P&Gマフィアは、なぜマフィアっぽいのか
こんにちは。達川幸弘です。
今はCAMPFIREという会社でマーケティングをしたり、ほそぼそと個人でも企業のマーケティングのお手伝いをしていたりします。
マーケティングと進化心理学をつなげるブログという実験的な試みをしております。
▼概要はこちら
さて、みなさんは「P&Gマフィア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? マーケティングに従事している人であれば、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
大手消費財メーカー・プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身で、P&Gを去った後に、他社で業績アップの中心人物となっている人たちのことを指します。
森岡毅さん、足立光さん、西口一希さんなどが有名ですね。
彼らの実力の凄さの元となる、マーケティングのフレームワークや、基本に忠実な戦略論のお話はここではしません。
もうすこし別の観点、「進化心理学」の観点から、彼らのマーケターとしての強さや、組織論と合わせてすこ〜し一般論とは違う観点で考察してみたいと思います。
リーダーシップの型
ウィリアム フォン・ヒッペルの著書に「われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略」というものがあります。
「人間=ホモ・サピエンス」が持つ性質を、進化の過程から読み解く名著です。
さまざまな興味深い考察が書かれているのですが、その内のひとつに「リーダーシップ」に関する記述があります。
この本の中でリーダーシップの型を2種類に分けて説明しています。それが「ヒヒ型のリーダーシップ」と「ゾウ型のリーダーシップ」というものです。
それぞれについて、解説していきます。
ヒヒ型のリーダーシップとは?
ヒヒは雑食性の生き物です。
果実や植物を食料とするだけでなく、狩りをして肉も食べます。つまり積極的に自分たちの種以外の生物と戦わなくてはならず、限りある餌の奪い合いに勝たなくてはならないのです。
ヒヒのリーダーは、自己奉仕的で利己的です。
しかも、ヒヒは常にヒョウやライオン、ハイエナなどの外敵から狙われており、集団を形成することで種の安全性を担保しなくてはなりません。
なので、ヒヒの集団は力の強いオスが出世し、階層を形成します。
強いヒヒが下の階層を育成するかというとそういうこともなく、あくまでも自己奉仕的で、利己的な目的意識が根底にあります。部下が自身の地位を脅かそうとすれば、集団にとって非合理な手段(情報共有の制限やメンバーの排除など)をとって、地位を守ろうとします。
ヒヒの特性は、常に危険にさらされ、高カロリーの餌は奪い合いになるような環境要因が、このような構造を形成する進化圧になっているようです。
重要なポイントはここです。
雑食であるヒヒは狩りによって限られた量の餌を獲得し、さらに外敵からの驚異から集団を守れるだけの力をもった個体がリーダーになるということです。
ゾウ型のリーダーシップとは?
一方でゾウは草食動物です。
植物は広範囲に点在し餌の確保に困ることがなく、しかもその恵まれた体躯から天敵はほぼ存在しません。
またヒヒと違い、メスが集団のリーダーを務めます。移住やライオンなど外敵からの驚異に対応するための支持をオスに与えなどの取り仕切りを行います。
リーダーは特段他よりも優位な条件や利益を得られるわけでなく、集団全体が平等に利益を得られるように振る舞う、集団奉仕のリーダーシップです。
こういったリーダーシップの特性は、餌の確保に苦労することなく(独占も難しい)、外敵の脅威も少ない環境から形成されています。
つまり、リーダーは集団の利益を独占するものでなく、あくまでイチ役割に過ぎないということです。
収益構造と組織
さて、なぜここまでゾウとヒヒのリーダーシップに差が生まれるのでしょうか?
「餌の総量」「外敵からの脅威」という視点で見てみると、ゾウは資源の再配分で苦労する必要がなく、外敵からの驚異もさほど大きくありません。しかし、ヒヒは常に資源の再配分の問題がつきまとい、外敵からの驚異にも対応しなくてはなりません。
こういった「餌の総量」「外敵からの脅威」が、集団のリーダーシップの形成に影響を与えていると考えることができそうです。
ここで頭を切り替え、我々人間のリーダーシップについて考えてみたいです。
リーダーシップやマネジメント論は往々にして「べき論」で語られがちです。もしくは対象となる人や、組織の経営スタイル・文化などでも語られますが、「どのような市場環境なのか」「どのように市場が形成されたか」が変数に語られるのを見たことはあるでしょうか?
こういった市場環境要因によってあるべきリーダーシップの型は変わるのではないか? という問いに対して、皆さんはどう考えるでしょうか。
企業というフレームで考えてみても「収益構造」や「外部環境」によって、
集団の持続可能性に大きな影響を与えます。
■収益構造
原価率
人件費率
顧客単価 etc...
■外部環境
競合企業の数 / 質
参入障壁
ユーザーのライフスタイルの変化 etc…
など企業を持続するための要因は多岐に渡り、選択する市場によって優位・劣位があります。リーダーはその市場環境に応じた戦略構築を求められるでしょう。
参入障壁が低くコモディティ化した市場と、参入障壁が高く収益が安定している事業体では、戦い方がガラッと変わるため、それに応じて求められるリーダーシップに差が出るのではないかという考えです。
GoogleだからGoogly
Googleはre:Workという組織やリーダーシップのあり方を考えるサイトがあり、Googleが考える様々な組織論を見ることができます。
読めば読むほど納得感があり首肯する場面がとても多いです。
「我々もこうあるべきである」
そう考え、実際に組織に反映しようと奮闘する方も少なくないと思います。
※ Googleのカルチャーを描いたこちらの映画もオススメです
▼ インターンシップ
https://www.amazon.co.jp/dp/B00UMAP12A
しかし、すべての業界業種で、または市場環境でこの組織論が通用するのでしょうか? Googleが提示する組織論が、盲目的にすべての市場における生存戦略的に優位な立場を構築するためのツールとして機能するかには、いささか疑問が残ります。
Googleの親会社であるAlphabetは言わずもがなの高収益企業であり、Webで広告を出稿しようと考えたときにGoogleという選択肢が上がらないことはない、といっても過言ではないほどの独占的な地位を獲得しています。
それは言い換えれば、自立駆動的で個々の主体性を重んじることのできる「ゾウ型のリーダーシップ」が機能しやすい「環境要因」が整っていると言えます。
20%ルールなどは顕著ですが、裏を返すと20%の人的リソースをチャレンジに使えるだけの収益構造が確立されているからこそであるとも言えます。
一方でパイが限られており、コモディティな市場境下で成果を出すために、同じ組織論が通用するでしょうか?
P&Gの成長と、NVIDIAの成長
こちらは、P&Gの売上年次成長率です。110%に届かないラインですが、堅実に売上は年次でプラス成長を続けており、コモディティ化した市場の中でも確実にそのシェアを獲得・開拓していっていることが伺えます。
一方でこちらは、NVIDIAの売上年次成長率です。
NVIDIAの時価総額は2024/01/21時点で、世界5位の1兆1898億ドルとなっており時価総額の規模の推移とは思えないほどの成長率を記録しており、軒並み150%を超えています。
中でも、昨今ブームとなっているAI向け半導体では世界シェア約8割を握っていると報告されており、最も成長が期待され市場で独占的な地位を獲得し、マネタイズに成功していると言えるでしょう。
そんなNVIDIAのカルチャーがこちらです
コモディティ化した市場で勝ち抜くということ
独占的な市場とは違い、同じような機能的便益の中で、限られたパイを取り合う市場、いわゆるコモディティ化した市場で消費者で選ばれるということは、並大抵のことではないというのは想像に難しくありません。
この環境下で戦い、成果を残してきた人こそが「P&Gマフィア」と言われる方々です。
直接お話をさせていただいたことのある、「P&Gマフィア」と言われる方のうちの1人は「僕は利益を出す、ということ以外に興味がない」と明言されていたのを思い出します。
率直に「ヒヒやなあ」と思ったものです。
そうです。
「ヒヒ型のリーダーシップ*」を発揮できる人間こそが、そういった市場環境下において企業の生存確率を上げるタイプなのではないでしょうか?
わずかの差異が商品の選択確率に大きな影響を与える環境下において、チームの細部までの仕事をコントロールし、マイクロマネジメントしながら、勝つ方向へ牽引するリーダー。
自由や主体性を重んじるリーダーシップとは、対極的なリーダーシップこそが、コモディティ化で勝つ組織を構築するのに適しているのかもしれません。
もしかしたら、そういったリーダーシップの人が勝ち上がれる構造の組織だからこそ、P&Gは今も成長を続けられているのではないでしょうか?
とあるP&Gマフィアの方と一緒に働いたことのある人間から話しを聞きましたが、その「ヒヒぶり」は凄まじいものがあるそうで、脱落していく人も多かったようです。
※ ここでいう「ヒヒ型のリーダーシップ」の利己性は、餌の独占ではなく、市場で勝つためのこだわりの強さ、と捉えてもらえると嬉しいです
リーダーシップ論に必要な要素
さて、ここから導き出される僕の仮説はこうです。
企業のサスティナビリティを軸としたときに、リーダーシップのあり方は市場環境や収益構造によって定義されるのではないでしょうか?
ですので、「リーダーはこうあるべき」というべき論は、市場や事業構造によって定義されるべきというのが持論です(あくまで企業のサスティナビリティを軸としたとき)。
そしてサスティナビリティの観点でみると、市場のパターンは「コモディティ」「非コモディティ」の2つだけで見ることはできないとも思います。
コモディティが続く市場
コモディティから非コモディティ化する市場
非コモディティが続く市場
非コモディティからコモディティ化する市場
このように、時間軸でも市場環境は変化していきますから、例えばNVIDIAが独占するGPU市場をAMDが脅かしたり、ビックプレイヤーが独自GPUを開発したり、シェアに変化が起こる可能性もあります。
そんな「ゾウが危機にさらされたときに、どのようなリーダーシップが求められるか」は考えるべき視点の一つではないでしょうか?
そしてそういったとき、JALにおける稲盛和夫さんの改革を見ても、ヒヒ的ではありながらも「従業員が疲弊する」といったたぐいのものだけがそれにあたるとも限りません。
P&Gマフィアの方がギラギラと勝ち気に市場を席巻できる理由。
それは、大衆向け消費財という圧倒的にコモディティ化した市場で勝つ術を磨く集団の中で勝ち上がってきた経験から、「ヒヒ型のリーダー」として優秀であるからといえるのではないでしょうか?
みなさんこの意見に関してどう思われますか?
環境によってヒヒにもゾウにもなるべき
この仮説をとある有名な上場企業で組織のチームビルディングを担当されている方に、ぶつけてみたところ大いに賛同いただきました。
ですのでもし自分の中に「理想とするリーダーシップ」があるのであれば、いま一度「それはいまの市場環境において最適か? 」「今後そうていされる市場環境においてこのままでよいかか? 」を問うてみると、より市場において勝ちうるリーダーとなれるかもしれません。
ゾウ型のリーダーシップを発揮したいと思っていても、市場で勝つために求められているリーダーシップは「ヒヒ」かもしれないからです。
逆もまた然りで、「ゾウ型のリーダーシップ」を求められる環境下において「ヒヒ」の振る舞いをすることは、組織の崩壊を生む原因になるかもしれません。
ゾウ型のリーダーの下で働きたいなら、市場選択を間違えない
「ゾウ型とヒヒ型のリーダーでは、どちらのリーダーのもとで働いてみたいですか?」と言われたときに、みなさんならどう答えるでしょうか?
多くの方は、ゾウ型のリーダーがよいと答えるかもしれません。
その際は見るべきは「その事業や市場がコモディティ化していないか?」「その事業や市場がコモディティ化していかないか?」というところかもしれません。
たとえ、外形的に「ゾウ型のリーダーシップ」に基づいたビジョンを掲げていたとしても、その体制にサスティナビリティがあるかは別問題かもしれないからです。
また、「強いヒヒ型のリーダー」の下で働けば、得るものが多いのも事実です。あなたは、どのタイプのリーダーと働きたいですか?
まとめ
まとめると、市場で企業が生き残るのに最適なリーダーシップ要因は、収益構造や外部環境にも含まれるのでは? という主張です。
これは、今市場のリーダーシップはこうなっている、という話ではもちろんありません。独占的に市場を席巻している企業の中でヒヒ的なリーダーシップが跋扈している企業もあるでしょう。
さらに、組織論として語るには横暴なくくりであることも理解しながらも、「そんな視点も確かにあるかもね」というくらいに読んでいただけると筆者としては幸甚です。
ーーーーーーーーー
最後までお付き合い、ありがとうございました!!
▼Twitterのフォローはこちらから
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?