母の背中をずっと見ていたから。
私は、都内でWebデザイナーとして働いている。
もうすぐ、新卒で入社してから3年が経つ。
幼い頃から、なりたかったデザイナー。私が、なぜWebデザイナーという仕事を選んだわけ。それは、母の背中をずっと見ていたからだ。
幼い私の塗り絵
「あー!もう、どうして!?塗り絵はこっちにあるでしょう!?」
キャッキャと笑いながら、私は部屋に逃げていた。
そうやって、幼い頃よく母に怒られた。
36色を超える、たくさんの色鉛筆に目を輝かせて、
私が手に握った色は、母のデザイン画をグチャグチャにしていた。
私の母は、いわゆるファッションデザイナーで。家には、母の描いたデザイン画がゴロゴロ転がっていた。幼い私にとっては、母のデザイン画は世界にひとつだけの私の塗り絵だった。
母は、いつもオシャレな服を身にまとい、女優のような帽子をかぶっていた。私にも、いつも可愛らしい服を着せてくれた。今思えば、ある意味良い英才教育だったのかもしれない。
いつも、東京に出かける時は、大好きだった画材屋さんで色鉛筆とスケッチブックを買って、帰りの電車でよく絵を描いていた。
私が、母と同じ道を志すのも自然な流れだったと思う。
夢に見た、服飾の道。
中学生の頃。私の夢は母と同じ学校に行き、服飾を学んで…いつか、自分のブランドを持つことだった。母の母校に行っている卒業生がいる高校を受験した。担任の先生からは、”受からない。無理だ。”と言われていたが、一生懸命、勉強をした。
なんとか無事に、高校に合格したときだった。中学卒業後、体調を崩して入院した。高校の入学式、約3日前のことだった。
あるとき、母が病室に来て、私に言った。
「あんた、このままだと高校留年するわよ?みんなと一緒に卒業、できないよ?」
その一言で、”頑張らなくちゃ”と思った。
そのあと、異常なくらいの回復をし、3ヶ月を予定されていた入院生活を1ヶ月半で退院した。
現実は、そう甘くなかった。
退院して、ある程度落ち着いた高校2年の秋。進路を考えるようになった。母と同じ服飾の道を、まだ諦めていなかった私は、頭を抱えていた。
入院後、ずっと服用していた薬の副作用で、ぶくぶく膨れ上がった体を見るたびに、母は「そんなんじゃ服飾なんて無理よ」と言った。
そうだよな…と、思いながら友人と服飾系の専門学校のオープンキャンパスに行ってみた。綺麗な学生達の姿と自分を見比べては、やっぱり無理だなぁと、諦めた。
でも、"デザインに関わる職業に就きたい"というふんわりとした願望だけが私の頭の中にあった。
Webデザインとの出会い
オープンキャンパスの帰り道。その系列の専門学校に目が行った。
何となく、名前を覚えていて、家に帰ってすぐに検索した。
当時の私には、衝撃だった。
Webデザインという世界に出会ったのは、そのときだった。
高校3年生の春。初めて、今の母校となる、専門学校のオープンキャンパスに行った。何となく、体験内容が楽しそうだったからという理由でグラフィックデザインの科に行く。楽しい、けど…それだけ。
次のオープンキャンパスで、Webデザインの学科に行った。体験内容は、映像とかだったけれど、先生の説明を聞いて、何となくこれかも、と思った。家に帰って、パソコンでWebサイトがまとめられているギャラリーサイトを見て、驚いた。
私も、こんなすごいサイトが作りたい!
そう思った。どうして、このサイトはすごい動きをするんだろうか?どうやったらこんなことができるんだ?私は、何となくではあったけれど、Webの世界に魅力を感じ始めていた。
専門学校に入学後、私はとにかく勉強した。周りのクラスメイトより、自分のデザインが劣っていると感じていたのもあったから。"努力を続けなくては"と、放課後も、駅前のカフェで課題の復習をしたり。家族や知人の手伝いとして、色んなデザインを経験していた。
卒業年次の時だった。卒業制作のプロジェクトで、私の役割は"エンジニア"だった。いわゆる、コーディング担当。
まぁ、そうだよね。と、理解していた。本当は、デザイナーとして、携わりたい気持ちがあった。でも、私にできる精一杯を頑張ろうと思った。
そして、今。
専門学校卒業後、今の会社に新卒で入社して今に至る。
学生時代よりは、デザインもコードを書くこともできるようになった。
今は、クライアントの会社に常駐し、直接クライアントの方と1つのサイトや販促物を作っている。
私の作ったモノがきっかけで、ユーザーが行動を起こすんだと考えると、とても重要な仕事だなと思う。
クライアントの方から、「あれ、好評だったよ!」と、嬉しい言葉を頂けることがあったりと、日々成長を感じている。
あの時、服飾の道に進んでいたら、と思うことがある。
でも、私はWebデザインを選んだことを一生後悔することはないと思う。
あの時、ファッションデザイナーになりたいと思ったことで、今の仕事を選べたし、Webの世界はとても面白い世界だと思う。
少し世界は違っても。あの日、見つめていた、母の背中を。
私は、ずっと追いかけている。