眠る星の詩
空という水に
雲という舟が浮かぶ
アスファルトでできた水底の
人間と呼ばれた魚たちは
未だ水の外の世界を知らない。
ずいぶん久しぶりに目を開けたら、ずっと曇っていた空が割れて、あたたかな光が降ってきた。
あんまりたくさん降るもんだから、傘を開いて、さした。傘の上で光がはねて転がり落ちては、地面に吸いこまれて、死んだ。
傘を伝った光を、ひとかけら、左の手で受けとめた。その光が死ぬことはなかった。
やがて、地平線の向こうに太陽が落ちていった。だんだん寒くなってきたけど、あたたかな光のかけらを握りしめていたから、平気だった。
夜が来て、今度は星が降ってきた。
傘をひっくり返したら、かちん、かちんと音をたてて、傘の中に星がたくさんたまった。そうして傘がいっぱいになったから、服のポッケに太陽の光のかけらを突っ込んで、傘をずるずる引いていった。
世界の反対側まで歩いていった。
長い時間がたって、真っ暗な穴に着いた。
ここにいる病気の友だちは、動けないから、昼も夜も見たことがない。それで、太陽のかけらと集めた星を見せてあげようと思った。
ポッケの中の太陽のかけらが、ぽかぽかした。まず太陽の光を見せてあげようと思って、星の入った傘を置いて、友だちのところへ行った。
真っ暗な中に太陽のかけらを浮かべると、昼間みたいに明るくなって、友だちは、太陽ってこんなにあたたかくて明るいんだねと、にっこりして言った。やさしい色の灯りが、友だちの顔をそっと照らしだした。
それから今度は星を見せてあげようと思って、外へ傘を取りに行くと、もう夜明けのころだった。
太陽がやって来たせいで、傘の中の星は、すっかりとけてしまっていた。その代わりに、きれいな色に光る水が、傘にたまっていた。
それを持って行って見せると、友だちは、星みたいに目をきらきらさせて、星のとけた水を両手ですくって、飲んだ。
たちまち友だちのほおに紅い色がさした。ああ、きれいだと思った。友だちは、もう何もかもすっかり良くなったと言った。だから手をつないで、外に出た。
さっきの太陽のかけらはもういらないやと思って、空へぽおんと放り投げた。かけらは白い鳥になって、昇ってきた太陽の方へ飛んでいき、じきに見えなくなった。
眩しそうに見上げる友だちの手をぎゅっと握りしめた。なんだかとてもうきうきした気持ちだった。そうして二人で、どこまでもどこまでも歩いていった。
(986字)
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