レンズなどを使った学び方を身につけて、通常学校へ進学する子もいました。
今いる場所が全てではないかもしれません。せっかくの多様な学びの場があるのですから、その子に合った学びの場を選べるのがいいのになぁと思います。
どこでも誰にでも、個に応じた適切な支援や配慮が提供されるのがインクルーシブ教育のめざす姿なのですから。今回紹介した以外にも、フリースクールやホームスクールといった学びの場もありますし。
大事なのは本人の選択と…
進学や就労が人生の全てではありません。その先で学んだり働いたりを続けながら、充実した生活を送り続けることの方が、個人的には大切だと思います。ただ「進路をどうするのか」が就学や進学する際の大事なポイントになるのも事実です。
以前にも別の記事で紹介しましたが、就労にあたって高等学校卒業(単位認定と評定がある)か支援学校高等部(あるいは高等支援学校)卒業かで違いがあるかどうかはケースバイケースです(企業によっては高卒扱いになったり、中卒扱いになったりです)。支援学校高等部を卒業すれば、大学入学資格はあります(受験できるかどうか、特にAO入試や推薦入試など評定が必要になる場合は個々の大学との相談になります)。
ですが、大事なのは「どこに在籍したのか」ではなく、「本人がどうしたいのか」「(進学や就労の時点で)どんな力を持っているのか」です。
進学に必要なのは学力ですし、就学に必要なのは社会性やコミュニケーション、作業スキルなどです(もちろん働き続けるためには、金銭スキルや余暇の過ごし方、人間関係を構築する力、人に頼るスキルや支援や配慮を求めるスキルをなどいろんなものが必要になるかもしれません)。
高等支援学校に進学すれば作業スキルが高まり必ず就労できる訳ではありません。地域の支援学校から企業就労する子もいます。また高等学校に3年間在籍し、卒業すれば一定の学力がつくわけではありません。
ただその子に本当に熱意や意欲があるのかは大事なポイントだと思います。同じ3年間でも、受動的に机と椅子に座って過ごすのと、本人が目的意識を持って取り組むのとでは、卒業の時点で大きな違いがあります。もちろん、進んだ先でその子がどうなるのかなんて、本当にわかりません。
その子の人生なのですから、保護者や教員、支援者など周りの意見だけでなく、その子自身の考えを大切にして、本人が納得した上で決めることをおすすめします。
まとめ
就学や進学、さらにその先の就労の話をすると過去の子どもたちとの思い出が浮かんできます。
この進路先では難しいのではないかと思っていた子が日々チャレンジし楽しんでいるのを報告してくれたこともありますし、学習に重きを置いた進路先へ進んだもののついていけず「3年間(座って授業を聞いて)お尻が痛いだけだった。仕事のための勉強をしていた方がよかった」なんて発言をする子もいました。
なにがよかったのか、正解だったのかなんてわかりませんし、長年見ている支援学校教員でも思いもよらないこともたくさんあります。ただ繰り返しになりますが、「将来に希望する進路でどんな力が必要になるのか」を考えることと、本人がどれだけ意識や意欲、熱意を持っているのかがとても大事になると思います。
もちろん紹介している参考にしたサイトや学校のホームページを覗き、学校見学やオープンキャンパスに参加して保護者の方やその子自身が体験した上で選択することが大切なのは言うまでもありませんが。
この記事がそんな風に就学先や進路先を考える際に少しでもお役に立てば幸いです。
参考にしたサイト
1.slide share「【あぜみVol2】インクルーシブ教育の歴史と現状の課題」
3.国立特別支援教育総合研究所「インクルーシブ教育システム推進センター」
6.通信制高校ガイド「学び直しができる高校、大阪府の「エンパワメントスクール」とは?」
7.発達障害のサバイブ術「高等特別支援学校とは? 障害のある子どもの進路について考える」
8.障害者雇用の教科書「特別支援学校卒は高卒にならない?働く上での学歴の扱い」
9.発達障害 子育て研究所「発達障害のお子さんの将来を考える 特別支援学校・高等部(高等特別支援学校を含む)を卒業しても高卒にならない?」
10.LITALICO life 発達障害「特別支援学級とは?入学基準や就学先の決め方、対象児童、その先の進路も解説」
表紙の画像はPRESIDENT onlineより引用しました。