NewsPicksを猛追するPIVOT。ビジネス動画メディアの行く末は?
先日ビジネスオンラインメディアの現状について解説したのですが、ビジネス動画メディアについて解説をしてみたいと思います。今回は、NewsPicks、PIVOT、ReHacQの3メディアについて、解析ツールvidIQを使って比較をしてみました(ですので、以降の数値は本解析ツールによる推計値です)。
NewsPicksは、PIVOTの2.5倍の再生数
まず、過去60日間の平均デイリービュー数を比較するとNewsPicksが91万平均ビュー/日、PIVOTが34万平均ビュー/日、ReHacQが27万平均ビュー/日となっています。これは、NewsPicksがPIVOTの2.5倍の動画本数(2,518本)があるので、その差がそのまま出ていると思われます。
一方、チャンネル登録数については、PIVOTの勢いが増しています。
PIVOTのチャンネル登録率は、NewsPicksの7.5倍
チャンネル登録者数はNewsPicks、PIVOTが95万人とほぼ横並びです。ReHacQは前身となる日経テレ東大学は100万人を超えていましたが、チャンネルが閉鎖されて0からスタートとなったものの、すでに46万人の登録者数を獲得しています。
また、過去60日のチャンネル登録者はNewsPicksが8万3千人、PIVOTが29万人、ReHacQが7万7千人となっています。
PIVOTのチャンネル登録者数の増加が著しいように思われますが、1日あたりの再生回数から、チャンネル登録率を出すと下記のようになります。
PIVOT: 1.42%
NewsPicks: 0.15%
ReHacQ: 0.47%
NewsPicksとReHacQの登録率はそこまで開いていませんが、PIVOTはNewsPicksの9倍の登録率となっています。
チャンネル登録数の累計を観ると、PIVOTは2023年の5月末あたりから急伸していることが分かります。
NewsPicksのチャンネル登録率が低い理由については、有料会員への導線として設計されている影響があると思われます。NewsPicksのYouTube動画は一部無料で閲覧できるものの、続きは有料会員限定となっているのです。
また、1日あたりの動画の公開本数は、PIVOTが平均日に2.4本、NewsPicksが3.2本、ReHacQが1本程度となっており、ややNewsPicksが多い状態です。PIVOTは動画の更新本数を絞り、効率的にチャンネル登録を獲得していることが分かります。
身近で、エンタメ要素のあるコンテンツに拡充するPIVOT
PIVOTのチャンネル登録者数を見ると、5月末、そして8月末にかけてチャンネル登録者数が急増しています。広告要因の可能性もありますが、この急増の要因の一つとして、身近でエンタメ要素のあるコンテンツが寄与しているように思えます。
登録者が増えた間に投稿され、再生回数が比較的伸びている動画を並べると以下のようになります。投稿日順に並べて、ジャンル分けのメモをつけています。以前はビジネスインフルエンサーやインフルエンサーのコンテンツが多かった印象ですが、コンテンツの幅が広がっているように感じます。ジャンル分けのメモを整理すると以下のようになります。
知識欲を刺激:サイエンスなど知識欲を刺激する
身近な経済:住宅購入やインフレなど身の回りに関わる経済情報
キャリアに役立つ:人事ガチャやZ世代などビジネスパーソンのキャリアに役立つ
スポーツ:スポーツ情報に紐づいたマネジメント論や戦略論など
知識欲を刺激するコンテンツ、住宅購入やキャリアに役立つ情報系のコンテンツ、スポーツ系のコンテンツの存在が目立ちます。扱う情報がより身近であったり、知識欲を刺激するコンテンツやスポーツが入ることで、視聴者層が増えてエンタメ要素がプラスされているように見受けられます。また、身近な経済の情報やキャリアに役立つ系の情報が入ることで、登録率の上昇に寄与しているのではないでしょうか。
時事ネタ解説や、討論など「続きが気になる」NewsPicks
一方、同時期における、NewsPicksの再生数の多い動画を見ると、時事ネタの解説か討論が目立ちます。特に再生されているのは、堀江貴文氏が出演している楽天モバイルについての討論や、日本の芸能界についての世代交代について成田悠輔氏と中田敦彦氏との対談です。多くの人が興味を持つ時事ネタや世相について、ビジネスインフルエンサーによって討論や対談をしてもらうというコンテンツが人気です。
もちろん後半は有料課金になるため、YouTubeで見られるのは前半部分となります。有料課金導線としての意味合いが強いため「続きが気になる」系のコンテンツが多くなっていることがうかがえます。
政治家×インフルエンサー対談で、イノベーションを起こしたReHacQ
同じく同時期のReHacQの再生回数を見てみると、100万回超視聴となっているウクライナ侵攻についてのひろゆき氏と鈴木宗男氏の対談など、政治家による対談が目立ちます。ReHacQがビジネス動画チャンネルとしてイノベーティブなのは、この点だと思っており、今までは政治家によるトーク番組が再生数を伸ばすことはありませんでした。しかし、前身の日経テレ東大学にて、MCのひろゆき氏と成田悠輔氏が忖度なしのガチンコで政治家と対談した結果、政治家の本音も引き出されてエンタメとしても成立するコンテンツになっています。これは、プロデューサーの高橋弘樹氏がテレビ東京にてバラエティを手掛けていたことによる手腕が大きいでしょう。番組中でも話が専門的になりすぎると、高橋氏が扮するパンダがまとめに入ったり、解説を入れて分かりやすくしています。
NewsPicksを追い抜くPIVOT。3チャンネルの今後の戦略は?
ということで、再生数、チャンネル登録率、コンテンツの内容を比較してきましたが、まとめると以下のようになります。3つのチャンネルの今後の戦略はどのようになるのでしょうか。
"面白さ”を追求するReHacQ
一番想像しやすいのがReHacQです。他の2チャンネルと異なり大型の資金調達を行っておらず、プロデューサーの高橋氏を中心としたスタッフで回しているものと思われます。出口戦略を要求されないので、このまま高橋氏個人のクリエイターとして「面白い」コンテンツを投稿していくのではないでしょうか。動画を観ていると高橋氏による「それ、面白いですね」というコメントを頻繁に聞きます。チャンネル自体の出口戦略を持つというより、面白いコンテンツを突き詰めていくものと思われます。
NewsPicksは、引き続き有料課金導線の位置づけか
NewsPicksについては、YouTubeチャンネルは有料課金への導線という役割が色濃くなっています。一方で、こちらの記事で解説をしましたが、有料会員数は20万人前後でおそらく頭打ちであり、90万人に迫る日経電子版に迫るには、特集コンテンツのみならずニュース的価値を提供していく必要があると語っています。
ここで気になるのは、時事ネタのニュースを速報で出すには取材力とともに莫大なコストがかかることになり、さらにそれを動画コンテンツで行うのは速報性の観点からも非常に厳しいであろうという点です。
また、チャンネル登録数でいうと全編を無料で観られるPIVOTが追い上げており、今後YouTubeをどう位置づけるのか注目したいところです。
PIVOTは、今後自社プロダクトにも注力
PIVOTは、チャンネル登録数の増加スピードが増しており、まもなくNewsPicksを抜くのではないかと思われます。
スタート時はアプリに注力していましたが、現状はYouTube動画に全振りしている状況です。最近13億円の追加資金を調達し、その内情や使い道について解説動画を公開していました。
現状は、月によっては黒字となっており、今後についてはYouTubeのみならずアプリなどの自社プロダクトにも注力していくとあります。自社プロダクトを開発したとしても、テキストではなく動画コンテンツがメインになるのではないでしょうか。
ここで気になるのが、今後課金ユーザーを増やすのか、広告でのマネタイズを主軸に置くのかということです。しかし、課金ユーザーに注力した場合、日経電子版90万人弱、NewsPicks20万人という課金メディアが先行しています。かつ日経電子版の有料会員は30代~50代の会員が6割を占め、月額の費用は4,277円です。
PIVOTの視聴者層の7割は45歳以下とのことなので、若年層がビジネスメディアに月数千円払うシチュエーションはイメージしづらい側面があります。
先ほどの動画内では、広告出稿先のメディアとして期待して投資したという投資家の言葉もあり、自社アプリを開発したとしても、主軸は広告での収益が主になるように思えます。
ということで3つのビジネスYouTubeメディアについて解説をしてみました。いずれのチャンネルも登録数はまだまだ伸びているので、YouTubeにおけるビジネスメディアの伸びしろはあるようです。一方で、今後の出口戦略については、YouTubeチャンネルの位置づけによって異なってくるため、その戦略次第ではコンテンツに影響が及ぶものと思われます。
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