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「物語」というわかりやすい話のみを愛でることに一度疑問を持ってしまった者にとって、後藤明生はヒーロー

二子玉川に様々な書店が集結するイベントがたいそう盛り上がったらしいというツイートを流し見しつつ、そこへ行けなかったことへの後悔と、まぁ別に近所にイケてる書店があるから良いもんね、という強がりにも似た気持ちを抱えながら、その日は朝から赤ワインをなめながら過ごしていたはずなのだけど、ふと気がつくといつもの書店の棚を物色している自分に気がついたのだった。

そこで見つけた蛍光色の黄色の本は、デラックス解説版と称して、小説本編と作品にまつわる解説を数編納めた作りになっているようだったが、何よりも帯に大書された「物語の筋を追っても意味なし!」というコピーが20年近く前の自分の記憶を刺激する。

小説にしろ、映画にしろ、「物語」というわかりやすい話のみを愛でることに一度疑問を持ってしまった者にとって、後藤明生はヒーローであり続けるし、講談社文芸文庫版の『挟み撃ち』を読んだ20年近く前の時空に意識を持っていかれたわたしはまるでこの小説の主人公のように棚の前に佇んでいたとも言える。

と、なんとなくそれっぽく書いてみたけれど、奥泉光&いとうせいこうの対談が非常に面白く、またわかりやすい。物語否定派のいとうせいこうと、物語を必要悪として捉える奥泉光との掛け合いは改めて「小説」と「物語」の関係を考えさせてくれるし、まさにこの『挟み撃ち』という作品自体がそのような問題意識のもとに存在していることもよくわかる。

なので、物語自体に疑問を持つってどういうこと??面白い/面白くないはそりゃ物語の話以外にないでしょ?っていう人が読むと世界が広がるかもしれない。

まぁ、そんな他人の世界が広がるかどうかなんてことは大きなお世話でしかなくて、再び『挟み撃ち』を読み、この作品のことを嬉々として語る人たちの言説を読むのは至福のひと時だろうな、と思って買っていた。ただそれだけなんだけど。

小説とその作品の解説、評論をパッケージにして売る、と言うのはとても面白いし、シリーズものとして展開するの結構ニーズあるかもね。

その作品のことを語るエッセイを先に読んで読みたくなってから本編出て来て、最後にその作品をめぐる評論が数本、みたいな構成とかも良いな。

自分の好きなことを表明すると、気の合う仲間が集まってくるらしい。とりあえず、読んでくれた人に感謝、スキ押してくれた人に大感謝、あなたのスキが次を書くモチベーションです。サポートはいわゆる投げ銭。noteの会員じゃなくてもできるらしい。そんな奇特な人には超大感謝&幸せを祈ります。