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映画「ドクタースリープ」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第39回

自分とは縁が切れないから
2019年公開映画「ドクタースリープ(Doctor Sleep)」
文・みねこ美根(2020年7月20日連載公開)

先日、金曜ロードショーで「レディプレーヤー1」やってたね。いつも「俺はガンダムで行く!」のセリフで泣いちゃうのは、私です。なぜかぐっとくる。あのセリフは森崎ウィンさんのアドリブらしい!とっさに出てくるのすごいなぁ。そしてこの作品の中で、ある映画を再現したシーンが出てくる。そう!「シャイニング」。あのシーン初めて見たときとってもわくわくした。「シャイニング」のあの雰囲気、なぜあんなにも惹かれちゃうんだろう。グロテスクなシーンはほぼないけれど、精神的に追い込められていく、あの緊張感。閉ざされたホテルの管理は絶対にやらないと決心すること間違いなし。映像や構図、色合いもグッと引き込まれてしまう美しさがあるよね。ちなみに、トイストーリーの一作目のシドの家の床は、「シャイニング」のあの有名なカーペットで、パロディになっている。

ということで、夏もやってくることだし、ホラーはいかが?

「シャイニング」に出てくる双子が印刷されている洋服ってすぐ売り切れるよね。去年逃して、今年やっと買えたんだけど、みんなそんなに大好きなのかい…。「ドクタースリープ」は「シャイニング」の続編として、原作者スティーブン・キングが執筆したもので、本作はそれの映像化作品。

秀逸なのが監督を務めたマイク・フラナガンの脚本。そもそも前作である原作の「シャイニング」と、スタンリー・キューブリック監督が映画化した「シャイニング」はかなり違う部分が多く、キングは映画化された「シャイニング」が嫌い過ぎて、自分でドラマを作ってしまうほどだったらしい(ドラマ版見てみたい。)。そんな、“ふたつの”前作を持つ「ドクタースリープ」だが、どちらのファンも楽しめて、そしてキングも納得した作品になっているのだ!私は映画しか見ていないので、本は未読。調べてみたところ「確かにこれは絶妙!」というポイントが本当に素晴らしく再構成されている。本も読まなきゃだね!うきうき。

「シャイニング」で描かれた事件の後、ダニーと母ウェンディは二人で暮らしていたが、シャイニングという能力を持つダニーのもとには、オーバールックホテルで遭遇した亡霊たちが度々やってくるのであった。前作でダニーを助けたハロランは、死してもダニーのもとに表れ、自身と同じくシャイニングを持つダニーに、亡霊を封じ込める方法を教える。一方そのころ、ローズ・ザ・ハット率いる謎の集団は、シャイニングを持った子供を捕らえ、殺すことで子供たちの生気を食べ、永遠の命を繋いでいた。能力を隠し大人になったダニーは酒浸りの生活から逃れようと、ニューハンプシャーの街にやってくる。ある日、強烈なシャイニングを持つ少女アブラからテレパシーが届き交流が始まる。時を同じくして、生気が足りず飢餓状態になっていた謎の集団は、強い生気を求め、アブラを探し始める…。という話。

予告をはじめて見たとき、「ウーン、これはイチかバチかのタイプのやつではないか…?」と期待していなかった。でも、実際見てみると、シャイニングという能力に重点が置かれているので、映画の方の前作とは印象こそ違うものの、ダニーが経てきた時間、シャイニング、そして再び描かれるあのホテルが素晴らしかった。

キューブリック版「シャイニング」は、精神的な恐怖でジャックやウェンディが追い詰められていく様が特徴的。ダニーの主人公感はないし、シャイニングという能力についての説明もあまりない。しかし、本作では、能力について、そして因縁の場所オーバールックホテルはどういう存在なのかについても描かれており、前作の補いつつ、話が進められる。

びっくりしたのが、シャイニングの能力を映像で表すシーン! ノーラン監督の「インセプション」的な、重力が変わるような映像効果で、視覚的にも楽しい! 謎の集団のリーダー、ローズ・ザ・ハットがアブラに接触しようとするシーンは、ぐぐぐっと見入った。能力描写を観客に混乱させずに見せるって本当にすごいことだぁね。そして強い能力者である少女アブラを演じるのカイリー・カラン。彼女の演技がすごいのなんのって!ユアン・マクレガー演じるダニーがアブラの体を借りるシーンがあるのだけれど、「あ、アブラじゃない…」というのが、彼女のちょっとした仕草だけで表現されていて、本当に素晴らしい。微笑み方、立ち振る舞い、ほんの少しのシーンだけど、見どころです。そして、ローズ・ザ・ハット演じるのが、レベッカ・ファーガソン。最近だと、「ミッションインポッシブル」に出ている女優さんなのだが、ものすごく綺麗。そして綺麗なだけじゃない、淡々としているんだけれど、人間っぽい弱さも垣間見れるような表情もあって、とにかく魅力的。話す時の口元が素敵。

もうひとつびっくりしたのが、途中で登場する野球少年。なんと「ルーム」で天才的な演技を見せたジェイコブ・トレンブレイなのだ。「ちょい役だけど、まさか、ルームの子か?」と調べたら本当に彼で驚き桃の木。彼にしかできない役ということだったのかな。ここはかなり心を痛めたシーン。見る方は要注意です。

前作のカメラワーク、映像の雰囲気を踏襲しつつ、新たに描かれる、ダニーの人生、輪廻のように続いていく繋がり。終盤、描かれるあのホテルは、前作を見直しておくとより「おおお」ってなるよ。ただ、あの超怖い熊男みたいなのは出てこなかったな。残念!でもジャック、ウェンディの役の人はちゃんとジャック・ニコルソンとシェリー・デュヴァルに雰囲気が似ていて面白い。併せて「シャイニング」も見直したけど、ジャック・ニコルソンは正気でも恐ろしいね(笑)。

ダニーに付きまとう、トラウマ、親の遺伝(アルコール依存症等)、そしてシャイニングという能力。でも、そんな中、なぜ“ドクタースリープ”なのか、が分かるシーンがグッとくる。キングの作品「IT」もそうだったけれど、怖いだけではなく、自分との戦いというか、子どもの頃のあのどうしようもない恐怖とともに大人になった自分と生きていく、っていうような、怖いんだけれど、誰もが共感できる魅力、不思議な力がこの作品にはある。街にやってきたダニーが何から逃げてきたのかと尋ねられた時「自分から逃げているのかもしれない」と言うシーンがある。「自分とは縁が切れないからな」と尋ねた友人ビリーは答える。その通りだ。親という人間がいて、受け継ぐものがあって…。選択の余地のない世界に生まれ、でもその中でどう生きるのか。何を選択していくのか、それが重要なのかもしれない、ということを考えた。

能力は憧れるから、あのお風呂場婆には会いたくないから、やっぱり大丈夫。今の自分で十分“輝いて”いると信じて、生きていきます。

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モチーフ:ホテルの床、ダニーの頭の中の箱、REDRUMと書かれた扉、斧、ローズ・ザ・ハットの帽子、19番のグローブ、生気を入れた容器、アブラのぬいぐるみ、スプーン、酒瓶、ウイスキーの入ったグラス
音楽:「The Overlook」(The Newton Brothers) オルゴールver. Cover

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