見出し画像

【Medi+イベントレポート】守屋普久子先生登壇|久留米大学病院の「誰もが働きやすい医療現場」への取り組み

「病院などの医療機関で、医療者が働きやすくなるには?」
「医療者としての働きやすさは変わらない......と半ば諦めかけてしまっている」

そんな医療現場のモヤモヤ解決のヒントを見つけるきっかけづくりができたらと、2024年6月23日に株式会社Meditedは「医療現場の働き方改善セミナー」を開催。久留米大学病院の守屋普久子先生にご登壇いただきました。

この記事では、守屋先生にお話しいただいた「医療従事者が健康に働き続けるための環境整備や実例」をご報告します。

病院や薬局の経営者・医療従事者の方々にとって、ウェルビーイング向上の一助になれば幸いです。

守屋先生と久留米大学病院の紹介

セミナー講師の守屋先生のご経歴と、久留米大学病院の概要をご紹介します。

守屋先生のご経歴

守屋普久子 先生(医師)

・久留米大学学長直属特命准教授
・久留米大学ダイバーシティ・インクルージョン推進室副室長
・久留米大学病院ダイバーシティ・インクルージョン委員会副委員長

報道記者を経験したのち、久留米大学医学部医学科に入学し、39歳で医師免許取得。泌尿器科医として診療に携わり、約10年前から大学病院内で女性医師の復職支援やワークライフバランスの推進に取り組んでいます。現在、仕事の軸足は、医師としてよりも医療従事者のダイバーシティ推進に置いています。

久留米大学病院の概要

現在の久留米大学病院の医療施設|守屋先生のスライドより出典

久留米大学病院は、1928年に九州医学専門学校附属病院として設立されました。大学病院は全22病棟あり、一般病床数は965床、精神科病床数は53床です。特定機能病院・がん拠点病院・高度救命センターとして位置づけられています。

久留米大学病院に在籍する医師は619名、看護師は1,171名です。179の関連医療施設を有し、福岡県南の人口100万人をカバーする砦として、地域に根ざした高度先進医療を担っています。

ダイバーシティ・インクルージョン委員会の取り組み

久留米大学病院の「ダイバーシティ・インクルージョン委員会 」(以下、D&I委員会)は、次の3本柱をもとに活動しています。

・女性医師の復職・キャリア支援
・卒前卒後のキャリア教育(医学生・医師)
・ワークライフバランスの推進

令和6年度のメンバー構成は、医師21名・研修医2名・看護師1名・事務職員2名です。2ヶ月に1回会議を開催し、課題の抽出と解決策の検討をしています。

D&I委員会の取り組みを、以下詳しくご紹介します。

女性医師の復職・キャリア支援

D&I委員会が実施する「女性医師の復職・キャリア支援」は、以下のとおりです。

  • パート医師制度の導入

  • マタニティ白衣の貸与

  • 学内保育所の利用促進 など 

久留米大学病院は、総合健診センター(人間ドック)と母子医療センターで「パート医師制度」を導入しています。パート医師制度の利用者は18名にのぼり、うち7名が常勤に戻れています。

マタニティ白衣の写真|守屋先生のスライドより出典

マタニティ白衣は、妊娠の経過ともに大きくなる腹囲に合わせて、アジャスターで調節できる白衣です。長袖・半袖・スクラブタイプなどのマタニティ白衣が準備されており、着用した職員からは「腹囲を気にせず快適に過ごせる」と、喜びの声が上がっています。

久留米大学みどりの杜保育園の写真|守屋先生のスライドより出典

「久留米大学みどりの杜保育園」は企業主導型保育園で、生後2ヶ月~小学校就学前までの子どもを、最大7:00~21:00まで預かり可能です。病児・病後児保育も実施しており、就労しやすい保育体制が特徴です。

卒前卒後のキャリア教育

「LGBTQの正しい理解と対応」講習会の様子|守屋先生のスライドより出典

D&I委員会は、医学生や医師へのキャリア教育として、さまざまな講義を開催しています。

医学生向けに「LGBTQの正しい理解と対応」や「無意識のバイアスを知ろう」といった講義を実施。また、県医師会とタイアップし、医学科の「先輩医師と話そう」イベントを開催しています。

臨床研修指導医向けには、eラーニングでダイバーシティの講習会を設け、教育に力を入れています。

ワークライフバランスの推進

久留米大学における、職員のワークライフバランスを推進する取り組みのうち、男性の育児休業取得についてご紹介します。

全国医学部長病院長会議の「令和3年度男女共同参画に対する意識調査」によると、女性医師の育児休業取得期間に比べて、男性医師の育児休業取得期間は圧倒的に少ない傾向です。女性医師は育児休業の取得期間が「6か月以上1年未満」、男性医師は「1週間以上1カ月未満」がもっとも多い状況です。

久留米大学病院における男性の育児休業取得率推移|守屋先生のスライドより出典

久留米大学病院の男性育児休業取得率の推移は、2020年度の2.2%から、2023年度は17%に上昇していています。2024年までに「男性の育児休業取得率30%」を目標とし、取得を推進中です。

久留米大学病院内で、男性の育児休業取得が進んでいる部署は、以下のような取り組みをしています。

・医師のチーム制を積極的に導入する
・Zoomの活用で業務改善を進める
・育児休業を取得した男性医師が、医局会で経験を共有し、医局員が温かい拍手で迎え入れる など

男性の育児休業取得をきっかけとした、家庭と仕事の両立支援や、女性医師のキャリア支援など「職場文化のイノベーション」が期待できます。

10年間の活動を通して|Good PointとMotto Point

10年間にわたるD&I委員会の活動を通し、良かったところ(Good Point)と、もっと頑張りたいところ(Motto Point)をご紹介します。

Good Point

10年間の活動を通してのGood Point|守屋先生のスライドより出典

活動の「Good Point」は、次の3つです。

1.D&I委員会が病院の正式な委員会として設立され、診療部長会で管理職に議事内容を周知できた

2.パート勤務医制度の利用者は18名にのぼり、うち7名が常勤医師として復職。制度利用者は、診療の勘を取り戻したり、人間ドックの認定医や専門医などの資格取得につながったりした

3.学内保育所への要望提出や担当部署との話し合いにより、年2回入所から随時入所に変更され、待機児童が減少した

D&I委員会が主体となって、病院内での情報共有や話し合いを促進し、職員にとって働きやすい環境が作られています。

Motto Point 

10年間の活動を通してのMotto Point|守屋先生のスライドより出典

一方、活動の「Motto Point」は、以下のとおりです。

1.マタニティ白衣の利用者が10年間で10人程度と少ないため、利用者のニーズに合わせてスクラブの枚数を増やしたい

2.医師以外のスタッフには、D&I委員会の知名度が低いため、病院全体に周知できる事業も進めたい

3.「子育て中の女性医療職者が優遇されている」という不公平感への懸念があるため、皆が当事者意識を持てる戦略を考えたい など

D&I委員会は、未解決の課題を洗い出し、より良い環境が実現できる方法を模索し続けています。

守屋先生へ質疑応答

守屋先生に、参加者やMedited代表の松岡からの質問にお答えいただきました。

先生が男女共同参画やダイバーシティ推進に関わることになった「きっかけ」や「感じたこと」を教えてください。

Medi+イベントスライドより

守屋先生:泌尿器科医として働く過程で「女性医師は男性以上に働かないと評価されないのではないか」「診療医だけでなく、自分のキャリアを生かしたようなキャリア形成がしたい」と感じたため、2015年に大学医局(医師組織)を退局しました。でも、退局したあと自分が何をしたら良いかわからなくなってしまって。

医学生時代の恩師に退局の報告をしたところ「男女共同参画に取り組みなさい、この領域は未開拓です」と資料を渡されたんです。

私は社会学科を卒業しており、均等法世代でずっと女性の働き方について考えてきました。恩師の言葉で「すべては男女共同参画やジェンダーの問題につながっていたのだ」と感じ、県医師会に連絡をして、取り組み始めたことがきっかけです。

“誰かに頼まれたから男女共同参画やダイバーシティ推進に関わり始めた”というより、自分からやりたいと思ったんです。

医療現場改善の過程で、医療従事者や管理職を巻き込むために、どのようなことに気を付けましたか?

Medi+イベントスライドより

守屋先生:看護部との協力は重要でしたね。以前、看護部長に依頼されて、看護師のワークライフバランスに関する委員会で、3年ほどアドバイスをしていました。そのため、看護部の方は、私が協力したことに恩を感じてくれていたようなんです。

その後、D&I委員会から看護部にいろいろなことをお願いする立場になったとき「今度は私たちがお返しします」と、協力していただいていました。3年間アドバイスさせていただくことは大変な側面もあったけれど、頑張ってきてよかったなと嬉しかったですね。

何かを始めるゼロイチでは、1人だけが動いちゃうと「その人だけが動けばいい」となりがちです。たとえば保育園のことなら、 保育園にお子さんを預けている人たちから意見が聞ける場を設けたり委員会で発表してもらったり、なるべく興味がありそうな人たちを巻き込んでいました。

なるべく、いろいろな人が委員会に参加できて、いろいろな立場で考えられる。自分以外の人たちに動いてもらうことも、1つの巻き込み方かなと思います。

地域の医療機関の間で事例共有ができるようになるには?

Medi+イベントスライドより

守屋先生:実現には至らなかったのですが、女性医師の復職支援として、地域の病院でトレーニングができないか相談に行ったことがありました。この取り組みがきっかけとなり、今でも地域の病院と情報交換ができています。

以前、久留米大学病院でDXの講義をしてくれた他院の院長も、私たちが発信したチラシや報告書を見てアプローチしてきてくれました。自分たちから情報発信をして知ってもらうこと、つながったあとに長く良い関係を続けることも大切ですね。

医療機関の労働環境改善における「目標数値の設定方法」や「義務化の考え方」について教えてください。  

Medi+イベントスライドより

守屋先生:男性の育児休業取得率を例に挙げると、設定のポイントは2つあります。

1つ目は、国が定める男性育児休業取得率の目標値が、2025年に30%とされていることです。久留米大学病院としては、1年早く男性の育児休業取得率を30%にしたかったため、2024年の達成を目標にしています。

2つ目は、育児休業取得者が30%を超えれば「だんだんと取得者の意見が強くなっていくだろう」と見込んだためです。

「343の法則」という言葉があり、大体の組織では「好意的な3割」「無関心な4割」「好意的ではない3割」に分かれるという理論です。この数字を参考に、まずは30%から、とイメージをしていました。

久留米大学病院の男性育児休業取得は、義務化が難しい状況にあります。ただ、病院長の「男性も育児休業を取得しましょう」というメッセージを柱に、取得を促進していきたいです。

セミナーのまとめと今後の展望

Medi+セミナー当日の写真。25名の医療関係者に参加いただきました!

今回は、守屋先生が所属する久留米大学病院D&I委員会の取り組みをご紹介しました。

久留米大学病院では、10年間に渡って男女共同参画や、ダイバーシティ・インクルージョンの改革を進めています。改革により改善された点もあれば、未解決の課題も残っている状況です。

守屋先生は、今後の展望として「男性医療者の仕事と家庭の両立支援を通して、女性医療者のキャリア支援にもつなげたい」とお話しされていました。

株式会社Meditedは、医療従事者の臨床現場での働き方改善に着目した、事業展開を企画構築中です。医療現場の働き方改善事例セミナーは、定期開催を予定しているため、ぜひご活用ください。

主催:株式会社Medited
ライター:保健師×医療ライター/入江加奈子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?