映画のはなし:ただただ、ひたすらに美しい『落下の王国』
先日観た『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、世界を滅ぼす敵ジョブ・トゥパキを演じたステファニー・スーの衣装が石岡瑛子さん風のものもあり、とってもステキでした。
ということで、「石岡瑛子さん衣装デザインの映画、また観なきゃ!」と、大好きなターセム・シン監督『落下の王国』を観返す。相変わらず感化されやすい。
石岡瑛子さんはコッポラ監督『ドラキュラ』(1992年)でアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞、マイルス・デイヴィスのアルバム『TUTU』でグラミー賞も受賞されています。
ビョークの「コクーン」MVも石岡さん。
ちなみにラスベガスで観たシルク・ドゥ・ソレイユ『ヴァレカイ』(ビジュアルに一目惚れ!)の衣装も、石岡瑛子さんデザイン。
チャン・イーモウが芸術監督を務めた、2008年北京五輪の開会式衣装をデザインしたのも、石岡さん。
ステキなものはだいたい石岡瑛子さん。
東京都現代美術館で開催された石岡瑛子さんの大回顧展も本当に本当に素晴らしくて、「この空間に住みたい!」と思うほどでした。
今までのグラフィック・デザイン作品だけじゃなく、『ドラキュラ』『落下の王国』などの映画衣装、『ヴァレカイ』やオペラ『M.バタフライ』などの衣装展示もあり、ものすごく長居してしまった。
石岡さんの衣装は、クラシックで、デコラティブで、オリエンタルで、彩度も鮮やか。なのに重くなく、パキッと主張しつつも周囲との調和もとれている。ずば抜けたセンスはもちろん、しっかりと自分の芯を持っていて、かつバランス感覚にも優れた方だったんだろうな。
『落下の王国』は、ターセム・シンの変態的な映像美(最上級に褒めてる)と合わせ、石岡さんデザイン衣装のすべての魅力が楽しめる作品だと思う。
鉄橋から落ちるスタントで大けがを負い、半身不随となってしまった無声映画のスタント俳優ロイは、入院中に、オレンジの木から落ちて腕を骨折した少女と出会った。
人生に絶望し自らの命を断とうとするロイは、歩けない自分の代わりに、少女に薬を盗ませようとする。そして少女を操るため、でまかせのおとぎ話を少しずつ聞かせはじめる。それは、愛と復習のため、国も人種も違う6人の男たちが、ひとりの男を倒すまでの物語。
やがてこのおとぎ話は、少女に夢を与え、絶望の淵にいるロイをも救う、壮大な寓話になってゆく。
原題は『The fall』。
『落下の王国』という邦題は、芸術的でとても素晴らしい。
そしてなんと本作、嘘みたいな映像美で綴られているのに、グリーンバックを使ったCG撮影は一切なし。セットでの撮影もなし。
28カ国で撮影し、そのうち世界遺産は13カ所。
そしてこの素晴らしいロケーションに溶け込む、石岡さんの艶やかで官能的な衣装。
こんなの、ため息しか出ませんよ。
マジでどのシーンもB2ポスターにしたいくらい。
インドのタージ・マハルやチャンド・バオリの階段井戸、カンボジアのアンコール・ワットなどなど、「死ぬまでに行きたい!」と思う場所が続々と登場します。
嘘みたいに芸術的な場所や建築物って、世界にはたくさんある。
ちなみに万里の長城とかピラミッドとか、マジで1秒しか映ってないんじゃないの?ってくらい一瞬で終わりますからね。なんという贅沢!!
当時は「CG使ってないとかほんと~?」という話もあったらしいけど、YouTubeにアップされている舞台裏映像を見ると、マジで撮影したというのがよく分かります(そして少女役の子がかわいくて悶える)。
そしてこの映像美をさらに際立たせる、ベートーヴェンの交響曲第7番。
通称「ベト7」。第1楽章は、「のだめカンタービレ」をはじめ色んな映画やCMで使われています。
『落下の王国』で使われているのは第2楽章。
華やかで軽やかな第1楽章と違い、憂いに満ちた2楽章の旋律が崇高な映像と相まって、きゅっと胸を締め付けられるのです。
映画館で観られなかったのが本当に悔やまれる。「午前十時の映画祭」とかでやってくれないかな?仕事休んででも行きますよ!!
でも私、この作品を映画館で観たら、泣いてしまうかもしれない。
ただただ、ひたすらに美しい作品です。