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「遊具デザイン」を通じて世界を知る

こんにちは。
私はベルリン郊外の遊具製造会社に属するデザインスタジオで、公園と遊具のデザイナーとして働いています。

公園といっても、「パーク」というよりは、遊具のある「プレイグラウンド」、「プレイエリア」の、遊具の配置や設置の方向、地面の材質の提案をしています。ドイツ国内や世界のいろいろな国のプロジェクトごとに、計画されているプレイグラウンドの敷地、テーマ、対象年齢、予算など、要望や条件によって一から遊具のデザインをします。

私はヨーロッパの遊具に関する安全基準EN1176による認定点検検査士の資格を持っていて、この安全基準に基づいた遊具のデザインをしています。

これまで、ヨーロッパ諸国を始めいろいろな国の遊具のデザインをさせてもらってきました。遊具をデザインする中で、その条件や業者さんとのやり取りを通じてその国の一面が見えてくることがあります。

今日は、そんなお話をしたいと思います。

ちなみに、タイトルの画像は、ベルリンの「綿毛小学校」の校庭に建てられた遊具の最初のスケッチです。子どもたちのアイデアをもとに、タンポポの綿毛をテーマにデザインしました。
この手前に柵が立って、ふたつの塔の間の綿毛の間が校門になっていて、人や車が通るようになっています。
この学校は児童館も兼ねていて校庭が解放されているので、午後は地域の子どもたちが自由に遊べる場所になっています。

エルサレムの集いの場

イスラエルのエルサレム。ここは現在世界で一番子どもにお金をかけている街だそうで、デザインをさせてもらった公園の遊具への予算も膨大。

昨年エルサレムの人々の集いの場、Sacher Parkという公園のプレイエリアのデザインをしたのですが、計画された約3000㎡のエリアには使いきれないほどの予算で、この予算をどうやったら使い切れるかと、なかなかない普段とは逆の悲鳴を上げました。
個人的には、この余った予算を他の公園や教育のいろいろな場面に使ったら。。。と思うのですが、そのどこにおいてもたっぷりとお金がかけられているのでしょうか。

現地に住む業者さんにとっては当たり前で気づかないような宗教的・政治的なタブーもイスラエルにはあるかもしれないと思い、エルサレムで子ども〜学生時代を過ごした友達に相談してみたところ、Sacher Parkは宗教や言語や出身地などに関係なくいろんな人が集まる場所だそう。でも、子どもたちも、小さな頃からそういった違いを感じていて、同じ公園の同じ遊具で遊んでいても、一緒に遊んだり交わったりすることはないとか。
んー。その壁を公園全体のデザインと遊具を通じた遊びで少しでも崩せないだろうか。ここで子どもたちが一緒に遊んで、そこから小さな変化が生まれないだろうか。

このプロジェクトはまだ進行中なので詳細は述べられないのですが、公園と遊具の意味や可能性についてさらに深く考え学びの多かったプロジェクトです。

ヨーロッパ以外のプロジェクトでは、ヨーロッパの安全基準EN1176と現地の安全基準のどちらも満たすように遊具をデザインします。
イスラエルの安全基準は複雑で、子どもの安全と遊びの価値を第一に考えられているはずなのに、不思議なことにEN1176と矛盾するところもあり、擦り合わせながら完成させていきます。

また自由に旅行ができるようになったら、このプロジェクト完成後に是非行ってみたい街のひとつです。


インドで始まった遊具デザイン

2019年に、オーストリアのウィーンで、街の中での子どもの遊びと子どもの権利に関するカンファレンスがありました。そこに参加したとき、インドでインドアとアウトドア用の遊具のデザインと販売の会社Gudgudeeを立ち上げたAditi Agrawalさんに出会いました。
Gudgudeeはヒンディー語で「くすぐる」という意味だそうです。

このカンファレンスは、Child in the Cityという団体が主催で行われたもの。イベント以外にも、世界の子どもに関する記事がほぼ毎日更新されているので、興味がある方はぜひニュースレターを申し込んでみてください。

Aditiさんと話をしてみると、私が遊びと学びのデザインを学んだ大学と提携しているインドのデザイン学校National institute of Designで学んだようで、共通の知り合いもいてびっくり。
同じ分野で活動をしていると、その世界の狭さに驚くことが多々ありますよね。

ヨーロッパでは、1960年頃から、柵で囲まれた公園を取り除こう、子どもたちをフェンスの中に追いやるのはやめよう、という動きがありました。

Aditiさんのお話では、インドでは子どもが街で自由に遊ぶなんて危なくて考えられない状態で、遊びの重要性もまだまだ全然認識されていない、とのこと。
時代と場所に合った遊び場を作っていくことの重要性を再認識しました。

Aditiさんは、子どもたちが安全に遊べる場所を作るために遊びの重要性を唱えたり、全ての子どもたちが遊ぶ権利を得られるようにインクルーシブな遊具を作ったり、強い意志と行動力のある素敵な女性です。

Gudgudeeのホームページにインタビューの動画も出ているので、興味がある方はぜひ。


緑の街ドバイ

ドバイでは住宅地が次々と建てられ、それに伴って遊具のあるプレイエリアも続々と設置されています。

わたしもドバイやその周辺の公園や住宅地のデザインをいくつかさせてもらったのですが、夏は40℃を超える日も多く、材質選びがなかなか難しいのです。ステンレススチールは熱くなるし、一日の温度差で木材にはヒビが入るし。私の働いている会社では取り扱っていないのですが、プラスチックも熱によるダメージを受けます。
木材は極力ヒビが入らないように加工し、木材の代わりになるような素材も取り入れ、日除けでできるだけ影を作ります。

最終プレゼンのために現地に招かれたときに驚いたのは、緑がとても多いということ。
新しい住宅地では地面の下に水の供給システムが張り巡らされていて、木や花がそこら中に生えていました。建設中の住宅地には木は一本も見られず、すべて人工的に緑化されているのだと思うと、本当に驚きました。

他にも感じたのは、すべての世代のことを考えて計画されているということ。これは私たちも常に重要視していることなのですが、小さい子どもから大きい子どもまでみんなんが遊べる遊具、そして大人の休憩やコミュニケーションの場、そして、スポーツ機器やシニアの運動機器など、公園がみんなのための場所という認識のもとで作られていると感じました。


治安が良く極寒の北欧

ドイツからさほど遠くない北欧の国、デンマークやフィンランドやノルウェーでもいくつかの公園をデザインしてきました。

私たちの会社を訪ねてきてくれたり、現地のランドスケープアーキテクトの方たちのところへ出向いたりと、直接お話をしていて感じるのが、北欧の治安の良さ。ベルリンとは大違いです。
場所にも財政面にも本当に余裕があって豊かだなぁとつくづく思います。

ドイツ国内でもベルリンでは特に、遊具はオープンなデザインにすること、かなり丈夫に作ること、がとても重要です。
壁に覆われていたり屋根があったりして死角の多い遊具では寝泊まりする人が出てきてしまって、子どもたちが安心して遊べる環境ではなくなってしまうからです。
また、ネジが外されたりロープが切られたりすることも少なくないため、そういった破壊行為対策もしなければなりません。

福祉国家で有名な北欧の国では、遊具デザインでそういったことは問題にはならないらしく、とても驚きます。

ポールや雲梯や上り棒などのステンレススチールの部品は、微細な硝子の粒子を吹き付けてマットな表面加工をし、お客様からの要望やデザインによっては、その上からパウダー状の色を吹き付け焼き付けるというパウダーコーティングでカラーリングをしています。

冬は極寒のフィンランド。今年も-30℃まで下がる日が続いたようです。
この寒さの中で子どもたちがステンレススチールのポールに舌を付けて凍って取れなくなるということが度々起こるらしく、それを少しでも防ぐためにも、フィンランドの遊具には常にパウダーコーティングをしています。


日本の遊具の安全基準

日本の「遊具の安全に関する規準」は、ヨーロッパの安全基準EN1176とアメリカの安全基準等を参考に、日本公園施設業協会によって2002年に定められました。

まちの公園の遊具をはじめ、保育所、幼稚園、小学校、児童館などの遊具を対象に、子どもにとっての遊びの価値を尊重し、重大事故を予防するという観点で作成されたそうです。

先月末、「子どもの発達と遊具の可能性」というオンライン学習会に参加しました。日本の遊具の会社や子どもの安全研究グループSafe Kids Japan、保育の分野で活躍されている方や小児科のお医者さんが、それぞれの観点から見る遊具の安全性やこれまでに起こった事故やそれによる負傷などについてお話しされました。様々な分野の専門家たちが遊具を通した観点で子どもたちの安全について一緒に考えていく。素晴らしいです。現状と問題点と今後の見解についてお話されていて、とても勉強になりました。

日本の遊具のことや子どもの遊びの環境についてもっともっと知りたいと強く思いました。


その他いろいろ

その他にも、オーストラリアやロシアでは木製の遊具が好まれるとか、北欧ではステンレススチール性でシンプルな遊具が定番だとか、また、ドバイではカラフルな遊具が多いとか、国や文化によって好まれるものが異なるのもおもしろい発見です。

また、それぞれの国のロックダウンの程度やその状況下での子どもたちの外遊びの環境について情報交換ができ、こんな状況でも、国をまたいでも、子どもたちの遊びの環境をよりよいものにしていこうという想いでつながれていることにとても励まされます。


私はこんな風に遊具デザインの仕事をしています。
他にもこの仕事を通じて学んでいることを書いているので、こちらもぜひ読んでみてください。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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