映画「君たちはどう生きるか」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第84回
生きるに値する世界だと思えますように
2023年公開映画「君たちはどう生きるか(The Boy and the Heron)」の指輪
文・〝美根〟
「賛否両論」「カオス」「難解」「今までの作品を思わせる描写」・・・
口コミは口コミであって、実際観てみると全然違う!という経験も多くしてきたのに、やはり観る前に口コミを見てしまうし、自分でもこうして観た感想やらを書き留め、紹介している私です。
第96回アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞受賞した「君たちはどう生きるか」も、正直に言うと観るのに二の足を踏んでいた。公開した7月あたりに友達とジブリパークに行ったのだが、「美根ちゃん、観てないの?ジブリパーク行くって言ってたのに〜」と言われたのを覚えている。ごめん年越してから劇場で観ました。そしてとんでもなくこの作品に心掴まれたのです。
【あらすじは最小限にしときます】
戦時下、少年・眞人は、父の持つ軍需工場のある地方へ疎開する。
孤独な日々の中、執拗に追いかけてくる青鷺。不気味な青鷺に誘われ、辿り着いた先は・・・。と、ここまでにしておきます。事前に宣伝なしというスタイルで封切られた本作なわけなので、事前情報なく観てほしい。以下も今回ネタバレはしないよ。というか、この「宣伝なし」という「宣伝方法」、ジブリにしかできないやり方だよね。この発想もすごい。
【初めて観る世界】
とんでもないものを観てしまった。すごすぎる。これが観て一番に思った感想だった。
誰も見たことない世界をこんなにも描けるなんて!と打ちのめされた。
前評判にあったような、これまでのジブリ作品を彷彿とさせる描き方は確かにあったもののそれが面白さの全てではなく、その何倍も何倍も新しいものを見せてくれる。「『昔の作品のオマージュがー』って言ってる人はどんだけ冷静に見れてんだ!?」てくらい、私は目まぐるしく目新しい景色と物語にのめり込んだ。
この作品の、誰も思いつくことのできない唯一無二さ、宮崎駿監督の尽きることを知らない底知れぬ深淵な天地創造力に恐怖すら覚える。宮崎駿監督作品・ジブリ独特の、不気味で得体の知れない気味の悪さが遠慮なく効果的に活き活きと存在し、観る者に侵食してくるような感覚も素晴らしかった。
【丁寧に描かれていく綿密な演出】
やりたいこと全部やっちゃえ!という乱雑さはもちろんあるはずもなく、そんな次元ではない、届ける人がいて届けるために作るのだ、という携わるすべての芸術家たちの真摯で温かな心も強く感じた。
冒頭、主人公が空襲の中走るシーンがあるのだが、その描写も、こんな描き方あるのか…ともう目が離せない、素晴らしいアニメーションだった。アニメーションの奥深さを最初からまざまざと見せつけられた。無口な主人公の眞人、自らは語らないキャラにも関わらず、眞人の葛藤、受け入れられないことや複雑な感情が、セリフのないシーンでも丁寧に丁寧に描かれていて、もうそこでぐっと涙を堪えた。
あと、まったく状況が説明されないのに、登場人物の状況把握能力というか、その場の条理を理解するスピードが速い、というのも面白い。だからなのか、こちらもわかったような気にさせられるという現象も、ジブリを観る時に思うことなんだけど、そんな「わからない」と「わかる」の間にいる特有の心地良さが本作にもあった。
そして、風っていうのは素晴らしいなと思った。風って髪も服も草木も揺れるから、まじで描くの大変だと思うのだけど、風が吹くと一気に物語の追い風になるのよね。ハッ😦っていう場面全部で風が吹いてたんじゃないかってくらい。たっくさんある見どころの一つなので、ぜひ観てみて、風を感じて欲しい!
【想像の域を越えることは難しい、だからこそ創造は尊く素晴らしい】
何を見て食べてどう世界を感じてきたら、あんな情景が生まれるんだろう…そこがわけわかんなくて、すごいよなぁ。世界中のたくさんの人々を魅了する、大きな魅力だよなぁ。自分もそんな、脳内が得体の知れない、というか、さらにさらに深淵な自分だけの世界を広げる人間でいたい。
映画を観たり、絵画を観たりしていると、最も重要なのは「理解できたかどうか」ではないなと、ひとり思う。理解できたかどうか、だと、まるで正解が用意されているようで、観た人を客観的に理解できたできないで分けるようで、どちらに属しているか自分を試しながら観るから窮屈だ。「好きか好きでないか」で良いと思う。それを判断するのは、観る者のそれまでの経験や思い出、考え方、願い。自分だけの感覚で自由に観たほうが楽しい。「君たちはどう生きるか」を“理解“できたか?と聞かれれば、私も胸を張って「はい!」とは言えない。てかそんなのどうでも良い。観て心が揺さぶられ感動して楽しかった。劇場で観てよかった!それで良いと思うのです。
「ゾンビジブリにはしない」とパンフレットの長編企画覚書のページに監督の手書きで書いてある箇所がある。見つけて鳥肌が立った。名作を作り出してきた監督が、さらにまた新たな世界を創り出すということ。そこにたくさんの人が関わって、その世界をコンマ1秒1秒築き上げていくということ。もし可能ならパンフレットもガイドブックも手に取った方が良い。ガイドブックの製作陣のインタビューや対談も大変興味深い。監督がメインスタッフにした作品説明のページでもとても素晴らしく、物語を再び思い出し涙が溢れた。
今回の指輪は、青鷺を作った。色彩設計という仕事があるというのをそのガイドブックを読んで知ったのだが、青鷺の形はもちろん、色味も完全再現したい!という衝動に駆られ、挑戦してみた。ノートに絵に描いてみて、本物の鷺の形や作品の中での描かれ方も研究して作ったので自慢の作品です!ぜひ動画もご覧あれ。
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モチーフ:青鷺、ワラワラたち
音楽:米津玄師「地球儀」カバー
オルタナティブ・シンガーソングライターの〝美根〟です。
作詞作曲をして、ギターとピアノの二刀流で唄い、自分の世界を届けています。
「みねこ美根」名義で活動していた2018年から、OKMusicさんにてweb連載を続けてきた「映画の指輪のつくり方」。
たくさんお世話になったOKMusicさんのサイト運営終了に伴い、noteに移行して連載を続けています。
毎月、大好きな映画から一つ選んで、それをテーマに指輪を制作。
勝手に皆様へお薦めするレビュー文章、制作作業動画を公開中。動画では劇中歌のカバーも。ぜひ、楽しんでいってください。
私の本業である音楽活動など、さまざまな情報はこちらのリンクからがとても良きです。
私を知るためのキーワードは・・・
オルタナティブ、ライブ活動、ランプ、弾き語りスタイル、バンドスタイル、耳と脳にこびりつく作品たち、心火、焔心の砦、美術館でも展示された指輪たち、自作ストップモーションアニメ、MV、毎週水曜生配信番組、2024年5月24日と6月9日のワンマンライブ、人生初の弾き語りツアー・・・
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