心梳く本たち 2
実家の本棚に、読んでもらった記憶のない絵本がささっている。
おさるのジョージシリーズでお馴染みの、H・A・レイの絵が目をひく「ポケットのないカンガルー」。
アメリカの作家、エミイ・ペインの作品である。
おさるのジョージは大好きだったし、家にある絵本のほとんどは、読みきかせしてもらうか、自分で読んでいたはずだから、どうして覚えていないのか不思議でたまらない。
思わず抜き取り、ページを開いた。
偕成社から1970年に発行され、1994年に再版された改訂版。
対象年齢は、4歳からとなっており、6ヶ月の息子に読みきかせるには、幾分テキストが多そうだ。
物語を目で追いはじめて気がついた。
あぁ、これは母が自分のために求めた絵本なのかもしれないなと。
生まれつきポケットのないカンガルーのケイティが泣いている場面からはじまる。
その横で、息子のフレディも涙ぐんでいる。
愛する息子を抱えて走ることができないという、絶望的な状況のなかで、どうにかしようと、必死で教えを乞う母。
行く先々で、希望を打ち砕かれ、打ちひしがれる母を懸命に励ます息子。
母の悲しい顔を見るのが大嫌いなのだという。
息子を胸に抱いて走りたいという、ただ唯一の想いのために、恥も外聞も捨てて、未知の選択肢を迷うことなく、勇気をもって選びとる姿に食い入った。
子育ては、孤独だ。
そして、嫌でも自分の至らなさを痛感せざるを得ない。
スマートな母になれず、自分の無様な姿に自信を失ってばかりだ。
そんな時、息子を想うケイティの懸命さと、母を想うフレディの双方向の愛が、不完全な私に、力をくれる。
みんな何かが欠けている。
その凹んだ部分を、優しくおぎない、勇気づけてくれる。
絵本は、子どもに読みきかせるためだけのものではないと教えてくれた一冊。
くじけそうで、崩れおちそうなあなたに、私は、この本をそっと差し出したい。
麻佑子