
『病気がみえるvol.4 呼吸器』改訂!その時イラストレーターは何をする?

きたる3月4日に『病気がみえるvol.4 呼吸器』改訂第4版が発売されます!
おにくは今年度、この書籍の改訂作業に組版データの制作統括として関わっていました。
改訂作業では、すでに一度完成している書籍の内容を最新の情報に更新したり、わかりづらい・情報が足りないところを改善・追加したりなどします。
MIの作業は、改訂であっても基本的には新刊と同じで、編集者が医師・医学生のアルバイトさんたちと検討した「原案」をもらってデータ化します。
その際に、イラストを改変したり新たに作ったりすることがあり、もらった原案の最初の読者として「本当にこれはわかりやすいのか?」という視点でビジュアル面を検討します。
わかりづらい箇所があればそれを伝え、改善案が思いついたらラフを描いて編集者と相談しつつ、ビジュアルを仕上げていきます。
今回の改訂で、原案を見てどういう提案をしたのかなど、いくつかの実例を挙げていきます。
解剖やリアル寄りのイラストを描くことが少ないメディックメディアのメディカルイラストレーターが普段どんな仕事をしているのか、その一例としてご覧ください。
【換気機能検査】
肺活量・残気量が加齢によってどう変化するのかの説明。
前版のイラスト
イラスト内に説明のフキダシがあってわかりやすいが、イラスト同士が離れてしまって変化が比べにくい。

編集者の改訂案
イラストの向きを揃えて変化を比べやすくし、全肺気量の情報も加えた。
しかし、ふわっとしたイメージ同士を比べることは結構難しく、人によって受け取り方が違ってしまう危険がある 。

MIの提案
このイラストで伝えたいことは加齢による割合・全体量の変化なので、いっそ棒グラフのようにして変化を具体的に示してはどうか?

原案と完成したイラストを比較
息のイメージに増加・減少の矢印を足すことで、誰が見ても同じ情報が得られるようになった。

【FeNO測定(喘息の検査)】
喘息(気道のタイプ2炎症)が起こっていると呼気(吐いた息)中のNO(一酸化窒素)が多くなるため、呼気中のNO濃度を計測することで喘息の可能性がわかる検査の説明。
前版のイラスト
検査の様子はわかるが、検査の理屈がイラストからはわからない。

編集者の改訂案
体内で起こっている病態と、それがなぜ検査結果に反映されるのかを示したい。
しかし、イラストからはIL-4やIL-13が何をしているのか、量の増減なども読み取りづらい。
また、好酸球の何がタイプ2炎症と関係しているのかもいまいちわからない。

MIの提案
タイプ2炎症とはなんなのか、前のページでも使っているイラストを使うことで知識の連続性を高めた。
量の増減を矢印で追加することで、正常時と比較してどうなっているのかがわかるようにした。
なぜNO産生が増えるのか、ということがわかるように1段階情報を付け足した(iNOS増加について追加。編集者が添付した資料などから情報を収集した)。
また、気道上皮から産生されたNOが呼気に含まれていることをイメージしやすくするために、NOを含んだ息を吐くヒトのイラストを追加した。

原案と完成したイラストを比較
NO産生がどこで行われているのかをフキダシで示し、呼気中NOとの連続性のあるイラストになってさらにイメージしやすくなった。
また、編集者の指示により細胞の種類や影響する物質についての正確性が高められた。

【吸入ステロイドの作用機序(喘息の治療)】※新規
編集者の原案
気管支内で作用すること、どの細胞の作用に影響するのかがわかる。
しかし、気管支断面に時系列のあるイラスト(細胞から化学物質が放出される、それをステロイドが途中で止めている)を重ねたことで、各段階で特定の気管支の部位が関係しているように見えてしまう(細胞は気管支外周に存在する? 化学物質は気管支内腔を通過して外周に放出される? ステロイドが作用するのは通過途中?など)。

MIの提案
時系列と特定の部位をリンクさせないように、断面から伸ばしたフキダシ内で作用を説明する。
本来の炎症までのルートをステロイドでぶった斬ることで作用をわかりやすくした。
断面を筒状にして示すことで、吸入されたステロイドが気管を通るイメージを追加。
ステロイドが作用した結果、炎症が治まって気管支が広くなる、というところまで説明できそうなので使用後のイメージも追加。

原案と完成したイラストを比較
作用の結果についてもフキダシの文章で補足された。

【気管支拡張薬の作用機序(喘息)】※新規
編集者の原案
表にしたことで内容は整理されているが、筋肉の収縮が気管支の拡張にどう関わってくるのかイメージしづらい。
3つとも似たようなイラストなので、違いが印象に残りづらい。
イラストに連続性がないので1つずつ覚えないといけなくて大変そう。

MIの提案1
がっつり変えたバージョン(イラストを表の外に出す想定)
イラストを1つにまとめて筋肉の収縮・弛緩と気管の広さとの関連を断面で表し、薬が「収縮を抑制するもの」「弛緩を亢進するもの」の2つに大別されることがわかるようにした。
薬が作用する部位を示す過程で、PDEの立ち位置が少しややこしいことに気づいたので、誤解がないようにイラスト内に詳細を追加(編集者が添付した資料などから情報を収集)。

MIの提案2
元のイメージを活かすバージョン
筋肉の収縮・弛緩と気管の広さとの関連を入れたかったので作用前後のイラストを描いたが、収縮→すごく弛緩(左端)と、すごく収縮→弛緩(右2つ)のイメージの違いが読み取りづらいのであまり良くない。

原案と完成したイラストを比較
提案1をベースにして、弛緩を亢進する薬と収縮を抑制する薬に対応するように表内にイメージが追加された。
cAMPがPDEによって分解されるルートが薬によって止められることを点線で表して、イメージしやすくなった。
各薬の表内の区切りとイラスト内での配置が対応していないため、そこがちょっとわかりづらいかもしれない……反省。

【慢性の症状経過(過敏性肺炎)】※新規
編集者の原案
急性(左側)と慢性(右側)のイラストに違いが少なく、内容を読み取りづらい。
長期に渡っていることもイメージしづらい。
イラストが細かいので見るのが大変。

MIの提案
時間経過と症状の強さをグラフっぽいイメージで表せそうだったのでやってみた。
改善していくタイプと増悪していくタイプがあることもわかりやすそう。
急性症状の有無(主に発熱の有無?)だけをイラストにすることで、違いを強調する。

原案と完成したイラストを比較
グラフの色と見出しの色を対応させて、よりわかりやすくなった。
グラフの最終地点とフキダシの縦位置の並びが合致しているので、最終的な増悪・改善のイメージをリンクさせやすい。

【mRNAワクチン(新型コロナウイルス感染症)】※新規
編集者の原案
スパイク蛋白質とワクチン粒子内のmRNAを指して「設計図」としているのが、どういうことなのか文章を読まないとわかりづらい。

MIの提案
ワクチン粒子内のmRNAが「スパイク蛋白質の設計図」であることがわかるように、フキダシと矢印で因果関係を示すのはどうか?

原案と完成したイラストを比較
ウイルス内のRNAとmRNA、スパイク蛋白質の色味を合わせてより直感的になった。

MI側からイラストの変更を提案した例
【肺と心臓の位置関係(画像検査)】※新規
左側の医師のコメントは編集者指示ではテキストのみだったが、実際のイメージがあった方がわかりやすいと考えデフォルメイラストの追加を提案した。

【過換気症候群の症状】
前版のイラスト
顔〜胸周りに情報が集中していて少し見づらい。

MIの提案
髪の毛をスッキリさせる、制服の色を薄くすることで情報量を軽減する(それでも多いな……)。
多呼吸のイメージが薄くて見づらいので、主線をしっかり描いて目立たせる。

【肺動静脈瘻の症状】
前版のイラスト
顔周りの症状(鼻出血、喀血)が手で隠れていて見づらい。
左手の指先の症状も、右肘がかぶっていて印象が薄い。
肺内の症状が引き出し線に囲まれていて見づらい。

MIの提案
口元をおさえていた手を無くすことで顔周りの症状を見やすくする。
引き出し線のある方に症状をまとめることで、煩雑さを軽減して症状が目立つようにする。
ポーズを変えることで指先の周りに何も無い状態にして目立たせる。

おまけ
【コウモリ】
どうしてもこのコウモリが気に入らなくて、時間がある隙にカッコよく(?)修正しました(笑)。
古のオタクはコウモリの翼が好きなので……。

『病気がみえる』の改訂は情報の更新はもちろんのこと、「よりわかりやすくするにはどうすればいいか?」を考えながら改善を重ねています。MIもビジュアル表現の面で同じ考えを持ちながら改訂作業を行っています。
ずっと同じ巻を担当するわけではないので、いろんな科目を新鮮な目で見ることができて、改訂作業もなかなかやりがいがあります!
前版と比べてイラストにどんな違いがあるか、なぜ変わったのかなどを考えてみるのも楽しいのでおすすめですよ!(ニッチな趣味)