第165話 大きな臓物の部屋
小さなイグアナが何匹かいる。腕をゆっくり伸ばして捕まえようとしてみても、直前で岩陰へと入られてしまう。
ああ失敗、逃げられちゃった。
この部屋の奥に人がいるかはわからなかったけど、ノックと共に「入りますね。」と声をかけてから扉を開ける。持ってきた松明の灯りを壁に灯すと、蜘蛛の巣がびっしりと張っているのが目についた。箒のようなもので払ってから、壁をきれいに拭いていく。それから壁面に大きな傷を見つけると、トカゲに手伝ってもらいながら、今度は両手をうんと伸ばしてポスターぐらいありそうな大きさの絆創膏を貼っていく。
部屋の真ん中には臓器があった。その周りにはトゲトゲの牙を持った赤い花が咲いている。私の左手に一旦噛ませてから引っこ抜くと、花は小さなイグアナの姿になった。抱きしめて、撫でてあげる。
愛しているよ。
次は、石ころみたいな丸い水晶のようなもの。これもやっぱり手に取るとかわいらしいイグアナになった。
愛しているよ。淋しかったね。
ここはおそらくスサナル先生の“脳味噌”の部屋。初めは心臓の部屋かと思ったけど、この中央にある臓物のようなものはそうではなくて脳だろう。彼の心臓に棘が刺さっていたことに続いて、思考するための脳の部屋にも大きな傷がついていた。複雑な痛みを抱えているのに、それらを麻痺させながら社会に紛れ、彼が普通に生きているということに悲しみが募った。
ふと見ると、天界の男の人が霞となって踊っていた。菩薩のような、如来のような美しい人の姿がそこにあり、纏った衣は動きに合わせてサラサラと波打ち思わず目を奪われそうになる。そして後ろでは甘いハープが奏でられていて、楽の音は彼の“舞い”と相まって、この世ならぬ優雅な雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫。本当の姿で大丈夫。」
私はその彼に話しかけた。どうしてだかはわからないけど、この高貴な殿上人(てんじょうびと)の姿こそ、なにか偽りの鎧のようなものに思えたのだ。
「あなたの本当は……うーん、一番大きな感情は『人間不信』。正体はイグアナね。」
「バレた!」と言った声が聞こえた。
その途端に寝ている肉体に頭痛と腰痛が始まって、激痛ですっかり目が覚めてしまった。同時に体が熱くなって、耐えられず厚手の冬布団を剥いだ。
私はあなたの敵じゃないよ。だから菩薩の姿じゃなくて、本当のあなたの姿で大丈夫。イグアナだとわかったからといって、私はどこにも行かないよ。ずっと苦しかったんだね。
今世だけじゃない。あなたは過去世からずっと一人で苦しんできたんだね。きっとずっと今までも、たくさん裏切られてきたんだね。
どういうわけだかこの子の不遇がわかってしまい、勝手に涙が溢れてきた。
すると、少し高い次元のスサナル先生の意識が私の右手に乗り移り、女性性である左肩を包み込む。それからしばらくの間その状態で、肩の後ろをポンポンと愛しさを込めて叩いてくれた。“わかってくれてありがとう”と、そんな意識が入ってきていた。
聞いたことがあった。
レプティリアンとは、ドラコニアン……つまり龍という存在に対して嫉妬している。赤い珠を持った金龍が出てきたことで、奥にあったイグアナの意識も螺旋で押し出されて浮上してきたのかもしれない。
このイグアナの『人間不信』も元を辿ればトカゲの時と同様で、レプティリアンという種族そのものが否定された経験をきっかけとしていた。そしてこの子の場合、この時から他人を信じられなくなったのと共に、激しい怒りも持ち合わせていた。
“イグアナという憑依体”によるものではあるけれど、これは大元までいけば、おそらくそのまま先生の闇そのものなのだろう。元々あった先生自身の人間不信に同期して、後からレプティリアンが癒着したと考えるほうが妥当だと思われた。いつだって淋しさを纏った闇感情は、核となり得る仲間を目がけて吸い寄せられていくものだ。(※)
だとしたら当然スサナル先生は、私という人間に対してであっても不信感を抱いている。いや、もしかしたら、相手が“私”だからこそ、彼は信頼していないのかもしれない。
そんな直感に対する明確な答えはすぐにはやってこないけど、“ちょっと頭をよぎっただけの考え”には注意を払う癖をつけている。概ね後になってから、やはりそういうことだったのかと真意に出会えたりするものだ。
しかし今回その答えは、意外とすぐにやってきた。
イグアナの存在に出会った翌日、明け方四時半頃に目覚めてしまった私は、半分トランス状態のままスサナル先生に聞いてみた。豊かさや愛や性を受け取らないということは、彼そのものを拒絶してきたことに他ならないのではないかと感じたのだ。
「スサナル先生。あなたを傷つけていた張本人は、私だったんだね。」
一気に喉から咳が出てきて、彼が激しく首肯(しゅこう)している。
「だから、あなたは私のことを傷つけたいと思ったんだね。」
“その通りだ”、“お前のことを傷つけたいのだ”といった意識が膨れ上がって入ってくる。
やっぱりだ。
やっぱり彼は、私のことを憎んでる。
今やすっかり目覚めてしまいそれから重たい上半身を起こすと、たった今聞いてしまった彼の本音を反芻する。ゆっくりひとつ深呼吸して、“この人の闇を全部受け入れ抱きしめよう”と、腹を括って決意した。
日の出まではまだ遠く、空はどこまでも暗かった。
※ 闇が闇を求める状態を別方向から表しています。
→けーこ記事 『望みは叶う』
(参考)
第117話 記憶の音を奪還しに行く
written by ひみ
⭐︎⭐︎⭐︎
実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
⭐︎⭐︎⭐︎
あーもう!
トカゲもイグアナもかわいいんです!
(トカゲ回、イグアナ回ともに、選んだヘッダー写真がゲノムっぽくて気に入っています。人工、人造、不安定な美も好きです。)
どういう訳か、この子たちにも“おかあさん”って呼ばれています。
まぁ、私のほうからおかあさんだと思っていいよって言ってあるんだけども……。
『感情体』たちからも、ウニからもおかあさん。
エゴセルフは私のことを姉かなんかみたいに思っているようで、私もハイヤーセルフのことは姉のような感覚で接しています。
だけど、オーバーセルフとして統合している自分の女性性……ハイヤーセルフよりもっと上の自分は、やはり母のような感覚が強いかな。
あと『地球』に関しては、よく母と形容されるけどなんていうか一人の若い女性ってかんじ。若いんだけど、地上の生命に対して『大切な我が子たち』って愛してくれているように思います。
5歳のリトは……
たぶん、私のことわかってない気がする笑
⭐︎⭐︎⭐︎
←今までのお話はこちら
→第166話 オレンジ色のタンクトップ
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