イノベーション創出力を高めよ!〜 アイデア発想法のポイントと落とし穴 〜
デジタルイノベーション時代を勝ち抜くために社員の発想を引き出す取り組みが活発になっています。未来を予測することが困難なVUCA時代に、どのようにアイデアを発想し、強化、展開させていくべきでしょうか。
イノベーション創出を事業としているbridgeの大長社長と新規事業を次々生み出しているシステムインテグレータの梅田会長を招いて、アイデア発想の勘所をお聞きしました。
――それではまず、お二人が考える「イノベーション」について教えてください。
大長さん
企業がイノベーションに取り組むということは、「創造的な問題解決に取り組む」ということです。反対の意味では、「機能的な問題解決」という言葉が使われています。これは、過去の経験から予測して問題解決に取り組むことを指します。一方で「創造的な問題解決」は、過去とは非連続なため、経験からの予測ができません。このような問題解決に取り組むことを「イノベーション」と呼んでいます。
――梅田さんはいかがでしょうか。
梅田さん
私が昔から意識しているのは、パラダイムシフトに乗ること。プロアクティブを作った時はオフィスコンピューターからクラウドサーバーへ、日本初のECサイトを作った時はクラウドサーバーからインターネットへの変化がありました。それまで当たり前だと考えられていたものの見方や考え方、価値観が劇的に変化するところに乗ったものは、イノベーティブな製品になります。
――数々の成功の裏側には失敗もたくさんあると思いますが、成功に至らなかった原因は何だったのでしょうか?
大長さん
成功よりも失敗の方が多いですね。失敗にもいろいろあるのですが、イノベーションということで言えば、「非効率なことを許容する組織カルチャーの不足」が考えられます。既存事業のような機能的な問題解決の中では、「過去の経験を生かして、いかに時間をかけずに正解を出すか」というのがルールになっています。だから、生産性が向上し、会社が大きくなっていくのです。
でも、イノベーション活動のような、過去の経験が使えない非連続なことをしようとすると、どうしても時間がかかってしまいます。うまくいかないことがたくさん出てきて、効率よく進めることができません。成功している企業は、こういった真逆の要素を受け入れています。うまくいっていない企業は、効率的、合理的、一辺倒になってしまっているように感じます。周りが「何、無駄なことやっているんだ!」と言うのではなく、「ナイストライ!」と言ってくれる組織カルチャーが大事ですね。
大長さん
さまざまな企業で、事業創出のためのアイデア出しやアイデアソンなどをされていると思いますが、私がこれまでに経験してきた中で、うまくいかなかったときの原因をまとめたものが次の7項目です。
――「アイデアはワークショップで考えるもの」「ブレストに頼りっきり」というところが気になったのですが、これについて詳しく教えていただけますか。
大長さん
ある尊敬している起業家と話をする機会があって、どのようにしてアイデアを出しているかを聞いてみました。すると、「自分のやりたいことを付箋に書いて、冷蔵庫に貼っている」って言うんですよ。そうやって毎日付箋を見ていると、そのキーワードに関連する情報がどんどん入ってくるようになる。その中で、「これは自分がするべきではない」と思った付箋は外す。そして、3カ月ぐらい残っているものに対してチームを立ち上げるのだそうです。
確かに、いいアイデアを思いついたら、それに関連した情報がどんどん入ってきます。「ランドクルーザーが欲しい」と思った瞬間から、街中で走っているランドクルーザーが目に入ってきます。それまでは、見えていなかった情報が見えるようになってからが、アイデアの熟成期間。「ちょっと寝かせる期間があった方がいいんじゃないかな」と思うようになりました。
それが、奇しくもコロナで実現しやすくなって。オフラインのワークショップ形式でアイデア出しをすると、コストがかかるので集中して1日で行っていました。今は、オンラインで3回にわけて行った方が、熟成期間を経て、みんなが外のインスピレーションを得てから参加することができます。この方がいいと思うのが一つ目です。
梅田さん
今のお話を聞いてとても共感しました。私はアイデアが浮かぶとすぐにメモをします。そのアイデアを会社に持ち込むのは3年ぐらい寝かせたものが多いです。いいアイデアを思いついた夜は、「すごいのを考えた」と興奮します。でも、一晩寝て朝起きると、半分ぐらいは「大したことなかったな」って思うんですよね。
大長さん
もう一つは、「アイデアはみんなで考えるもの」と思い込んでしまっているところがありますね。イノベーションや新規事業の文脈では、一人で考え抜いているときの方がパワーあると感じることが多いです。だからブレストは、その時間に考えるのではなく、事前に各々が考えてきた本気のアイデアをピッチするところから始めます。そういう、個人の時間をもっと活用した方がいい。参加する以上、無責任なのはよくないですからね。
梅田さん
私も思い当たることがあります。5年前にプログラミングスキルを判定するシステムを作りました。これがあれば、企業の採用活動に役立つと考えたのですが、取締役会で提案したら全員に反対されたんです。それで、部門のミーティングでも提案したところ、6割以上のスタッフから「売れないと思います」って言われて。でも、反対を押し切って作ったら、今、結構売れていますよ。
――アイデアって、どうやって考えているのですか?
大長さん
一番効果があると実感しているのは「問いの立て方」ですね。例えば、シューズブランドのHOKA ONE ONE(ホカオネオネ)は、「いかにして、足の痛みを軽減するか?」という問いのもと、シューズを作っています。一方でvibram(ビブラム)というソールメーカーは、「いかにして、地面の感触を足の裏で感じられるようにするか?」という問いを立てた。そこから、足袋のような5本指の靴を作って、「足を守るのではなく、地面を感じたいんだ」という、マニアックなランナーに受けています。問いの立て方次第で、アイデアは変わります。
bridgeという会社を始めたのも一つの問いがきっかけでした。私は新卒で会社に入って、18年間同じ会社に勤めていたので、起業するなんて夢にも思っていませんでした。ですがある時、新規事業のコンサルティングに携わる中で、クライアントが「あまり嬉しそうじゃない」ということに気がついたんです。
当時は、私たち外部コンサルタントがアイデアを出してプロトタイプを作り、クライアントにレポートを提出していました。仕事の割り振りは、私たちが8割、クライアントが2割といったところです。
「どうして、喜んでもらえないのだろう」と考えたら、クライアントには「新規事業なんてほとんどうまくいかないのに、外部コンサルタントから『いかにもうまくいきそうだ』と言われてもね」という気持ちがあったようです。そこから、「どのようにすれば、企業の中の人たちが自ら取り組みたくなる新規事業を創ることができるだろう?」という問いが生まれて。8割をクライアントに担っていただき、2割を私たちのような外部コンサルタントが担うことで、モチベーションが創り出せないだろうかと考えました。この問いから、bridgeは生まれました。
――なるほど。問いの立て方次第で、アイデアは変わっていくのですね。数多くのプロダクトを世に生み出してきた、梅田さんの発想法もお聞きしたいです。
梅田さん
私は「5年後の○○」というのをよく使っています。例えば「5年後のmeetALIVE」と入れてみる。そうすると、頭が「5年後のmeetALIVEってどうなっているだろう」と急に動き出す。そうやって、パラダイムシフトが起こったときの生活をイメージしたり、5年後の社会をイメージしたりしています。5年後の世界で勝負できるものは、おそらくイノベーティブなのではないでしょうか。
――イノベーションは、「これから訪れる未来の当たり前をつくる」ということなのかもしれませんね。
梅田さん
人は目の前のことを考えようとします。だから、発想会をすると「今」に着目したアイデアが多いのですが、5年後をイメージして考えると結構イノベーティブなアイデアが出てきますよ。
――新規事業創出において、大事なことって何でしょうか。
大長さん
「売れるまでやる」という気持ちが大事です。企業では、開発部門が製品を作って、営業部門が売ります。「いい製品を作ったので、売ってきてください」と言っても、なかなかうまくいきません。だったら、自分たちで最初のお客様を見つけるところまでやる。そこまでやり抜くことの方が、アイデアの良し悪しよりも勝敗に影響しているような気がします。
梅田さん
私が今、世の中で一番聞きたくない言葉が「撤退条件」です(笑)。いろいろなプロダクトを作っていると「撤退条件をつけなさい」と、よく会社で言われます。でも、プロダクトって自分の子どものようなものなので、うまくいかなくても「どうすれば、ちゃんといい子に育つだろうか?」と考えます。何とかしたいから、一生懸命自分で売りに行っていますよ。
――やっぱり、そういう覚悟が必要なんですね。
大長さん
新規事業とかイノベーションって、実行する側にはどこか重苦しい雰囲気が漂うので、楽しみながら面白がって盛り上げていく。そうやって進められるといいですね。
梅田さん
「VUCA(ブーカ)の時代にOODA(ウーダ)で行こう」と、最近よく言っています。先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代です。PDCAでは乗り越えられなくなってきている。だからこそ、刻々と変化する状況を察知して、瞬時に判断し、行動するOODA思考で、まずは、やってみることが大事です。
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ライター 國分 聡 @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
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