ひと月、”いちぼん”いかがですか?
こんにちは、Yellow!編集部のもんめです。
秋に差し掛かる季節がやってまいりました。
わたしは四季の中で秋が一番好きな季節なので、毎年この時期が
来ることを楽しみにしています。
夏のすがすがしい青と木々の緑とは打って変わって、
秋になると徐々に紅葉の葉が紅く色づき始め、金木犀の甘い香りが漂います。銀杏の葉が道路を黄色に染めあげて、
私たちを一気に秋の空間へと引きずり込んでいきます。
どうでしょうか。
秋の高揚した気分になってもらえたでしょうか。(笑)
そんな高揚した気分になると、普段忙しくて読むことができていない本なんかも読んでみようかな、なんて思ったりもします。
これぞ「読書の秋」なのでしょうか。
今回はそんな本にまつわる第一弾の記事として、JR市川駅北口から徒歩1分の場所にある『市川市学習交流施設 市本(いちぼん)』(以下市本)を紹介します。
まずこの施設を取材することになったきっかけは、同じ編集部に所属している(ぴゅあ)えんじぇる♥りりぃさんがこの企画を持ってきてくださったことです。
また、もともと小説が好きで本に関する記事を書くことに興味を持っていたためこの機会に記事を書いてみることにしました。
「市本」とは?
令和3年11月3日水曜日にオープンした市本は、「学習交流施設」という位置づけがあるとおり、本を介して学びの機会やきっかけを作ることや、新たな交流の機会を生み出すことを目的とした施設です。
この施設を紹介するにあたり、
市川市教育委員会 社会教育課長様に書面での取材に、
後日市本にてコミュニティマネージャーと呼ばれているスタッフの並木さんに対面での取材にご協力いただきました。
取材の回答を踏まえ、市本について深堀していきたいと思います。
市本創設の経緯
―市民交流の場を作ることになったきっかけは何ですか?
また、なぜ本に着目したのですか?
市川市 「市民同士の交流の機会は、公民館等の集会機能を備えた施設において取り組んできていましたが、利用者層として大学生や社会人といったいわゆる“現役世代”が少ない状況があったことを受け、“本”という共通の要素によって繋がるコミュニティの形成を促進することで、市川市教育委員会が推進する、“自分らしく輝くための学び”の実現が図られるとの考えから、設計に至りました。」
私も小さい頃は地元の公民館で学校の宿題をしたり友達と遊んでいたりしていました。しかし、大学生となった今では立ち寄ることもなくなってしまいました。
その一方で駅の近くにあり、“本”という身近にある要素を介して交流の場を提供している市本は、大学生の私にとって公民館のような施設よりも足を運びやすいと感じます。
―市本を開業するにあたり、モデルにした施設は存在するのか。
市川市 「これまで市が設置・運営してきた施設には類似施設はなく、また、近隣においても類似する事業はおこなっていなかったことから、具体的にモデルとした施設はありません。」
コミュニティマネージャーの並木さんの回答からも、市本に類似施設が無いということを伺うことができました。
並木さん 「お子さんがお絵描きをしている横でご高齢の方が本を読んでいるなど本屋さんや図書館では見られない光景があり、そこで新しいコミュニケーションが生まれることもあるかもしれないですね。」
市本には曜日や日時によって様々な利用者さんが来るそうです。
例えば、平日の昼間には子連れのお母さんや、シニア層の方が多かったり、
夜遅い時間になると仕事帰りの社会人の方の利用が多かったりするのだとか。土日になると学生とみられる利用者さんが多いそうです。
並木さん 「市本には色々な人に来てほしい。是非学生さんにもっと利用してほしいと思っていて、本を読むだけではなく、何かを
作ったり考え事をしたりして利用することも出来るので。
市川市は文教都市と呼ばれているように大学もいくつかあるので、普段市川で学びを得ている人にもっと活用してもらいたい。」
学びを得てアウトプットする
―市本の目的の一つにある「働きながらも学び続けていける環境の醸成」について、実感していることはあるか。
並木さん 「市本にいらした社会人の女性の方が、市本にある本を参考にして自主制作のジン¹を作ったんです。と言って、見せてくださったことがあります。
好きで興味のある紅茶のことや文房具のことを掘り下げて自主制作をしたそうです。
本をきっかけに色々な学びが広げてもらうことが目的の施設なので、市本にある本を読んで興味を広げ、自主製作しようとここの机で書くという学びのアウトプットまでをしていただけたことは学びをここで得てもらった一例だと思っています。」
仕事の合間を縫って自分自身が興味を持ったことを市本で学び、
その学びを活かして市本の机で自主制作するということから
市本という施設が訪れた人々に学びの環境や機会を与えていることがわかりますね!
※1 Zine コラム雑誌。分量が少なく、一つの内容について書かれた雑誌を表す。
―「本を介した学びと交流」について、市本ではどのように交流が行われているのか。
市本のスタッフには「コミュニティマネージャー」として、施設を運営するだけではなく、利用者とのコミュニケーションを図ることを仕事の一環にしているそうです。
並木さん「市本に来られた方に可能な範囲でお声がけして、必ず会話をするようにしています。また、本が好きで来られる方が多いのでお勧めの本の話をしたり、利用者さんの方からお勧めの本をお借りすることがあったり、本にまつわるトークを日常的にしています。」
このような日常会話での交流を大切にしつつ、
その他にも交流企画を毎月行っているそうです。
並木さん「例えば、10人弱程の参加者が集まって、それぞれが自分の好きな本を持ち寄ってその本について紹介し合うという読書会を行ったりしています。
それぞれが色々な本を持ってこられて、本との出会いの経緯や、本の中の面白かったところを参加者同士で話しています。」
音と人と交わる
また、本だけではなく市本でレコードを聴いて、レコードのことについてみんなでお喋りしようという企画も行っています。
―レコードを聴く会を作ったきっかけは何なのか。
並木さん「ここ市本を作るときに本とカフェと音楽を楽しんでもらえる施設にしたいというコンセプトがありました。
また、読書するときになんとなく音楽があったほうが読書しやすいと考え、読書を邪魔しない音楽を選んでBGMとして流しています。」
本をより楽しんでもらう快適な空間づくりをするためにも
音楽はとても大切にしているそうです。
その音楽についてのイベントもやってみたいということになり、レコードを聴くイベントを考案したのだとか。
並木さん「普段の生活の中には沢山の音楽が溢れていて、色々な音楽にさらされて生活しています。そこでもっと音楽を能動的に聴くためにレコードを用いて『今から音楽を聴くぞ!』という時間を作るのもいいのではないかと考えてレコードを聴くことを決めました。」
―レコードを楽しむ時の市本は、普段の市本とまた違った雰囲気なのか
並木さん「レコードプレイヤーを出してきて、スピーカーから普段よりも大きい音で音楽を流しています。市本に来られた方からは『なんかレコードが流れている。』といった反応があったり、中にはこのイベントめがけて市本に足を運んできてくださった方がいたりします。参加者の中には目を閉じて音楽を聴くことを楽しんでいる方もいらっしゃいます。」
本は「読む」という能動的な行動ですが、音楽も「聴く」という能動的な行動として向き合うことができます。
音楽と向き合うことで新たな気づきがあるかもしれません。
月ごとに変わるテーマについて
話は本に戻ります。
市本に置かれている様々な本は毎月定められたテーマに沿って選ばれています。そのテーマについて話を聞いてみました。
―月ごとのテーマの中で一番反響があった、または印象に残っているテーマは何か。
並木さん「1月の『書くことをはじめよう』というテーマです。このテーマで本を置いていた時は、ライターさんのような書くことを仕事にしている人や、絵描きさん、建築のお仕事をされている方が来てくださっていました。仕事に使えるからと購入してくださる方や、ここで読まれる方が結構いた印象があります。」
1年の始まりの月だったので「始める」ということをテーマにしようとしてこの「書くことをはじめよう」に決めたそうです。
並木さん「また、4月には『幸せってなんだろう』というテーマを定めたのですが、このテーマは市民の方から募ったテーマなんです。いつもは私たちと市川市でテーマを決めているのですが、このテーマを決める際には市民の方から『どのようなテーマで本を読みたいですか?』というように公募をして、その中から選んだテーマです。
市民の皆様のご要望や希望が反映されているテーマになったのではないかと思っています。」
ちなみに公募は店頭に投票箱を設置してアイデアを書いてもらったり、InstagramとTwitterで募集をかけたりして、計135票集まったそうです。
そして集まったアイデアの中から一つのテーマに絞るためにワークショップを開き、参加してくださった市民の方々と話し合った結果
「幸せってなんだろう」というテーマに決まったそうです。
ここでも市民の方々との交流が垣間見えます。
こだわりのカフェメニュー
前述したように、市本は「本とカフェと音楽を楽しんでもらえる施設」なのでカフェにも何かこだわりがあるのかを探っていきたいと思います。
―市本で販売されているドリンクや食べ物にはなにかこだわりがあるのか。
並木さん「市本に毎日来てくれたら嬉しいので、毎日来ても飽きないようなものを取り揃えています。また、このあたりはチェーン店のお店が多いのでそのような店と差別化を図るために、無添加素材を使用するなど体に優しいカフェメニューを取り入れています。
例えば甘味は、白砂糖ではなくデーツシロップ²を使うといったように、材料にこだわっています。」
※2 デーツ(ナツメヤシの実)を原料として作られたシロップ。
黒糖に似た味といわれている。
毎日市本に通ってほしいからこその利用者の方々への気遣いや配慮がなされているようです。
並木さん「あと、市川や千葉など地元の人たちとの繋がりを大切にしたいと考えています。
市本には『季節のフルーツスムージー』というものがあります。
今販売している『ブルーベリースムージー』には市川の新七農園さんのブルーベリーを使用して作っています。
ブルーベリーは、スタッフが農園に摘みに行きました。
このように、市川の素材や産業を活かして作るということは、
当初からコンセプトの中にありました。」
このような素敵なメニューが取り揃えられていて、市本はカフェなのではないかと思ってしまう方もいるのではないかと思います。
しかし、市本という施設は「学習交流施設」であり、
この場所で重視されるのはここで生まれるコミュニケーションです。なので販売や営業というよりかは人と人との関わりを大切にすることが前提にある施設が市本なのです。
また、私が通う千葉商科大学でも地域の農家さんや県内の農場で採れた素材を活かして様々な取り組みを行っていることを伝えたところ、「大学で産業のことを学んでいる学生さんや、食について学んでいる学生さん達と連携してカフを盛り上げることができたら。」
とおっしゃっていました。
読書をより楽しむために
―市本に置かれている文具やアロマ等の商品にはどのようなこだわりや、
選ぶ際の基準はあるのか。
並木さん「雑貨は千駄ヶ谷にある『THINK OF THINGS』の取り扱い商品からセレクトしています。セレクトの基準は、『読書の空間と学びに寄り添う』もので、生活がちょっと楽しくなるものです。本の近くにあったらいいなと思ったり、読書をしている時に使えたらいいなと思ったり、読書の時間を豊かにしてくれるものをセレクトしています。」
読書をする際の身の回りの空間にこだわることで、読書の時間をより楽しむことができるので私もいい香りのアロマを焚いてリラックスした空間を作って本を読んでみたいと思いました。
ここまでの内容はインタビューに基づいた市本の魅力について触れてきました。最後に本と関わることに着目したいと思います。
―普段本に触れる機会が少ない人に向けて、本を生活に取り入れるにはどのようにしたらよいか。
並木さん「本屋や図書館に行くと膨大な量の本があります。本が元々好きな人であれば自分が求めている本をすぐに見つけることができるけれど、普段あまり本を読まない人はどれを読んでいいかわからないと思います。そんな中で、市本ではテーマの中から本を厳選して紹介しているので本を手に取ってもらいやすいと思います。」
また、並木さんが普段本と関わる上で心掛けていることについて、お話をしてくださいました。
並木さん「お店に洋服を見に行くみたいに、本屋に本を見に行くという習慣を作ってみるのもいいと思います。私は一週間のうちのこの曜日は本屋に行くというルーティンを作っています。普段本を読まない人が本に触れたいと思ったときには、本に触れる時間を無理やりルーティンに入れてみるのもありなのではないかと思います。」
通勤通学の合間や寝る前の15分に本を読む時間を作ったり、「この日は市本に行こう!」というような日を作ることで、一日のうちのちょっとした隙間時間がより豊かなモノになるのではないかと思います。
並木さん「また、憧れの人や友人、自分と趣味が合う人からおすすめされたもの、誰かが『これ良かったよ。』と言っていたものは受け入れやすいと思います。」
今まで本に興味が無かったけれど、案外大事な本だった。
そんな風に本に出会えたら素敵だとお話をしてくださいました。
取材を行ってみた感想
大学生の私は本を読む時間よりも課題に取り組んだり、ネットサーフィンをしたりする時間を優先してしまいがちです。
そこで、生活の中に本のひと時でも本を読み、本と関わる時間を作ることで、その積み重ねが豊かな時間を作ってくれるのではないかと思いました。
また、人と交流する機会が減ってしまった現代の社会において、本を介して何かを学んだり、その場で誰かと会話をしたりすることで本や人、音楽との新しい出会いが良い刺激に繋がると思います。
普段から本に親しんでいる方も、なかなか読む機会が少ないという方も、
是非、市本に足を運んでみてはいかがでしょうか。
そこには新しい本や音楽との出会いが待っているかもしれません。