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ロスチャイルド家を飛び出ていった伝説の大叔母の足跡をロスチャイルド家の人間が追いかけるお話
月曜日の朝は蒸し魚、火曜日はゆで卵が一つ、水曜日もゆで卵、木曜日は蒸し魚、といった感じで食事のメニューはいつも一緒。毎朝きっかり同じ時間に起きて、乳母たちに散歩に連れ出される。かけっこやかくれんぼは禁止。16歳になって初めて両親と一緒に夕食をとることが許されたらしい。
これがロスチャイルド家の子供の生活。
何もかもが規則正しく変化のない日常。
一族は厳格な男性相続で一族の記録に名前が記載されるのは長男の娘たちだけ。彼女たちの夫や子供は記載されない。
そんなロスチャイルド家の内側エピソードが結構なボリュームで綴られていたのがハナ・ロスチャイルド『パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う』だった。
ジャズが好きだったのでニカ男爵夫人の名前は聞いたことあるけど、彼女がロスチャイルド家を飛び出てきた一族のアウトローだったことまでは知らなかった。
著者のハナもロスチャイルド家の人間。そう、これはロスチャイルド家を飛び出ていった伝説の大叔母の足跡をロスチャイルド家の人間が追いかけるお話なのだ。
ジャズに関わるようになってからの話はかなり後半で、どちらかというと冒頭に書いたような変化のない閉塞的な生活を抜け出し、飾り物の生活を捨てて自由に生きる女性の自伝といった趣きが結構強い。
アーチー・シェップが本書に寄せた「時代の先を行っていた人で、フェミニストの先駆者の一人であり、自分らしく生きる権利を行使した」っていうコメントが一番しっくりくるかも。
モダンジャズの黎明期にミュージシャンを支えたパトロンの記録であり、
一人の女性が閉鎖的な家庭を飛び出て自由に生きた話でもある。
秘密主義で謎に包まれたロスチャイルド家の内幕を描いた物語でもあり、
ユダヤ人の迫害と黒人差別の記録でもある。
想像以上に多面的な作品でした。
どうでもいいけど、夕食以外は意外と質素なメニューだよね、ゆで卵だけなんだ!?ってのは驚いた。現代が飽食の時代過ぎるのかな。
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