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第79話 異世界の日


学校横の公園の脇に数台連なる観光バスの姿を確認すると、ちょっと慌てて小走りになった。すべての生徒を降ろし終わったバスは、前から順にウィンカーをチカチカさせて、幹線道路へと消えていく。
到着順に流れ解散となる子供達の中に、まだ車椅子は見当たらない。卒業遠足から戻ったあきらはどこにいるのだろうか。夕方の薄暗さの中で、すれ違いざまにフロントガラスに貼られている団体名をちらっと見ると、今着いたのは3号車までだと判明した。
よかった、あの子のクラスはまだこの後だ……。

完成したばかりのマフラーをいったん外して顔をあげると、1号車の生徒たちを送り終えたスサナル先生と目が合った。すでにホカホカしていた顔が、別の意味でも熱くなった。

「うちのクラスのバスまで行っちゃったかと思って、慌てて走っちゃいました。」

「時間差で向こうを出発してるんで、到着まであと20分くらいはかかると思いますよ。」

合格発表や都立組の受験がまだ控えているとはいえ、私立高校と県内公立の一次募集の試験は終わり、3学年の先生たちにも少し余裕が戻ってきていた。スサナル先生とこうしてゆっくり話ができたのは、およそ2か月振りにもなるだろうか。

彼にとっては3回目となるテーマパークへの引率になるが、今年はガラガラだったとのこと。せっかく遊びに行ったのに本部待機のような先生の立場を思うと、どうせだったら私もついていきたかったなと、身勝手な妄想ばかりが膨らんでしまう。その上先生からは、春休みに公開予定の映画の話なんかも振られるから、よりよりデートを連想して困ってしまった。

いつもと同じ他愛もない会話。もしかしたらこれからは、こういう機会も減ってしまうのかもしれない。鞄の中にはいつでも渡せるようにと、折れないように手帳に挟んだ例の手紙が入っている。だけど周りには人が多すぎて、「残念だけど渡すのは今じゃないよ。」と心が教えてくれている。

スサナル先生との貴重な会話の一方で、なんだか訳がわからない、奇妙なことが起こっていた。

近くにいた体育の先生が振り返って、不思議そうに私の顔を覗き込んできた。チラチラしつつも何度も凝視されるので、その度に会釈を返しているのにそこに応えてくれることはなく、最後は怪訝そうに首を捻ってどこかに行ってしまった。
次に近くまでやってきた理科の先生も、また同じように私をまじまじ観察すると、やはり何かおかしなものでも見たといった表情でどこかに離れていってしまった。

さっきからみんな、何だろう……。

私たちがしょっちゅう喋っていることは彼らもよく知っていて、今さら驚かれるようなものではなかったはずだ。
それなのにまた一人、皆一様に真顔を崩さず、私を見るだけ見てから行ってしまう。それこそ顔に何かついているのではと思っても、隣のスサナル先生からは、私を変に思っている様子も感じられなかった。

そんなことを疑問に思っていると、視界に映る先生の背後で突然人が倒れた。

「大丈夫ですか!?」

通行人の男性が一人、地面に尻もちをついていた。急なことにびっくりしつつ、先生と手を貸して起き上がらせると近くのベンチまで連れていった。人ひとりを挟んだとはいえいつもより距離が近くなり、どこか彼の体に触れてしまうのではないかと思うと緊張が止まらなかった。

少し呼吸が落ち着いてきたその人から、「飲んでる薬の影響で足が痺れただけ」との話を聞いてひとまず安心すると、二人で顔を見合わせてうんうんと頷き合った。けれどもほんのちょっとばかり、気恥ずかしい沈黙が生まれた。

それからいくらも経たないうちに、ようやく後続のバスがやってきた。

「ああもう、やっと到着したー。」

大きな声でそう呟いて、窓際席にちらっと見えたあきらに両手を振ってから、すぐに「しまった」と思った。バスの車内で立ち上がって、生徒の列の間を移動していた副担任、ヤマタ先生と目が合ってしまった。
あの先生に手を振っちゃった。タイミング的にやってしまった。

けれどもすぐに、そんなことより隣の空気がピリついたのを感じた。なぜだか説明できないけど、冷たい怒りようなもので、スサナル先生の心が私からスーッと離れていくのを明確に感じ取っていた。

え、嘘……。
今の今まであんなに楽しく話をしていたはずなのに、ものの一瞬で心に距離を置かれている。

それは物理的な距離にも現れ、今やスサナル先生は、降りてくる生徒達の横で淡々と「ほら真っ直ぐ帰るんだよー。」と言って、流れ解散を促していた。そしてその掛け声の中にまで、棘(とげ)が潜んでいるようだった。

一気に寒さを感じて、慌ててマフラーを首に巻いた。しまTが、荷台から車椅子を引っ張り出して広げてくれているのが視界に見えた。戻ってきたあきらを座らせると、二人で彼女に「また明日」とさよならの挨拶をして、その場からゆっくりと歩き出す。

私を寄せつけない雰囲気のスサナル先生は、今も完全にこちらに背中を向けて、私のことを押し出そうとしている。
訳のわからない悲しみを顔に出さないように注意しながらも、今日乗ってきたというアトラクションの話にうわの空で返事をした。


 


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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んー、今回のお話はツインレイあるある。
これを読んでくれたツイン男性にはきっと、急襲する「コントロール不可能な気持ち」がわかるんだろうねー。だけど統合前の女子からしたら、残念だけどなにもわからないし、伝わってない。ツイン女子には意味がわからず悲しいだけなんです。(この時の真意はそのうち書くと思うので待っててね)
これは今後、特に女子側が闇を解放しないとどうにもなっていかないの。ツインレイ男性は何も悪くないんだ。
基本は、陽である男性が現実を担当、陰の女性は、見えない世界にひたむきに。
イザナギとイザナミもそうでしょ?見えない闇の世界に男性より遥かに深く入っていけるのが、女性の持つ力なんです。

ちなみにこの時の、他の先生たちの不思議な態度の理由は未だにわからん笑

関連(本当か?)→統合前のツインレイの気持ちは反対に働くとはいうけれど

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