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「価値」と「価値共創」について

 Naresh K. Malhotra による、S.L.VargoとR.F.Luschによる「サービス・ドミナント・ロジック」の視点からの「価値」と「価値共創」に関する短い、しかし基本的で重要な解説。

 以下は、

の冒頭に寄せられた、Malhotraによるintroductionより。

*の箇所は訳だけでは読み取れない部分として高広の解説として付け足してあります。

 Value cocreation is an ongoing, iterative, and continuous process that transcends individual transactions.
 価値共創は、個々の取引を超えた、継続的、反復的、かつ連続的なプロセスである(→*つまり価値は静的なものではない=価値は一定のものではない)。

 From an actor-centric perspective, actors cannot deliver value to other actors; they can only offer value proposition (s) and become part of value cocreation if the value proposition (s) is (are) accepted.
 アクター中心の視点に立つと、アクターは他のアクターに価値を提供することはできない。アクターは価値提案を行い、その価値提案が受け入れられた場合にのみ、価値共創の一部となることができる(→*アクター actor という概念は「顧客」や「企業」という“役割”の設定を一旦横においた「(価値共創の)参画者」と考えると良い)

 Value is uniquely and phenomenologically determined by the beneficiaries.
 価値は、受益者たちによって(それぞれに)独自のものとして、現象学的に決定される(→*現象学的に=間主観的に=つまり“誰か”単一の主体によって“決定”されるものではない)。

 Furthermore, value is contingent on the availability and integration of other resources and thus is contextually specific.
 さらに、価値は他の資源の利用可能性と統合に左右されるため、それぞれの文脈に固有のものとなる(*当初 SDL では、Value-in-Use 使用価値として、例えばモノ自体に価値が内在しているのではなく、使われたときに価値が発生するとしていたが、その後の理論的発展により Value-in-Context 文脈価値 という概念に進んでいる。これで valueを、より動的に変化するものと考えることができるようになる)。

 As pointed out by Vargo and Lusch, in the structurated world of S-D logic, the “environment” is the venue for innovation and value creation occurs by changing rules and resource relationships.
 VargoとLuschが指摘するように、S-Dロジックの構造化された世界では、「環境」がイノベーションの場であり、価値創造はルールや資源関係を変化させることによって行われる(*この一文では structured ではなく、structurated という言葉を使用している点で、社会的・制度的に構造化されたというニュアンスを出しているように思う。)。

 In sum, value is a dynamic concept that is marked by cocreated outcome of multiple parties in a continually changing, networked system of resource integration and mutual service provision.
 つまり、価値とは、絶えず変化する資源統合され、相互にサービス(*抽象名詞のservice)を提供しあう、ネットワーク化されたシステムにおいて、複数の当事者が共創する成果によって形作られる動的な概念なのである(*Service-dominant Logicにおいては、抽象名詞・不可算名詞の service か、あるいは具体的なサービス一個一個やその集合を表す言葉である可算名詞の service(s) かを明確に区別して読む必要がある。ちなみに翻訳されるときにも前者は「サービス」、後者は「サーヴィシーズ」と記述されることがあるので、特にサービス研究関連の論文・書籍を読むときにはこの点を理解しておくことがある。そこに書かれている「サービス service」は概念的なものなのか?それとも具体的な行為を指すのか?)

Naresh K. Malhotra (2012) 

 マーケティングの観点から見て、サービス・ドミナント・ロジックの重要な点は、特に以下の3つ。

  • 「価値」は誰かによって一方的に決定されるものではない

つまり、企業側が「価値」を決定することはできない

  • 「価値」はアクター間の資源統合によって“常に「共創」的に生み出される”

「価値共創」というのは、「価値は常に共創によって発生している」とか、「価値は共創によってのみしか生まれない」ということを意味しているのであり、「顧客と企業との共創によって価値を“生み出す”」というのは、サービス・ドミナント・ロジックの基本的な概念としては誤用である。ただし、実務・実践の世界におけるデザインとして、その考えは適用できそうだが、意図的に共創が可能なのか、あるいはそれを共創というのかは疑問である。なぜなら、そこで生み出されたのが単に「商品やサービス(=可算名詞のservice(s)」だとすると、それは「価値」を生み出したのではなく、製品(goods)を生み出したに過ぎないからである。このときは「共創 cocreation」ではなく、「協働 coproduction」といったほうが適切である。

また、そもそも「マーケティング」で「共創」は可能なのか?という根本的な疑問も生じる。

  • 「価値」は絶えず変化する文脈の中で動的に変化する

ここで、注意しなければならないのはここでいう“文脈”とは、アクター間の資源統合やサービスの相互提供の中で発生している“文脈”であるということ。一アクターにとっての私的かつ主観的なものではないということ。

制度的、あるいはアクターの所属するグループなど、複数のアクター間によって集合的・社会的に発生している“文脈”である、という理解をしておいたほうがいいだろう。


※上に出てくる「アクター actor」という概念については、以下を参照のこと。


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