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私の前世探求記【第三話】
前回のあらすじ:
前世探究にいそしむQ太郎は、ついに自身の前世の人物を特定した。
さらなる確証を得るために占い師に助言をもとめたところ、「夢が教えてくれる」とのことだった。
2021年の初夢に期待をかけ、Q太郎はついに前世の時代の夢を見ることに成功するのだった!
【2021年1月2日つづき】
夢の中。
チェコの貴族の館の前に、Q太郎は居た。
夢の中でのQ太郎はチェコ人のようだったが、景色は一人称視点で見えているので自分の姿は分からない。
しかし自分の周りには、貴族の娘らしき人が3人程いて、どうやらQ太郎はその従者として連れて来られたようだ。
3人の娘はQ太郎に対してすごく高圧的な態度をとり、冷たい言葉を浴びせてくる。
「あんたなんか、本当はここへ来れるような立場じゃないんだから!館の中に入っても、使用人と一緒に部屋の隅にでも座って、パンくずを齧ってなさい!」
屋敷の中では豪勢な食事会が開かれており、娘らは自分たちのための来賓席へと進んで行った。
Q太郎は言われた通りに、部屋の隅に座り、粗末なテーブルに落ちていた硬いパンくずを手にして、しょんぼりするほかなかった。
しかしまもなく、部屋の奥からツカツカと足音がして、何者かがQ太郎に近づいてきた。
どうやらそれは、この館の主のようだ。
館の主はQ太郎とさほど歳は変わらない。2人とも20代から30代の青年、といった雰囲気だ。
そして、館の主はQ太郎に語りかけてきた。
「どうしてこんな隅っこにいるんです。あなたはこんな場所に座るべき人間ではありません。さあ、こっちに来て、私と一緒にご馳走を食べましょう。」
と、優しい言葉をかけてくれた。
そして主賓席へいざなわれ、館の主と楽しく談笑しながらご馳走を食べた。
話の流れから、Q太郎は元は貴族身分であったが、何らかの事情により身分を降格させられ、他家の娘の従者として雇われる身となっていたようだ。
そして、この晩餐会の館の主とQ太郎は旧知の仲であったらしい。昔話や、戦場で共に戦った思い出話などに花が咲いた。
会話をしながら、Q太郎の意識の半分は覚醒していた。
会話の中からこの人物の名前を知ることはできないかと、アンテナを張っていたのである。
「ところで、この私、なんちゃらChvalなんちゃらは…」
館の主がそう言ったのを、Q太郎は聞き漏らさなかった。
「よっしゃあー!名前ゲット!」
と、喜んで飛び起きる。
夢の記憶はすぐに霧散してしまうので、忘れないうちに枕元のメモ帳に書きなぐった。
前後になんちゃらというのがあってうまく聞き取れなかったが、「Chval」という部分だけは綴りも覚えていた。クバル、またはフバルという発音だった。
夢の途中で目を覚ましたので、その後のストーリーがどうなったのかは不明である。
しかし大きな収穫だ。
Q太郎は翌日から、夢で見た「Chval」という名前を求めて調査を進めるのだった。
【2021年1月8日】
初夢から1週間が経とうとしていた。
しかし、Chvalという名前(または地名)を見つけることはできず、「やはり夢は夢でしかないのか、しょんぼり。」と、探すのを諦めようとしていた。
気を取り直し、Q太郎は別のものを調べることにし、それ用の資料探しへと気持ちを切り替えた。
ちょうどその頃、歴史書に出てくる「Kop」という単語の意味が分からずに調べようとしていたのだった。
ネットで検索をかけて、やはりチェコ語で書かれた歴史書がヒットしたので、それに軽く目を通す。
ん?文中に、思いもかけないものがあった。
Jiřík z Chvalkovský
人の名前だ。
夢で見た「Chval」を含んだ名前だ!
(ちなみに、kopというのは大きなお金を表す単位のことであった。)
【2021年1月12日】
さらなる発見をする。
先日の「Jiřík Chvalkovský」(イジー・フヴァルコフスキー)について調べていたところ、Q太郎の前世候補者であるアレシュ・リーズンブルクの名前が書いてある資料がヒットする。
そして、アレシュの名が書いてある同じページに、なんと、イジー・フヴァルコフスキーの名前も書いてあった!
しかも、2人の名前は並んで記載されていた!
その部分を翻訳すると、「1420年のある日、アレシュとイジーは共に戦闘に参加した……(中略)……2人は遠い親戚関係であり、同盟を結んでいた」
とある!
この記述により、Q太郎は自身の前世がアレシュ・リーズンブルクであったと確信する。
Aleš Vřešťovský z Rýzmburka
【2021年1月某日】
調べものばかり、座りっぱなしなので身体によくないと思い、筋トレをする。
漬物石があったので、それを抱えてスクワットをしよう。
よいしょっ。
【2021年1月某日の翌日】
ギックリ腰になった。
【2021年2月某日】
腰はだいぶ良くなったが、メンテナンスのために整体に通う。この整体院には数ヶ月前から通っており、Q太郎は整体師のお姉さんと打ち解けていた。
整体師のお姉さんにギックリ腰の経緯を話すと、お姉さんは腹を抱えて笑った。
整体を受けながら、Q太郎は「量子力学」について言及した。
先ほどの不名誉のリベンジで、頭の良さをお姉さんにアピールするのである。
「お魚を獲るときのなにかですか?」
と、お姉さんは真面目に聞いてきた。
「漁師さんの力学じゃねぇですよ」
Q太郎の前世探究は続く。