21世紀初頭に光り輝いた邦画(その1)
1980年代に、経済バブルが膨れ上がり、資産価格の高騰、特に不動産である土地の価格が高騰し国民の間に格差ができました。だからバブル潰し・正常化の為に、政府は、日銀の公定歩合の急激な引き上げに続き、不動産の総量規制、地価税の創設、固定資産税の課税強化、土地取引きの届け出制、特別土地保有税の見直し、譲渡所得の課税強化、土地取得金利分の損益通算繰り入れを認めないなどの対策を打ち出します。
しかし、この政策は、経済の要である銀行の機能を直撃し、経済バブルが崩壊し、その後、10年間は、不良債権の整理の為に、経済は停滞していきます。
「失われた10年」とも呼ばれる1990年代。その余波もあって、2000年代に入るや邦画界は産業的に底を打つ状態に!2002年、市場における邦画のシェアは洋画に対して、過去最低の 27.1%にまで落ち込んでしまいます。
しかし、翌2003年から徐々に回復傾向となり、なんと2006年には21年ぶりに邦画の国内シェアが洋画を上回る結果となりました。そして以降も、(2007 年を除いて)この「邦高洋低」は、2008年、2009年と続いてゆきます。
映画館スクリーン数は1960年にピーク(7457)を記録した後、急速に数を減らし、1993年には1734スクリーンにまで減少。その後は増加に転じ、2023年は.3653スクリーンまで回復します。
映画館のスクリーン数に関して、2000年代に顕著だったのは、邦画3社=東宝・東映・松竹のシネマコンプレックス(複合映画館)が、全体の8割となり、映画館が郊外から大都市へと波及し、商業施設に隣接して設置され、動員数に影響を与えることとなります。
また、主に若者世代をターゲットとした各テレビ局メインの企画、はたまた“製作委員会方式”による国産ヒットドラマ、ベストセラー小説、人気コミックなどの映画化が、いっそう興行面で「邦高洋低」の推進力となりました。
これには、CG(Computer Graphics)やVFX(Visual Effects)といったデジタル技術の進化も大きく寄与しており、映像や音声の分野において、大きく進歩するキッカケとなります。
特に、CG(Computer Graphics)の進歩は、日本のアニメーション業界が飛躍的に進歩し、VFX(Visual Effects)の進歩は、いままで映像化出来なかった情景を描くことが出来るようになり、実写映画のストーリーの幅が広がることとなります。
これらの要因により、一時は映画界が、「斜陽業界」と呼ばれていましたが、2000年を境にV字回復し、その結実として、2000年の初頭に素晴らしい映画が、数多く登場することとなりました。
それでは、2000年代初頭に現れた名作について書いていきたいと思います。
千と千尋の神隠し(2001年)
スタジオジブリの『風の谷のナウシカ』(1984年)、『もののけ姫』(1997年)は、社会現象になるほどの人気を博すようになります。
そして、スタジオジブリは、前作の好評に乗って、2001年に、原作・脚本・監督は宮崎駿が担当し『千と千尋の神隠し」を発表します。
2001年(平成13年)7月20日に日本公開。興行収入は316億8,000万円で、『タイタニック』を抜いて、日本歴代興行収入第1位を達成し、第52回ベルリン国際映画祭では『ブラディ・サンデー』と同時に金熊賞を受賞するなど、多くの人に受け入れられます。
「千と千尋の神隠し」は、国境を越えて人々の心をつかみ、世界中でその名を知られる作品となりました。
これほど色々な国々の人々の心を、掴むことが出来た一因としては、この映画の持つ深いテーマと映像が持つ芸術性、特に環境保護と伝統尊重、そして個人成長と自己啓発を描くことにより、全ての観客に共感を呼び起こしました。
この映画で示した、スタジオジブリが持つその独自の美学とストーリーテリングの手法は、世界中のアニメーターとクリエイターに新たな可能性を、今も示し続けています。
因みに、スタジオジブリといえば、この映画の監督でもある宮崎駿監督を連想すると思いますが、実は、ジブリは、宮崎駿監督と高畑勲監督という二人の天才が作り出したものです。
高畑勲監督の代表作でもあり、反戦アニメーション映画『火垂るの墓』が、9月に日本を除く世界全国190カ国のNetflixで配信されると報道されています。このタイミングでの配信には、何か思惑があるような気がするのは私だけでしょうか。
黄泉がえり(2003年)
『熊本日日新聞』土曜夕刊に、1999年4月10日から2000年4月1日まで連載された梶尾真治さんの小説を、2003年に映画化したものです。
映画では、熊本市およびその周辺で突如発生する、死んだはずの人が蘇ってくるという超常現象をベースに、人々の絡み合いを描いていますが、登場人物のキャラクターについては、小説の設定から大幅に変更されています。
もし死んだ人が、もう一度甦るのであれば、何を伝えたいのか、そして、残された人は、何を思うのかが主なテーマの3週間の奇蹟が描かれています。映画では小説よりもSF的な要素が色濃く、一部設定で1999年に公開された「シックスセンス」を連想させるストーリーも含まれています。
この映画は、草彅剛主演で、ブレーク直後で23歳の時の竹内結子さんがヒロインとして登場しています。
その他にも、石田ゆり子さん、哀川翔さん、子役時代の市原隼人さん、ブレーク直前の長澤まさみさんが出演しています。
主題歌は、RUIの「月のしずく」。このRUIは、女優・柴咲コウさんが、歌手として活躍するときの名前であり、この映画でも、RUI役で最後のシーンで主題歌を歌うシーンが登場します。
最終興行収入は、30億円となり、此れ以降、小説をベースにした映画が多く見られるようになります。
2008年にスティーヴン・スピルバーグ監督の映画制作会社ドリームワークスがリメークする権利を購入したと言われていますが、未だ映画化はされていません。また、作品中に2016年に発生した熊本大地震を予言するような記述がされており、後にこれが話題になっています。
この翌年の2004年は、恋愛映画の不朽の名作が、立て続けに2本公開されます。
世界の中心で愛をさけぶ(2004年)
2004年に制作された不朽の恋愛映画の一つが、通称「セカチュー」と呼ばれた『世界の中心で愛をさけぶ』です。
この映画は、小説家・片山恭一さんが、2001年に発表した青春恋愛小説です。この小説は、初版8,000部と発売当初はさほど話題にならなかったのですが、一部の書店販売員らの手書きのPOP広告と口コミにより、徐々に話題になります。
2002年には、この映画の主要登場人物である柴咲コウさんが、雑誌『ダ・ヴィンチ』に投稿した書評のコメント「泣きながら一気に読みました。私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました」が書籍の帯に採用され一気にブレイクし、映画化されるようになります。
四国の香川「庵治町」という瀬戸内海の小さな町、優等生と劣等生の淡い恋、ソニーのウォークマン、深夜ラジオ、そして、ストーリーを引っ張っているのが、今では殆ど見ることができないカセットテープ。
典型的な恋愛映画でありながら、「人は死んだら愛も死んじゃうですか?」という永遠のテーマが、この映画を不朽の恋愛映画へと押し上げています。
この映画が、通称「セカチュー」と呼ばれるほどの社会現象を引き起こした大きな要因の一つが、この映画に登場する役者であると言えます。
主人公で、この映画の視点となっている朔太郎役の大沢たかおさん、そして朔太郎の学生時代を演じた森山未來さん、朔太郎の婚約者役の柴崎コウさん、写真館の店主である重じぃ役の山崎努さん、そして、なによもこの映画で光っていたのが、主人公である広瀬亜紀役の長澤まさみさんです。
長澤さんは、この映画により大ブレークをします。
奇遇にも、この映画の主要登場人物役を演じた柴咲コウさんと長澤まさみさんは、前年度の「黄泉がえり」でチョイ役で登場していました。
チョイ役といえば、この映画では、このチョイ役に、主役級の俳優さんが、多く登場しています。
例えば、 宮藤官九郎さん、 高橋一生さん、マギーさん、尾野真千子さん、杉本哲太さん、 ダンディ坂野さん、 渡辺美里さん、小林麻耶さん、大森南朋さん、天海祐希さん、そして堀北真希さんなどがほんの一瞬、画面に登場します。非常に、贅沢な使い方であると思います。
どこに登場したのかわからない人のために、その登場シーンを集めた動画があるので添付しておきます。
いま、会いに行きます(2004年)
2004年5月に「セカチュー」が公開され、その感動が続いている中で、同年の10月に公開されたのが、『いま、会いに行きます』です。
『いま、会いにゆきます』(通称:「いまあい」)は、市川拓司によるベストセラーのファンタジー恋愛小説で2003年に小学館より刊行されます。「セカチュー」と同様に、メディアミックス化の成功例としても有名です。
これを、2004年に竹内結子さん・中村獅童さん主演で映画化。「セカチュー」と同様に後にドラマ化されています。更に、2018年には、ソ・ジソブさん、ソン・イェジンさん主演で『Be With You〜いま、会いにゆきます』の邦題で韓国でリメイク化されています。
因みに、「セカチュー」と「いまあい」は、同じ製作委員会が制作しており、この年に、合計で130億円の興行収入という記録を残しています。
この映画が、不朽の名作として長く愛されてきたのには、大きく三つの要素があります。
第1に脚本。第2に映像。第3には役者。これら全てがパズルのピースが当てはまるように見事に一つの映画として結実しています。
まず、脚本では、当初、たくみの目線で語られた同じエピソードが、今度は、みおの目線でつむぎ直され、2人の記憶が交錯します。そして、後半のみおの目線でつむぎ直された15分で、映画全体に張り巡らされた伏線が、すべて回収され、題名「いま、会いに行きます」の本当の意味が現れてきます。
本当に、こんな美しいストーリーを作り出した原作者や脚本家には、ただ感心するばかりです。
次に映像ですが、梅雨がストーリーの中心となるために、湿っぽい雰囲気になりがちですが、シーンによって異なる雨の降り方が、幻想と現実を結びつけ、香りや感触さえ感じられるような独特な雰囲気を醸し出しています。
そして、雨の時期が最も映える森、さらに、夏の象徴でもある向日葵畑が、この映画の中で非常に効果的に使用され、この映画が持つファンタジー感を高めています。
特に、「たくみ」と「みお」の再会の場面では、「みお」の座っている背後には、朽ち果てた扉が描かれており、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を彷彿とさせるファンタジー感満載の場面となっています。また、最終の場面でも、この廃屋が効果的に使用されています。
最後に「役者」ですが、まず、「たくみ」役の中村獅童さん。中村獅童さんといえば、ピンポンのドラゴン役など、「硬派な男」というイメージが強いですが、この映画では、そんな雰囲気は片鱗も見せず、奥手で病気ゆえに自分に自信がない「たくみ」の、優しい人柄を魅力的に表現しています。
そして、この映画では唯一無二の役者が、「みお」を演じた竹内結子さんです。当時24歳で今作が自身初の母親役でしたが、美しくも繊細で儚げな印象の「みお」役を抜群の存在感で演じています。その演技が評価され、第28回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しています。
竹内結子さんと中村獅童さんは、この映画がキッカケで結婚し、男子を出産しますが、2008年(平成20年)2月に中村獅童さんと離婚します。
この後も、竹内結子さんは、映画ドラマで活躍します。
2014年には、三谷幸喜さん演出・脚本の舞台『君となら』に出演。長女の恋人を巡り勘違いが繰り広げられるホームコメディで竹内さんは主演の長女役を、イモトアヤコさんは次女役を演じています。
2人とも初舞台ということもあり、意気投合したといいます。以来、「アヤコ」「結子さん」と呼び合う仲になります。
2人で食事をした後は、イモトさん宅によるのがお決まりだったといいます。イモトさんは竹内さんにとって、はしゃげるほどリラックスできる存在。互いに独身だった17年4月には、一部週刊誌でイモトさんが竹内さんと同じマンションに引っ越したとも報じられるほどでした。
しかし、2020年9月27日に突然訃報が飛び込んできます。竹内結子さんは、奇しくも母親の享年である40歳の時に、急遽してしまいます。
この時に、一番心配されたのが、大親友であるイモトアヤコさんでした。この時のイモトさんの憔悴ぶりは見ていられないほどで、食事も喉を通らないほど嘆き悲しんでいたそうです。出演していた番組が縁で結婚したテレビディレクター・石崎史郎さんも、かけるべき言葉が見つからないほどの状態であったと言われています。
しかし、番組に幾つも出演している人気芸能人であり番組に穴を開ける訳にもいかず、「大丈夫です」と気丈に答えていたそうですが、その目は泣きはらしてパンパンとなっていたそうです。
竹内結子さんの死から4年が経過した現在でも、竹内結子さんのインスタグラムは、見ることが出来ます。その中でイモトさんとの交流を幾つも見ることができます。
そして、そのインスタでフォロー欄を見ると、竹内結子さんがフォローしているのが一人であり、その一人こそ、このイモトアヤコさんです。
イモトさんの心痛が今でも感じることができます。
まだ、多くの邦画を紹介したいのですが、長くなりましたので一旦終わりにして、続きはその2で書きたいと思います。