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創作 vol.3 「書く女」

私は書くことに取り憑かれた女だ。
自分で言うほどに。
でも、止めることはできない。
いや、そもそも止めるつもりもない。

一週間、寝食を忘れて書き続けている。
ただ、お分かりだと思うが、自分で「忘れている」と言っている時点で忘れてはいない。
忘れたふりをしているのだ。

人は水だけで一週間生きられる、と昔誰かに聞いた。
それならば私もできるんじゃないか、と思い、水だけで過ごしている。
わざわざ買い物に出かけなくても、水道の蛇口をひねるだけだ。

そして、一週間経ったら、食べる。

カレンダーの日付を確認し、それからおもむろに椅子から立ち上がる。
キャビネットの前に行き、戸を開ける。
そこには大量の乾パンが入っている。
一つの缶をむんずと掴み取り、蓋を開ける。
個体を一つづつ指でつまみ取り、口元へ運び、むしゃむしゃと咀嚼する。
美味しいのかどうかは分からない。
だが、書くためのエネルギーになってくれればそれでいい。

もう一週間分食べただろう、という感覚を得たら、再び机と椅子に戻る。

先程は「寝食を忘れて」と言ったが、それは少々正確ではない。
寝ることに関しては、さすがにゼロというわけではないからだ。

書いているうちに気づいたら目を閉じていた。
ふと目覚めると、時計の針の位置から数時間経っていたことが分かる。
これがどのタイミングで何回行われているのか、よく分からない。
しかし、こうして一週間生きられているということは、問題ないのだろう。

そして、また一週間、寝食を忘れて書き続ける。

この繰り返しが私の人生だ。
いつからかは覚えていないが、気が付いたら書いていた。

果たして、私は何をそんなに書いているのだろうか?
自分でもよく分からないのだ。
何を書いているのか。

だが、書いている。書き続けている。
今も、これからも、ずっと。

そう、ずっと。

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