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特別支援学校からの発信「こだわり保存の法則」

障がいのある子たち、とりわけASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子たちには「こだわり」や「常同行動」「興味の偏り」と呼ばれる、周りの人からするとよくわからない、奇妙と思われる行動や反応、嗜好を取ることがあります。

もちろんそれらには彼らなりの背景や理由があるのですが、そのこだわりが彼ら自身や周りの人をしんどくさせてしまうこともあります。今回はそんな「こだわり(便宜上、ひとまとめにしたそう呼ばせてもらいます)」について少しお話ししたいと思います。

「こだわり」あるいは常同行動、興味の偏りとは?

こだわりや常同行動については、なかなか僕の知識や言葉では難しく、以下にその説明を引用させていただきます。

自閉症の3つの主たる特徴として、対人関係の障害、言語・コミュニケーションの障害、こだわりがあるという話は今までに何度か述べてきたと思います。今回の話は主にこだわりに関係する所です。常同行動、興味の偏りというのも、大きくこだわりの仲間に入れて考えればいいかと思います。
 「入ってくる情報を整理して全体として捉えて考えることが苦手」だと、どういうことが起こるのでしょう。
 一つには、状況の理解が難しくなります。
 我々は生活する中で、様々な情報を取り入れています。こうしているだけで、いろいろな音が入ってきます。エアコンの音、外の車の音、テレビの音、家族が自分を呼ぶ声、我々はその中から、自分の必要な音のみに注意を絞り、他の音はあまり意識の中に入ってきません。また、その中でも自分の身近な人の呼び声には、ことのほか敏感に反応します。
 それが出来ないとどうなるでしょう。様々な刺激がワーと洪水のように入ってきてそれをうまく整理が出来ず、意味がつかめないと、とても不安な気持ちになります。例えば我々が言葉の通じない外国に一人で行って通りの喧騒の中に立ったときのことを想像してみて下さい。よく分からない話し声が周囲から聞こえてきますが、それはただの騒音でしかありません。そうしたときにどうするか。例えばCDを聞いたり本を読んだり、ぼーっと考え事をしたりといったことに集中して、周りから聞こえてくるものを気にしないようにするかもしれません。常同行動というのはそういうことなのかなあと思います。手をヒラヒラさせてそれを見ていたり、くるくる回っていたり、そうしている間は呼んでも反応はなく、周囲の世界とは断絶しているかのようです。本人としては、訳のわからない「音の洪水」に振り回されず、自分のわかる刺激を楽しむことで精神的な安定を図っているのでしょう。
 もう一つは、あいまいなことがよく理解できないということです。
 自閉症の子どもはユニークなものに興味を持つことがあります。
 それは文字や数字、マーク、キャラクター、カレンダー、あるいはコンピューター、時刻表、地図、いろんな「特定の知識」・・・
 これらに共通することは、答えがはっきりしていて変化しない、無機質なものということです。マクドナルドのマークはどこにあっても同じです。数字は誰が書いても大体似た形をしています。例えばこれが「犬」になると、柴犬とセントバーナードとブルドックとが、総て犬なのかというのは、大変分かりにくい。明確な指標が決まっていないからです。また、コンピューターだと打ち込んだものに対応した決まった答えが返ってきますが、人との付き合いでは、相手によって反応が違います。文脈や態度からニュアンスを感じ取らないといけません。なかなか難しいことです。
 あともう一つは、何が大事かがよくわからないということです。
 例えば、ある状況で嫌なことが起こった時、何が原因か分からないときには自分で判断するしかありません。母親が赤い服を着ていたときに歯医者に連れて行かれて痛い思いをすると、赤い服も大嫌いになります。逆にある状況でうまくやれているときにちょっとでも変わったことがあると、何か大変なことが起こるんじゃないかと心配になります。だから置いてあるものの位置も、日常生活の順序も母親の服も、みんな同じだと安心します。これがこだわりの要因の一つだろうと考えています。
 まとめると次のようなことになるのかなあと考えています。常同行動は、周囲の世界がわからないのですべてを遮断している状態。興味の偏りは、分かるものだけを選択してそれにのみ意識を向けることであいまいなものは気にしないようにすること。こだわりは、あいまいな現実を本人なりに分かりやすく無理やり枠にはめて理解しようとすること。
 この3つの特徴は、違うようで似ているように思えてこないでしょうか?
 常同行動は、知的に幼い段階に多く見られ、成長とともに少なくなります。興味の偏りやこだわりは、知的な理解が発達して、周囲の世界がわかってくると少なくなりますが、常同行動と比べると、かなり成長してもその特徴がどこかに見られたりします。
 こだわりについてすべてこれが原因というわけではなくて、いろいろな場合があります。これを読んですべて当てはめるとしっくり来ない場合のほうが多いのではないでしょうか。
 大事なことは、彼らのする行動について、「なんでかな?」と考えてみることだと思います。訳のわからない不思議な行動にも、彼らなりの理由があるのです。すべてわかるわけではありませんが、わかろうと努めることが、彼らをよりよく理解し、うまく付き合っていくための第一歩となるのだろうと思います。
愛知県青い鳥医療センター「自閉症って何なの(後編)より)

冒頭でも述べたように、「こだわり」には彼らなりの理由があるのです。

今まで出会ったいろんな「こだわり」

よく聞くこだわりの例には、クルマのおもちゃを走らせるのではなく手に持ってひたすら車輪を回す、何かをするときの方法や道順、手順、物の並べ方などがいつも同じでないと気が済まない、順番や競争などで一番になれないとパニックを起こしたり、相手とトラブルになったりするなどがあります。

僕が自閉症(当時はそう呼ばれていました)の子たちに初めて出会ったのは大学時代に先輩に連れられて参加した障がい児学童(今で言う放課後等児童デイサービス)でした。

コマの紐を肌身離さず四六時中揺らしている子や本の順番が少しでも狂うと怒りだして並べ直す子(これは僕も共感する)、ドアや窓が全部閉まっていると落ち着かない子(割れたら壊れたときはどうするのだろう?)、お弁当はパンしか食べない子、プールに行くとずっと潜水して底を眺めている子、最初は彼らが何をしているのかわからず、どう接したらいいのかもわからず戸惑いましたが(今ならいろいろ考察するだろうなと思いますが)、一緒に同じ場で過ごすうちに「そんなものだ」と思うようになりました。

初めて支援学校で働いた初日の給食がエビフライカレーでした。エビが嫌いな僕は喜ぶ生徒たちの傍で「これが給食の洗礼か…」と問答していたのですが、カレーを白米にかけて配膳したときにある子から泣きながらに抗議されたのも今ではいい思い出です。その子は白米は白米だけで食べると言うこだわりの持ち主で、カレールーとルーのついた白米を食べてから、最後に笑顔で白米を食べていました。

盲学校でも、特定の音を繰り返し聞いたり、絶対音感のあまりピアノの音が少しズレているのが許せなかったり(僕には違いが全くわからない)、まぶたの上から眼球を押す「目押し」を繰り返す子たちに出会いました。

今の職場でも、床に落ちているゴミを拾ってはすぐにプレゼントしてくれる子がいたりと、いろんなこだわりがあります。

こだわりへの対処

僕自身は、本人や周りの人に危害を加えるなど危険でない限りこだわりはそのままにしておいたほうがいいと思います。読んできた本や研修会でもそう言われていました。

ある記事を読んでいるとこだわりに対しては、なくそうとする派とさしかえようとする派の二代派閥があるのだとか。

あるこだわりを消そうとすると(これは本人にとってもまわりにとってもとても大変なことです)、大抵、他の新しいこだわりが出てきます。

これは考えてみれば当たり前で、彼らにとってみればこのわけのわからない世界で何とかやっていくために見つけた法則やルール、あるいはお守り(のようなものと本人は思っている)なのに、それがダメだと否定されるのですから、すぐに何か別の心の拠り所を見つけようとするのでしょう。

そしてあまり良くない言い方かもしれませんが、そのこだわりを潰したとして、次にどんなこだわりが出てくるのかはわからないのです。

なのでこだわりをなくそうとする派は気力と体力を消耗する割に合わない結果になるかもしれませんね。

こだわり保存の法則

この、あるこだわりがなくなっても別のこだわりが出てくるということを研修会である講師の方が「こだわり保存の法則」と言われていました。こだわりを、理科で習う「質量保存の法則」になぞらえたものです。要約すると、こだわりに向けられるエネルギーは一定量あり、あるこだわりがなくなっても、そのエネルギー分他のこだわりが現れるといったところでしょうか。

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(画像は化学受験テクニック塾より)

そしてこの法則は、こだわりの対象を増やしたり、他に熱中できることを見つけると、そのこだわりへのこだわりが弱まるということにもつながります。

まぁこだわりを別のものに置き換えるというのは、興味関心の幅が限られる子たちにとってとっても難しいことではあるのですが…。それがこだわりをさしかえようとする派の難しさなのだと思います。

ただ僕自身も、好きなアニメやゲーム、部活動に夢中になるにつれそれまでのこだわりが嘘のように消えていった子たちを何人も見ています。

また知識や理解が広がり、経験を重ね、本人が納得することで、それまでのこだわりが減ったり、折り合いをつけられるようになることもあります。

こだわり保存の法則については『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち(本田 秀夫)』という本にも解説されていました。少し引用します。


「こだわりが強い」と言う特性について、こだわりの内容が変わる事はあっても、その総量は変わらないのではないか、というふうに解説しました。私はこのことを「こだわり保存の法則」と呼んでいます。私の臨床経験上、発達の特性がある人の「こだわりへのエネルギー量」は、生涯を通じて一定だと考えられるのです。この法則を、環境調整に活用することができます。…
 たとえばお子さんで、好きな数字、換気扇を見ること、物の置き場所、ミニカーを集めること、好きな道順という5つのこだわりがある子がいたとします。そして、家族など身近な人が、その子の道順へのこだわりに困っていたとしましょう。いっしょに出かけるとき、子どもに道順への強いこだわりがあるため、ひどく遠回りをしなければいけないことがあるのです。しかし、こだわりを解消させようとして別の道順を教えたり試したりしても、本人の抵抗が強く、むしろこだわりが強くなるいっぽうでした。
 このようなケースには「こだわり保存の法則」を活用した環境調整が有効な場合があります。こだわりの一定量は変わらないと言う仮説に立って、数あるこだわりの中で本人にも身近な人にも負担が少なく、誰もあまり困らないこだわりを、積極的に残していくようにするのです。
 この子の場合には、たとえば、物の置き場所へのこだわりが整理整頓にもつながるようであれば、そこにはとことんこだわってもらうという方法が考えられます。通常であれば、子どもが置き場所にこだわって身支度が遅れるようなことがあると、家族はそれを注意するものです。しかしその発想を転換させて、置き場所へのこだわりを保障するようにします。身支度には時間がかかるということを理解し、余裕のあるタイムスケジュールを組むのです。そうすると、本人が置き場所へのこだわりを十分に発揮できるようになり、それと反比例するようにして、ほかのこだわりが減っていく可能性があります。
 こだわりの強さと言う特性を、「本人にとってもまわりの人にとっても負担の少ないこだわり」という形で残していく。これもひとつの環境調整と言えるでしょう。
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(画像は『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち(本田 秀夫)』第4章より)

「こだわりが強い」と言う特性について、こだわりの内容が変わる事はあっても、その総量は変わらないのではないか、と言うふうに解説しました。私はこのことを「こだわり保存の法則」と呼んでいます。私の臨床経験上、発達の特性がある人の「こだわりへのエネルギー量」は、生涯を通じて行っていたと考えられるのです。この法則を、環境調整に活用することができます。189ページの頭を使って説明しましょう。


こだわりを広げるというアプローチ

別のアプローチも紹介しておきます。

それはこだわりの対象を広げていくというものです。こだわっているのがモノなら、そのモノから派生したモノへ、ヒトならそのヒトに関するコトや一緒に取り組むコトへ、対象を広げていくのです。

少し違うかもしれませんが、漢字に苦手意識があって全然書けなかった子が、大好きな魚の漢字や魚に関連する漢字を覚え、さらに例えば「鯛」「鯵」など魚の漢字の魚へん以外の部分から派生する漢字「周」「参」などを覚えていった結果、漢字が大得意になり、漢字が大好きになり、漢検一級を取ってしまったという話を聞いたことがあります。

もう1つ、数字の3にこだわりがあって、電車の3号車にしか乗れなかった方が、3の倍数の6号車と9号車にもこだわってもらえるようになり、通勤がスムーズになったという例もあるようです。

まとめ

こだわりについてお話ししましたがどうでしたか?子どもたちのこだわりがわからず、困ってしまっている方もいるかと思います。

繰り返しになりますが、こだわりはその子がこの不可解で奇妙な世界を生きていくための拠り所の1つです。なくそうと思ってなくなるものではありません。

あるツイートで、こだわりを「マイブーム」と読んでみようという話がありました。

もちろん個々の実態によってアプローチの仕方は異なりますし、難しい場合も多いかと思います。

ただ、子どものこだわりに周りの大人が「こだわる」のではなく、その原因を考えて不安の軽減に取り組む方が建設的かもしれません。

この記事がそういった困難さや難題を抱える当事者の方や支援者の方のお役に立てば幸いです。


参考にしたサイト・本

アスペ・エルデの会『家族支援ガイドブック ともに歩む親たちのための「してもらう」から「ともに歩む」への道程』

生活介護の 笑プラス「こだわり保存の法則~あれが気になってしょうがない~」

『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち(本田 秀夫)』



表紙の画像は、TRANS.Bizから引用しました。