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「エマーソン、レイク&パーマー/The Barbarian」

 原曲がバルトークのピアノ曲“アレグロ・バルバロ”であるのことはよく知られている。原曲は、前半(F♯マイナー)と後半(F)の2つの部分で構成されているが、キース・エマーソンは、前半部分のテンポを遅くし、ハモンドオルガン主体のハードなサウンドにアレンジし、さらに原曲後半部分(F)の後にCodaとして加え、ハモンドのインプロヴィゼーションと派手なドラムで盛り上がり全開で華やかに終わる。
 このエマーソンによるアレンジは、単に原曲のメロディーを拝借したという域を超え、原曲に無い魅力を湛え、換骨奪胎以上の成果をあげている。
 ELPの『The Barbarian』を聴いたあとで、『Allegro barbaro』を聴くと、原曲の方がまるでプロトタイプであるかのような物足りなさを感じてしまうのは、たぶん僕だけではないと思う。
 
 この曲の魅力の一つに、テンポ変化によるヒート・アップ感と効果的なキメを挙げることが出来ると思う。そこで、テンポ表示を添えながら、曲の進行を辿ってみたい。

 まず、重々しいファズ・ベースの音が聞こえてくる(1分間=63)が、カールのフィルからハモンドのコード奏が入るところでは70にまで上がる。この速度変化無しには、イントロの重々しさは表現できない。
 その後、徐々ににテンポは上がり盛り上がってゆく、82にまで上り詰めた瞬間リズム隊がブレイク、瞬間的に79に落ちる。
 F♯minor→C、C♯minor→G という近代的なコード進行も、当時のロックでは考えられないカッコよさ。
 続くピアノ主体の転調部分は、原曲のテイストを残しつつ、そこにCarl の素早いブラシワークとベースが加わる。Keith とピタリと呼吸が合っているところなど、初めて聴いた15歳のときなど、「なんて正確に叩けるんだ!」と、素直に感動したものだ。
 この部分も、原曲そのままではなく、一拍ずらして小節の頭から始まる形にしてあり、より乗り易い形にしてあり、部分的に装飾的な音をさりげなく加えてあり、スマートな響きになっている。

 その後再びハモンドに戻りテンポを落とす。最後は Carl の華やかな魅力全開のドラムが活躍、ディストーションの効いたハモンドの高音が、オクターヴと長9度を含む鋭角的なコードのロングトーン&連打で叫びを上げ、テンポは88にまで上り詰める。そして最後は82でしっかりと決める。このあたりは、原曲には全く無いイメージであり、彼等の独壇場。新らしいバンドの登場と勝利が高らかに告げられた瞬間だ。3人とも大満足だったに違いない。

 よくリズム感の悪さを指摘されるバンドであるが、この曲に関しては、曲の進行に合わせた有機的な速度変化が大きな魅力になっている。この点では、クラシック音楽でも同じで、その要素無しでは、「フックト・オン~~」みたいな表面的な軽いものになってしまう。
 新バンドのメンバーとして Carl が選ばれた利点が、この曲の中に、はっきりと示されていると思う。The Barbarian の魅力は、圧倒的なストロークの速さと、Keithの音楽的意図を汲み、徐々に速度アップしてゆくことによってもたらされている部分も大きく、この点に於いて、Carlと同等以上のプレイを聴かせてくれる存在は 、他にはなかなかいないと思われる。同じことが、この後発表されるLive版の『展覧会の絵』にも言える。

 

「アレグロ・バルバロ」

  ※作曲者バルトーク本人による貴重な録音




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