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「御上先生」 令和の金八先生

今日は、「御上先生」 令和の金八先生について書きます。

「金八先生」とは、

1979年(昭和54年)から2011年(平成23年)までの32年間にわたって、TBS系で断続的に制作・放送されたテレビドラマシリーズ「3年B組金八先生」に登場する先生です。

この「金八先生」は、「300人に聞いた!理想の教師が出てくる歴代ドラマ人気ランキング!」で、反町隆史さん主演の「GTO」に次ぐ2位にランキングされています。

因みに、第3位「ごくせん」、第4位「ROOKIES」、第5位「ドラゴン桜」、第6位「女王の教室」など、どれも教師物ドラマでは、有名なものばかりです。

ドラマ「3年B組金八先生」の中で、武田鉄矢さんが演じる金八先生が生徒に語りかける言葉は、どれも素晴らしく視聴者の心を動かしました。これ以来、「熱血先生」というイメージと共に、この「金八先生」が教師の理想像として影響しつづけました。

先生に求められる能力

しかし、金八先生は、あくまで「先生が答えを教えるだけの従来型の授業」であり、昨今学校現場では「主体的・対話的で深い学びの実現」が求められるようになり、現場の先生が理想とした「金八先生」だけでは不十分なものとなり、教育の場において、「いい先生」の定義について模索されるようになります。

その結果、現在、先生が求められる事が、「金八先生」の様な「ティーチング」能力から、「御上先生」の様な「コーチィング」能力へとシフトしていきます。実際、ドラマ「御上先生」でも、この事を、「金八先生」を否定する事により、ストーリー上で明確に語られています。

先生はファシリテーター?

では、実際には、先生の生徒に対する「コーチィング」とは、どの様なものでしょうか?

ドラマ「御上先生」では、生徒に「考えてみて」という言葉を投げつけ、生徒自身に問題意識を植え付けます。そして、「ファシリテート」という技法を使って「教育」を実施しています。

この「ファシリテート」とは、英語で「進める」「促進する」と言う意味を持つ言葉です。具体的には、「さまざまな話し合いの場を円滑に進めるための手法」を言います。

現代社会では多様化が進み、性別や国籍・年齢・立場に寄らない社会づくりの重要性が広がっており、今までのトップダウンという縦型社会から横に広がるシステムへと移行しています。この結果、人から指示されるのを待つのではなく、自主的に考え動くことが求められるようになります。

しかしながら、組織の中で一人ひとりがそれぞれの意見を主張したのでは、「船頭多くして船山に登る」の状態となります。従って、これら一人ひとりの意見を取りまとめ、組織の円滑化及び実効性の為に、ガイド役である「ファシリエーター」が必要となります。

以上の状況から、教育の現場では、教師は「ファシリテーター」となることが求められるようになります。ドラマでも、この「ファシリテーター」の必要性が色々なシーンで語られています。

「金八先生」と「御上先生」

では、ドラマ「御上先生」では、金八先生の「ティーチング」力を否定しているのでしょうか?

脚本家の詩森ろばさんは、現在のいい先生のモデルとして描いている「御上先生」を、「金八先生」と重ねているのではと思われるシーンを挿入しています。

つまり、「金八先生」と「御上先生」のアプローチの仕方は、真逆なものですが、最終的に生徒を信じ、そして生徒に寄り添って、人間として成長を促すことが教育の本質であると、本ドラマでは定義しています。

教育に関する論議は、どうしても、最後には、ドラマ「御上先生」でも語られていましたが「教師論」に尽きると言うことです。

パンドラの箱

そして、本ドラマでは、この「教師論」と共に語られているのが、「青少年の現状に対する憂慮(問題)」です。

しかし、この「青少年の現状に対する憂慮(問題)」は、色々な事情が絡み合っており、一度手を付けると色々な予想もできないような結果をもたらしました。言わば、パンドラの箱を開けた状態となります。

例えば、いじめが社会問題となり始めた昭和60年のこと。実は昭和58年から59年にかけて、校内暴力が吹き荒れました。この時に、学校側は、目に余る校内暴力を鎮圧するために、「力による教育」を行わざる負えなくなります。

厳しく細かい校則などで生徒を拘束し、警察と連携して徹底的な管理強化という策を取りました。確かに、これにより校内暴力は鎮まりましたが、今度はその歪が「いじめ」問題へと形を変え、更に、この「いじめ」問題が、不登校問題へと波及していきました。

また、戦後のGHQの教育改革による先生の「労働者宣言」そして、これに端を発して、日本教育学会そのものの思想の「偏り」が、これらの諸問題を更に複雑化していきます。

この学会の思想の「偏り」は、「教科書検定」問題や、国歌「君が代」の斉唱の義務化や国旗の掲揚問題へと発展し、教育の場において混乱が発生し、本来共生しなければならない地域の人々(国民)や、生徒そのものに対して不信感を植え付け、教師への不信へと繋がっていきました。

日本教育学会の考える教育と国が施策として掲げる教育が、対立状態になっている現状で、教育の現場において「青少年の現状に対する憂慮(問題)」を考える環境が作れるのかという疑問が生まれてきます。

新たな問題の起因

更に最悪なことに、まだ、解決策が十分に見出されていない、いじめ、不登校、そしてネグレクトに家庭内暴力などの諸問題ともに、最近では、コロナ禍による経済状況の変化、特に雇用状況の変化による貧困層の増大に起因する諸問題が、教育の現場において、新たな問題となっています。

ドラマ「御上先生」では、その典型ともいえる問題である「生理の貧困」と「ヤングケアラー」が取り上げられました。

「生理の貧困」とは、

アメリカ医学女性協会によれば、「生理のための衛生用品や教育、衛生施設、そして廃棄方法に対して十分にアクセスできない状態のこと」を言います。

日本では新型コロナウイルスの感染拡大により顕在化しましたが、海外では2017年、国際NGOプラン・インターナショナルがイギリスでおこなった調査をきっかけに「生理の貧困(Period Poverty)」という言葉が広く知られるようになりました。

その国際NGOプラン・インターナショナルが、2021年に日本において行った調査の結果が、驚愕するものでした。

15~24歳の女性2000人を対象におこなった調査によると、35.9%が生理用品の購入や入手をためらったり、購入できなかったりした経験があると答えています。

これは、生理用品の購入や入手をためらう背景に経済的な状況もありますが、それだけではありません。例えば父子家庭では生理のことを父親に言えないかもしれませんし、親と良好な関係ではない子どもは生理自体を親に伝えられず、ひとりで悩んでいる状況を、この数字は、如実に表しています。

更にこれらの状況は、外出控えや不衛生な生理用品の長時間使用、トイレットペーパーなどを生理用品の代わりに使う事態などにつながっています。

コロナ禍による経済悪化による失業や育児のために収入や外出の機会が減った女性は家庭内での立場が弱くなる傾向にあります。自由に使えるお金や時間がなければ生理用品は買えません。そしてその女性に娘がいた場合には同じことがおきてしまい、これでは負の連鎖が止まらない状態ともなります。

これは、ハッキリといって、憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」権利を侵害しています。

従って、政府は、厚生労働省と共に内閣内に設置された男女共同参画局が、中心となって、この問題を喫緊の課題として取り組んでいます。

「生理の貧困」と同様に、現在、大きな問題となっているのが、同じく前回ドラマで取り上げられた「ヤングケアラー」です。

「ヤングケアラー」とは、

本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものことです。

厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究(令和3年3月、令和4年3月)」によると、世話をしている家族が「いる」と回答したのは小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%、定時制高校2年生相当で8.5%、通信制高校生で11.0%、大学3年生で6.2%となっており、その多くが、ほぼ毎日、一日当たり7時間以上、世話をしています。

更に、この問題で悲しくさせる事として、これらヤングケアラーが、自分がヤングケアラーであることに気付いていなかったり、「家族のことは家族でなんとかしなければ」という思いで頑張るあまり、一人で悩みを抱えてしまったりする人が殆どであるという事実です。

しかし、ヤングケアラーは、本当なら享受できたはずの、勉強に励む時間、部活に打ち込む時間、将来に思いを巡らせる時間、友人とのたわいもない時間といった「こどもとしての時間」と引換えに、家事や家族の世話をしており、こどもとしての権利が守られていません。

この「ヤングケアラー」については、こども家庭庁が主体となって動いています。そして、「生理の貧困」に対処する男女共同参画局の両方の担当大臣となっているのが、自由民主党所属の参議院議員の三原じゅん子さんです。

三原じゅん子さんは、担当大臣として以下の動画を発信しています。

実は、この動画の中の三原大臣は、テレビドラマシリーズ「3年B組金八先生」に山田麗子 役として出演しており、教育においても少なからず関係のある議員です。

動画で三原大臣が、言っているように、「自分は一人じゃない」「誰かに頼ってもいいんだ」と思えるようにすることが、これらの問題、そして、教育を再生する鍵となると思います。

そして、教育の現場で、これら問題を抱えるこどもに最初に向き合うのが、担任の先生となります。

しかし、全ての責任を担任の先生だけに背負わせてはいけません。他のベテラン先生や養護職員(保険室の先生)など組織として取り組むことが大切であり、更に、ケースワーカーや国の機関が一体となり、これらこどもを守らなければなりません。

そして、それ以外の直接関係のない人も、こう言った事実(問題)を共有することが大事であり、その点に於いてもドラマ「御上先生」が、これらの問題を取り上げ、問題提起することが非常に大事であると思います。

「金八先生」が一世代の理想の先生像を提示したと同様に、「御上先生」が、現在(令和の時代)の「金八先生」と成ることを願っています。














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